第16話 留置場の刑事たち


 ◇side亀山警部


「亀山警部、落ち着いてくださいって!」


「これが落ち着いてられるかっ!」



 俺は怒っていた。

 現在余罪を追及中の葛森という男、弁護士を呼ぶまでは何もしゃべらないの一点張りで捜査はあまり進展がない。

 葛森の父親は政治家との繋がりが強く、その権力はかなりのものらしい。

 奴の地元では政治家や警察も表立って逆らえないとのことだ。

 どうも警察の上層部はそんな葛森家の倅を逮捕することに二の足を踏んでいるようだが、こんな奴を野放しにしておいては市民の安全など守れない。

 さすがに無罪とはいかないが、このままだと葛森が減刑される可能性がある。




「警部、落ち着いてくださいってば! 分かっていると思いますが殴っちゃダメですよ? 上の連中が丁重に扱えと……」


「はぁ? 女子供ばかり殺した連続殺人犯を丁重に扱えだと? クソったれが!」



 俺を宥めようとする部下に悪態をつきながら葛森のいる留置場へと歩く。

 人骨を調べた鑑識の話によると、被害者の数は最低でも20人近く、その全てが女と子供とのことだ。全く胸糞が悪い! 

 

 女子供ばかり狙うシリアルキラーの変態め!

 もうお偉いさんの思惑や出世など知った事か。

 俺が絶対にアイツの罪を全て明らかにしてやる!

 葛森のいる留置場へ繋がる廊下のドアを開けた時だった。



「――ぁぁぁぁっぁっつっ!!!!」



 ドアの向こうから凄まじい悲鳴が聞こえてくた。とても人の出したものとは思えない。聞くだけで身の毛がよだつ悲鳴だ。

 ほんの一瞬硬直したが、すぐに背後の部下とアイコンタクトをとって廊下へと飛び込む。悲鳴の元はどこだ?

 廊下を部下と共に慎重に小走りで進むと、猛烈な生臭さが俺を襲う。

 刑事になって二十数年、この臭いには覚えがある。

 血の臭いだ。



 慌てて向かうと、葛森のいる留置場の前に凄まじい量の血が溜まっていた。

 まるで血の池だ。

 近づくと留置場のの中心では葛森がうつ伏せで倒れていた。


「まさか自殺か!?」


「不味いですね! 自分、救急呼びます!」



 救急搬送を頼む部下を尻目に俺は慌ててカギを外して中に入ると、葛森へ駆け寄り、そして絶句した。



「な、なんだこれは!?」



 俺は葛森を見て頭が真っ白になった。

 葛森の表情は恐怖と苦痛に染まった顔つきで死んでいる。だが問題はその状態だ。

 なんと葛森の首から下はすべて骨だけになっていた。

 しかも全身の骨に噛み痕があり、どこか人の歯型にみえる

 おそらく何者かに襲われたと思われる。

 しかし、犯人の姿はない。一体どこへ行ったんだ……?


「な、なんですそれ……? こんなのどうやって……」



 唖然とする部下の呟きが耳に入るが、刑事歴二十数年の俺にも始めたのことだ。

 俺は何も言えず、応援と鑑識が駆け付けるまでずっと立ち尽くしていた。


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