第24話 また刑事がきた



俺は正直に答える。

「ええ、名古屋方面に向かいました」

「どういった目的で向かわれたのですか?」

杉田刑事が俺を見つめる。

俺はこれは長くなるなと思い、杉田刑事に言う。

「刑事さん、表の掛札ですが、準備中に変更するので少しお待ちください」

そう言って掛札を変更。

店内に戻って、3人でカウンターに座る。


「えっと、あまり言いたくないのですが・・その、私のアニメヲタク仲間に会おうと思って行ったのですが、途中で会えなくなったと言われたので、そのままトンボ帰りしました」

俺はそう答えた。

おそらく新幹線に乗った映像があるのだろう。

それに午後10時頃にも新大阪の駅の映像もあるかもしれない。

ならば俺のアリバイはある。

問題はないだろう。

一瞬でそこまで考えた。


「なるほど・・わかりました。 いつもすみませんね。 あ、何か飲み物をいただいてもいいですか?」

杉田刑事は言う。

「えぇ、わかりました。 コーヒーがメインですが、何かこだわりがありますか?」

「そうですね、ブレンドコーヒーをお願いします」

杉田刑事はそういうと、カウンターに座ったまま俺の動きを見ているようだった。

佐藤刑事は何も言わず、杉田の横で座っている。


俺が作業していると、杉田刑事が声をかけてくる。

「山本さん、昨日の夜に名古屋で資産家が惨殺された事件があったのですよ」

俺は作業する手を止めずに答える。

「あぁ、今朝のニュースでやってましたね。 一家全員が殺害されたとか・・」

俺はテレビの情報のまま伝えた。

「そうなんです。 その一家なんですがね・・山下裕二、この名前に聞き覚えないですか?」

杉田は俺の反応を試すような目つきをしながら聞いて来る。

俺は作業の手を止めてしまった。

そのままの姿勢で答える。


「刑事さん・・その名前、忘れられるわけがないですよ。 俺の両親を事故死させた奴の名前です」

俺の言葉に杉田刑事が軽くうなずき言う。

「えぇ、その通りです。 昨日、出所時期が短縮されて出所したばかりだったのです」

俺はコーヒーが出来上がったので、杉田と佐藤に出した。


「・・刑事さん。 それって、もしかして俺を疑っているのですか?」

俺は直球で聞いてみた。

杉田はコーヒーを一口飲み言う。

「このコーヒー、おいしいですな。 山本さん、疑っていないといえば嘘になります。 ですが、あなたが犯人だというのではありません。 代行者か何かに依頼したのではないかと思っているのです」

杉田がそう言うと、横にいた佐藤が驚いたような顔で杉田を見ていた。

「杉田さん・・」

佐藤はつぶやくように言葉を出す。


俺は軽く目を閉じ、開けて答える。

「刑事さん、もしそんなことができるなら方法を教えてもらいたいものです。 殺し屋なんてどうやって連絡するんですか? できるならしたいくらいですよ」

「いや、申し訳ない。 余計なことを言ってしまいました。 ただね、山本さん。 あなたの行動が不自然なのですよ。 名古屋へ行って犯行する時間はない。 どう考えてもそれは不可能なのです。 あなたは直接の犯人ではない。 だが、誰か代行者に依頼すれば可能なのですよ。 それだけなんですがね」

杉田は相変わらず俺を吟味するように見る。

俺は返答に困ってしまった。

この刑事・・俺が余計なことを言ったら、どこでつなげてくるかわからない。

とにかく妙な言葉は言わないことだ。


俺がしばらく沈黙していると、杉田の横の刑事が声を出す。

「杉田さん・・」

「山本さん、不快な思いをさせているかもしれませんが、これも仕事でね。 疑わしいことを振るいにかけて、確実なことを拾っていかなければいけませんからね。 失礼します。 あ、コーヒーおいしかったですよ」

杉田と佐藤はそう言って、コーヒー代をカウンターに置いて店を後にした。

俺は黙ったまま見送る。

あの刑事にはかなり注意が必要だな。

そう思いながら、カウンターのコーヒーカップを片づける。


◇◇


山本のカフェを出て、杉田と佐藤が歩いている。

「杉田さん、なにもあそこまで言わなくても・・」

佐藤刑事が心配そうな顔で言う。

「そうだな、悪かったよ。 だが、何というのか、ついつい言ってみたくなったんだ」

「杉田さん・・」

「佐藤、俺が見たところ山本は限りなくシロに近いが、確実じゃない。 何かこう、言葉で言えないモヤモヤしたものがあるんだよな・・」

杉田は言う。

「杉田さん、映像でも確認しましたが、犯行時刻には彼は新大阪の駅にいました。 直接の犯人ではありません。 それに彼の携帯がその時間にどこかとつながったという記録もない。 全くの別人の犯行だと僕は思いますがね」

佐藤は言う。

杉田はニヤッとしてながら、佐藤の言葉を聞いていた。

佐藤は思っていた。

どうも杉田さんはあの人にこだわるんだよな。


◇◇


刑事が帰り、カフェの掛札は準備中のままだ。

俺は今日は営業する気がしない。

そう思い、カウンターで自分で入れたコーヒーを飲む。

テレビは設置していないので、ラジオを流していた。


ラジオの放送を聞いていると時刻の案内をしてくれる。

『午前11時55分になりました。 J〇Nニュースをお伝えします。 新型コロナウイルスの国内感染ですが、政府は第2波の中にいると発表しました。 次に、中国とチべットの武力衝突ですが、規模が拡大しており国際社会は懸念表明を発表しております。 日本も注視して見ていくようです・・・』


俺はニュースを聞きながら、今まではチベット方面のニュースなどほとんど流れたことなどないだろうと、心の中でつぶやく。

日本の政治家は中国に気を使って、あまり悪いイメージの情報は流さない。

だが、少し変化したのか?

そんなことを思っていた。

あ、そういえば前にニュースでやっていたな。

50万人規模で部隊を派遣するとかどうとか。

俺はその情報を軽く考えていた。


◇◇


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る