第10話 こいつらはアホだな。



商店街を抜けた小さなビルの窓に字が見える。

う~ん・・いかにもうさんくさい事務所だよな。

何とか探偵もこんな感じだが。

そんなことを思いながら、1階の事務所の入口のドアの前を通り過ぎる。

なるほど、防犯カメラがあそこと、あそこにあるな。

俺は行き過ぎてから集中する。

ふぅ・・・。

防犯カメラを一気にすべて潰していった。

映像に残っても解析できない時間だろう。

何せ、弾丸が止まって見えるくらいの時間の圧縮だ。

その中でかなり速く動いたのだから。


さて、改めて事務所の入口のドアの前に来てみた。

ドアを引いてみるが、鍵がかかっている。

呼び出し用のインターホンがある。

俺はそれを押してみた。

ピンポーン!

・・・

しばらく待っているが、応答がない。


留守なのかな?

そう思って、もう1度押す。

ピンポーン!

・・「何か?」

少し遅れて返事があった。

「あ、こんにちは。 村井龍三さんいらっしゃいますか?」

「・・・」

俺が聞いても返事がない。

まだマイクはつながっているはずだ。

「あの・・村井・・」

俺がそういうと相手が言葉を被せてくる。

「どんな要件で?」

面倒くさそうな感じだ。

「えぇ、実はある女の子の事件で調査している刑事さんの使いで来たのですが・・」

俺がそういうと、ドアの鍵が解除されたようだ。

ガチャ。

「どうぞ」

声がインターホン越しに聞こえた。


俺はドアを開け、階段を上って行く。

階段の上の事務所の前に来た。

村井組。

入りづらいな。

普通の人なら入れないんじゃないか?

俺はそう思いつつ、ノックをしてドアを開けた。

「失礼します」

そう言って入って行く。


入ると人が2、3人くらいが座れるくらいの待合室のような空間がある。

その横にもう一つドアがあった。

またノックをして入って行く。

「失礼します」

ドアを開けてみると、真正面に壁がある。

左を向くと広い空間が広がっていた。

俺は直感的に思った。

突然の侵入に対しての対策かと。

広い空間に黒いソファが並べてある。

そこに2人男が座っていた。

ソファに座っている一人は警察と探偵の情報から聞いていた奴だ。

なるほど、ここで犯人のうちの2人はいるわけだ。

その奥に社長机のような大きな机に肘をついて、男がこちらを見ていた。

村井龍三だ。


社長机に座った村井が俺をジッと見ている。

俺はお辞儀をして、えて聞いてみた。

「どうも、こんにちは。 村井龍三さんという方はどなたですか?」

俺がそう言うと、ソファに座っていた男たちが笑う。

「フッ、兄貴、何やら呼んでますぜ」

兄貴と呼ばれた、社長机に座っている村井が、ニヤッとしながら答える。

「俺が村井龍三だが、いったい何の用ですかな?」

結構威圧感あるよな。

普通の人なら、この雰囲気で詰むぞ。

そんなことを俺は思ってみる。


「はい、先程も申し上げましたが、とある女の子が襲われた事件がありまして、それを調査しているのです」

俺がそう答えると、ソファに座っている男2人が真剣な顔で俺を見る。

「あんた、警察関係の方ですかな?」

村井が聞いて来る。

「いえ、違います。 その女の子の知り合いです」

俺がそう答えると、村井の緊張が少し緩んだような気がした。

「そうかい・・で、そのあんたが何を知りたいのかね?」

村井の雰囲気が威圧的に聞いてくる。

「えぇ、真実を」

「真実? 前に警察にわざわざ任意同行して答えてきたんだがな。 それが真実だよ」

村井はそういうと、手を振って帰れ、帰れとする。


「村井さん、本当ですか? 女の子はみんなに犯されたと言ってますがね・・」

俺は探るように言う。

その一言で村井の目が刺すように俺を見る。

「おっさん、言葉に気をつけろよ。 俺がやったと言っているのか?」

「いえいえ、そういうわけではありません」

俺がそう答えると、ソファに座っている男の1人がしゃべってくる。

「じゃあ、どういうわけだ、あぁ?」

俺がソファーの男に目線を移すと、今しゃべった男の向かいに座っている男がテーブルの上に黒い塊を置いた。

明らかに銃だ!


こいつらアホだろ?

俺は別にひるむでもなく、話を続けた。

「村井さん、本当に女の子に乱暴してないのですか? 女の子、ビルから飛び降りたのですよ」

俺がそういうと、村井が少し身体を前に乗り出して来た。

「ほぅ・・で、その女の子は死んだのか?」

「いえ、運よく少しの怪我で済みました」

俺が答えると、村井はうなずきながら言う。

「なるほど、それで正義の味方のあんたが探りまわっているわけだ。 さっきも言ったが、俺は何も知らん。 それに警察にもきちんと報告はしている。 それだけだ」

俺は頭をきながら言ってみた。

「村井さん、警察でもあなた方が犯人で間違いないと断定しているんですがねぇ」

「おっさん、証拠はないんだろ?」

村井が言う。

俺は黙って聞いていた。


村井がニヤッと笑ったような感じがする。

「おっさん、証拠もないのに人を疑うなよ。 その女の子が何を言ったか知らんが、俺は何もやっていない」

俺はそれを聞きながら、ソファに座っている奴に目線を移す。

犯行の時にいたであろう奴だ。

「あんた、警察からの情報でわかっているんだが、現場にいた人でしょ?」

俺が聞くと、ソファから立ち上がる。

俺の目線が下からゆっくりと上向きになる。

でかいな・・180センチは超えているんじゃないか?


「おっさん、社長は何も知らんと言っている。 俺も知らん。 もう帰った方がいいだろ?」

俺はここで少しハッタリを言ってみる。

「知らないか・・でも、あんたらバッチリ防犯カメラに映っているんだがな。 警察でも言われなかったか?」

俺がそういうと3人の雰囲気が変わった。

「おっさん、あまりチョロチョロしていると危ないぞ」

俺を見下ろしながら言って来る。

その後ろから村井が声をかけてきた。

「おっさん、こっちもおとなしく付き合ってやっているんだ。 ここら辺で帰った方がいいだろう。 別におっさんが困るわけないだろ?」


俺はもういいか、という気持ちになっていた。

どうせ、いくら会話しても犯行を認めることもない。

「そうだな。 俺は困らんが、お前らのような存在が臭(くさ)いんだよ」

「「「・・・?」」」

俺の言葉に反応できてないようだ。

「おっさん、何て言った?」

ソファに座っていた男も立ち上がりながら言う。


俺は繰り返す。

「あぁ、お前らの存在で地球を汚すなと言ったんだ」

どうせこいつらに聞いても、まともな回答なんてあるわけがない。

「んだと、てめぇ!!」

そういって、初めにソファから立ち上がった大きな男が俺に手を伸ばしてきた。

ドン!

俺はその腕を叩き折った。

俺の手には黒い皮のグローブをつけている。

男の右肘から手首にかけてまでが変な方向に曲がっていた。

「う、うがぁ・・」

男が左腕で右腕を抑えながらソファにしゃがみ込む。


!!

「な、なんだ? おっさん、何をした・・」

村井が席で立ちあがっていた。

ソファに銃を置いたやつが銃を取り、俺に向けて来る。

「おっさん、ちょっと痛い目みろや!」

そう言って銃の引き金を引いた。

サイレンサーがついているのでそれほど大きな音はしない。

プシュ、プシュ!

俺の太腿辺りを狙ってきたのだろう。

だが俺も集中力を高めている。

ふぅ・・・。


男が発射した銃弾が2つ並んで俺の足の方へ向かっていた。

俺はその軌道から外れて、男から銃を取り上げる。

その男の背後に回って蹴り飛ばした。

集中力を緩める。

ガシャーン!

俺に蹴られた男が吹き飛んで事務棚みたいな壁に激突。

ソファには銃弾の後がついていた。

俺に蹴られた男は、その場でピクピクしている。


俺は村井の目の前にいる。

村井がビクッとなり、後ろに下がってそのまま椅子に座る形になった。

俺はそのまま村井を見つめて聞いた。


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