第20話 生まれてからの3年間

 お母さんとの日々は幸せだ。


 基本夕方過ぎくらいに家に帰ってきて、夕食を一緒にとり水で濡らしたタオルで身体を拭いて、一緒に寝る。

 たまに夕食を取って「今日は~~の用事で当主様に呼ばれたのぉ~」と言って部屋を出ていく時があった。まぁ、お察しである。


 そう何度も色々なで呼び出されているが、エリーヌ自身が嫌でないなら、ライディは気にしないことにした。


 お腹を大きくしたエリーヌは幸せそうなので。


 ただ、貴族のご当主には、少し、いやかなり、自重してほしいものである。エリーヌは一応未婚だ。もうすぐ二児の妻になりそうだが。



 

 ライディはヘル迷宮国家に転生して3年、母に甘えてきただけではない。赤ちゃんながら少しでも成長出来るように身体を動かし、様々な物を見たり聴いたりした。


 最初の2年程は産まれた時の部屋からは出なかった。


 母は仕事で私を部屋に置いて出て行ってしまって正直暇な思いをしていたが、かなりの頻度で部屋に戻って世話をしてくれるので空腹で死ぬような思いをしたことはなかった。壁につかまり立ちを出来るようになってからは、部屋の中を一日に何周出来るかを毎日していた。


 その時期に腕立て伏せとか上体起こしと言った自分の知る筋力トレーニングを試みたこともあったけれど何もできなかった。ステータスの【筋 力】とかのせいと言うよりもそもそも赤ちゃんはそんなこと出来ないのかもしれない。


 なので、とにかく、つかまり立ちで部屋をうろつくのが日課となった。


 因みにつかまり立ちでの部屋の周回数の最高は2周である。半周もすると足がガクガクになってしまうのだ。


 壁を支えにしなくても立つことが出来るようになっても、体力はあまり変わらなかった。少し体幹が成長したくらいの物だったのだろう。


 エリーヌがいるときは片言でたくさん話した。


 エリーヌが産まれた竜王国の童話? 民話? を聞いたり、魔法を見せてもらったりした。


 手にマッチの炎程の大きさの火を出したり、水を少量出してくれたり、扇風機の微風程の風を当ててくれたりしてくれた。


 やはり魔法は地球の価値観から見るとかなり面白い現象だと思った。



 そんなこんなで2年程引きこもり生活を謳歌していた。2歳くらいになるとだいぶ歩けるようになり、会話も拙さはあるが出来るようになっていた。


 正直、2歳の赤ん坊がそこそこの会話を大人とこなせる事に違和感を抱かれてもおかしくない気もしていたのだが、エリーヌは気にした様子がない。エリーヌの母国語が前回と同じ竜王国語だからすぐに話せるようになったが、ヘル迷宮国の言語はまた違うようなので、エリーヌ自身まだ習得できていない為、ライディも良く分かっていない。ただ、迷宮国の言語は周辺各国の言語がかなり混ざったような言語であるらしい。

 

 流石、世界最大の迷宮都市国家と言われるだけはある。古くから迷宮資源を求めて周辺各国から旅人、商人、冒険者等が日々訪れる為、そのような言語体系になったのだろう。迷宮国語をマスターすれば他国言語もある程度は理解できるかもしれない。


 はっきり言ってまともなトレーニングは出来なかった。少し動くとすぐに眠気が襲ってくる為、この2年間の半分以上は寝ていたと思う。




 2歳になってから部屋の外に出ることが出来た。



 私がいた部屋はどうやら件の貴族の屋敷の数ある部屋の一つだった様だ。エリーヌと似た格好(メイド服)をした女性の使用人や執事服をビシッと決めた男性の使用人達がてきぱきと働いていた。彼ら彼女らはエリーヌと軽く挨拶を交わして、ライディの頭をなでたりして仕事に戻っていった。


 エリーヌに連れられてライディはある部屋に連れていかれた。


 その部屋を見ると結構広く、テーブルがあるスペースもあれば背の低い本棚があるスペース、ぬいぐるみや積み木などの遊具があるスペースがあったりと、日本で言うところの保育園や幼稚園などにある部屋に近い部屋だった。


 その部屋には私と同じくらいの歳の子供たちが何人かいた。見たところ2から6歳ほどの子供を集めた保育施設の様な部屋らしい。


 つまり2歳になったライディはこの部屋でこの子供たちと過ごすためにこの部屋に連れてこられたのだろう。


 確かに子供一人で部屋に放置し続けるのは子供なら良くない事だろう。勝手に動いて何を触ったり口に含んだりするか分かったものでないのだから。なら……。


 この部屋を見た瞬間に色々悟ったが、この年代の子供たちに精神年齢が高い自分が混じっておままごとや積み木とかをしていくのを想像するとこの時、微妙な気分になった。


 そしてエリーヌに連れられて部屋に入り、子供たちとの自己紹介もほどほどに子供たちに交じっていった。



 その子供たちが多くいる部屋、子供部屋で朝から夕方のエリーヌが迎えに来るまで過ごす日々が続いた。


 子ども部屋では子供たちとおままごとや積み木、黒板の様な物を使ったお絵描きなどで遊んでいた。

 3日に1回程、家庭教師の様な人が来て本を読んでくれたり、言い伝えや伝説、童話など教えてくれたりた。


 私がその人に文字を教えてほしいと上目遣いであざとくお願いしたとき(2歳)から文字の読み書きも少し教えてもらえるようになった。ただ、明らかに周りの子供より落ち着きがあり、聴き分けの良いところに不思議がられたが、そこらへんは特に問題はなかった。


 しかし、新しい知識を覚えていくことにはかなり苦労した。


 覚えてもすぐに忘れてしまうのだ。何回同じ文字を見て学んでも、なかなか覚えられない事に違和感を覚えて、色々考えた結果、ステータスに問題があるのでは? という結論に至った。


 この時のステータスは全てランクを「E」にしており、自分が地球で生きていた頃のステータスの【知 力】のランクが「C」だった頃の感覚と比べ、覚えが悪いのだと推測出来た。


 時間をかけて覚えてもいいがこの違和感がなんとなく嫌だったので、【知 力】のランクを「E」から「C」まで【EXP】を消費して上げた。通常よりも倍の【EXP】を消費したがまぁ、良いと思った。



【知 力】のランクを「C」にしてからは特に違和感もなく物事を学習できていたと思う。


 迷宮国語を少し読み書きできるようになったとエリーヌに話したら、エリーヌも3日に一回子供部屋に来る先生に文字の読み書きを教えてもらう様になった。


 小さい子供たちに混じってエリーヌ(大人)が真剣な顔をして絵本を読んでもらっている姿を見て私は何とも言えない気持ちになった。


 まぁ、お互い頑張ろう!


 こんな感じで私が産まれてから3年程が過ぎていったのだった。

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