第23話 重く残る想い
俺は腰からデス・ソードを取り出して、右手に握る。
「最期に・・何か言うことはあるか、山下裕二」
俺がそういうと、震える身体で泣きながら俺を見ていた。
「あぁぁ・・ご、ごめんなさい。 ごめんなさい・・」
俺は一瞬何を言っているのかわからなかった。
俺は、ふぅ・・とため息を出すとゆっくりと山下裕二の方へ歩いていく。
5歩も進めば目の前に到着できるだろう。
1歩。
山下裕二がビクッとなり、姉がその身体を抱えようとする。
2歩。
山下父が息子の前に出て来る。
3歩。
山下父は息子の前で、頭を床につけて土下座をしていた。
俺はそこで立ち止まる。
その姿を見て、余計に腹立たしかった。
こいつ、なりふり構わずになったな。
もっと自分達家族以外の命の重みを考えれなかったのだろうか。
4歩。
俺はデス・ソードを光らせ、山下父を背中から床へ貫いた。
山下父は即死だろう。
頭を床につけたまま動かない。
その状況を目の前で見ていた山下姉が両手を頬に当てて叫ぼうとする。
「きゃ・・・」
俺は、山下父からデス・ソードを引き抜き、そのまま山下姉の喉めがけて突きを入れて、即座に心臓部分にも突きを連続で入れた。
トサ・・俺の横の方で軽く音がする。
山下母はそのまま気絶していた。
俺は山下裕二を見る。
山下裕二はゆっくりと頭を動かして、状況を眺めている。
口の辺りはガクガクと震えているようだ。
5歩。
山下裕二は俺を見上げて何か言おうとしているようだが、言葉になっていない。
「・・わ、あわわ・・」
俺はデス・ソードを山下裕二の額に突き刺した。
そしてそのまま床へ移動させて、山下裕二を真っ二つにする。
さて、残るは母親だけだが・・どうするか。
少し迷ってしまった。
だが、止めを刺すことにした。
心臓に一撃。
この一撃だけは嫌な気持ちになった。
だが、すぐにその気持ちは薄れていく。
・・・
これで俺は偽善ですらなくなった。
部屋を見渡して、再び3階へ行く。
窓を開けて閉める。
俺は一気に飛んだ。
ドン!
どれくらいの距離をジャンプしのかわからないが、かなりの距離を移動しただろう。
着地すると、すぐに足のビニール袋を取り、小さくまとめた。
時間は午後10時前。
帰りは走って移動しようと思った。
俺は集中する。
「ふぅ・・・」
そのままほとんど全力で西方面に向かう。
移動速度はかなりのものじゃないのか?
それに俺以外の時間はほとんど停止しているだろう。
新大阪の駅が見えた。
ここら辺で集中力を緩める。
新大阪の駅構内に入って、時間を確認。
午後10時5分。
なるほど、俺の移動速度と時間がほとんど停止した状態なので、タイムロスがないというわけか。
駅で電車に乗り、自宅へ帰って来た。
午後10時30分。
家の中に入り、キッチンへ行った。
ポケットの中からビニール袋を取り出して、燃やす。
これで、怪しい所有物はないだろう。
ま、バレてもどうということはないな。
他の場所に移動すればいい。
俺はそんなことを考えていた。
風呂に入り、ベッドの上で今日のことを考えていた。
俺は単なる殺人者になってしまった。
あのイギリスの斬り裂きジャックのことを言えなくなってしまったな。
堕ちるのは軽いな・・。
山下裕二を殺害した時には、何の感情の起伏もなかった。
おやじもそうだ。
あの姉は・・まぁそんなものだろう。
ただ、母親。
そのまま生かしておいても良かったのではないか?
俺は首を振る。
いや、絶対に面倒なことになる。
証拠は限りなく残さない方がいい。
仕方ないとは言わない。
俺の意思でやったのだ。
その夜、俺はあまり眠れなかった。
次の日、俺は珍しく遅く目覚めた。
時間は午前9時。
昨日の嫌な感じは消えていた。
テレビのニュースをつけてみる。
『・・・以上、現場からでした』
テレビ画面には、立ち入り禁止のテープが張り巡らされている大きな家の映像が流れていた。
俺はその画面を見て、あれ? どこかで見たような・・そう思っていると思い出した。
山下の家だ。
規制テープが家の周りをぐるっと囲っているようだ。
その映像を見ながら、MCとコメンテイターが情報を伝えていた。
『・・はい、今のところ分かっているのは、名古屋の資産家、山下さん一家が惨殺されたわけですね』
『えぇ、そのようです。 それにしてもひどいことをしますねぇ。 何か鋭利なもので一突きだとか・・』
『いったい誰が何の目的で犯行に及んだでしょう。 猟奇殺人なんかを何件も扱った犯罪心理学の米沢先生に聞いてみたいと思います。 米沢先生・・』
・・・
・・
俺はテレビを見ながら思っていた。
勝手なことを平気で伝えるんだなと。
それにしても、侵入経路が不明だとか話している。
3階だけは窓が開いていたとか。
また、金品を奪っていないところを見ると怨恨によるものが疑われるという。
ただ、近所の聞き込みでは、地元でも評判が良く悪い話を聞いたことがないというものだった。
違うチャンネルはどうだろう?
俺はパッパッパ、とチャンネルを切り替えてみる。
画面に表示される文字には、名古屋資産家惨殺事件とどれも表示されている。
一つだけ、海外のニュースを扱っているものがあった。
やはり芸人などがMCをしている番組が多い。
この番組もそうだ。
フランスの魔法使いとアメリカのスーパーマンが取り上げられていた。
『・・さて、次はこちらのニュースです。 フランスで魔女が復活。 本物の魔法使い現る!』
『えぇ~、まさかそんなのいるわけないじゃないですか』
『はい、そう来ると思ってました。 まずは論より証拠。 こちらの映像を見てください』
司会が盛り上げつつ番組を進行しようとしている。
俺は流れた映像を見て驚いた。
もし、これが本物なら俺と同じようなグループになるが・・あ、思い出した。
イギリスの青年が言っていた。
フランスにもそういった人物が誕生していると。
これか・・俺はそう思って丁寧に映像を見なおしていた。
何度も、同じ映像が配信されている。
テレビではそれを見せられたコメンテイターが反応する。
『これってCGでしょ? ARか何かですかね?』
『それがですね、事実みたいなのです。 僕も見たわけじゃないのですが、現地の調査員の報告によると、目の前で連続で起こっているようですよ。 それに瀕死の人が完全に回復したのですから』
確かにそうだ。
俺はそれを思った。
車の事故で跳ね飛ばされていた人がいた。
その現場に、仮面をつけた子が近寄って行く。
すると、すぐに跳ね飛ばされた人が何事もなかったかのように立ち上がり、歩いて行った。
やらせか?
そう思って見るがそんな雰囲気ではない。
やらせにしては、タチが悪すぎるだろ。
テレビでは、作り物だ本物だと始まっていた。
これで午前中は答えもなく、面白く番組を作って行くのだろう。
さて、俺はカフェの準備をする。
準備をしながら重い気持ちが抜けない。
・・俺は完全な殺人者になってしまった。
俺の心に一応線引きはしていたはずだった。
守れなかった。
特にあの母親は重かった。
・・・
いや、違う。
あの母親は自分の子供のことだけを考えていた。
どこの親だってそうだろう。
だが、あの山下裕二は俺の両親を自分の無謀な運転で殺したんだ。
あの母親は、子供の刑務所時代を振り返るのではなく、いくら出所したからと言っても、あなたの罪は消えないよと言う立場ではなかったのか。
父親にしてもそうだ。
自分の力をフルに使って、子供の服役刑期を短くした。
つまり、俺の両親の二つの命のことなど頭の中になかったということだ。
・・・
これが逆の立場なら、俺の両親は俺に対して言うだろう。
お前の犯した罪は、お前が死ぬまで消えることはないよ。
それを常に頭において、被害者の方にどれだけ言われても耐えなければいけないよ、と。
俺はそう考えると、何だか気持ちがスーッと楽になっていった。
自分勝手な都合かもしれないが。
カフェの準備も終わり、ドアの看板をオープンにする。
時間は午前11時前。
カラン、カランと入り口のドアが開いてお客が入って来た。
「いらっしゃいませ」
俺が声をかけると、入って来た客は帽子を取りながら軽くお辞儀をする。
あの刑事2人組だ。
俺はカウンターから出て行って、刑事のところへ行った。
「刑事さん、こんにちは。 何かあったのですか?」
俺は聞いてみた。
「山本さん、あなた昨日の夜に名古屋へ向かわれましたね」
杉田刑事がうなずきながら言う。
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