第11話 珍しい苗字だな



「村井さんよ、証拠がないってどうしてわかっているんだ? 何をした?」

俺は銃を村井に向けていた。

村井は俺が撃てないと思っているようだ。

「おっさん、慣れないことはやめろ。 銃なんて使ったことないだろ」

村井は焦っているようでもあり、冷静でもある感じで言ってくる。

俺はこいつらが確実に犯人だという確証を持っていた。

もし事実じゃなかったらどうなるか?

俺は単なる殺人者だ。

だが、こいつらの余罪はたくさんあった。

村井の経歴はロクなもんじゃない。

だからこそこいつを一番先に選んだのだが・・ほんとにこいつは居ただけで関わってないのかな?

ほんの少し俺の頭にそんな考えがよぎる。


俺は銃をその場に起きて、先程蹴飛ばした男に近づいて行く。

まだ生きているようだ。

その男の心臓辺りに右手で掌打を繰り出した。

ドン!

男が少しビクッとなって動かなくなる。

口から血が溢れて来た。

心臓が破裂したはずだ。

人に向けて銃を放ったんだ。

完全な正当防衛だろう。

俺はゆっくりと振り向き、村井の方へ近づいて行く。


「村井さん、あの男は死にましたよ。 人に銃を向けて発砲までしたのですから、当然ですね」

俺がそういうと、村井が少し驚いているようだった。

「おっさん、いったい何者なんだ? それにあいつは確かにお前に向けて発砲したはずだ。 どこにも当たっていないはずがない。 こんな至近距離で外すはずがない・・」

村井がそういうと、ソファで俺が腕を折ったやつが俺の後ろへと歩いてきた。

「ぐぅ・・兄貴、このおっさん変ですぜ。 俺の右腕が完全に折られています」

村井はそれを聞きながら、俺に銃を向けて迷わず発砲。

プシュ、プシュ、プシュ!


俺は同時に集中力を高めていた。

俺の後ろの奴を俺の前に移動させて、銃弾が命中する位置に設置。

俺は村井が撃った銃を取り上げて、机の上に置く。

集中力を緩める。

バシュ、バシュ、バシュ!

「「え?」」

村井とでかい男が同時に言葉をつぶやく。

でかい男に銃弾が当たり、そのまま前へ倒れ込んだ。


「村井さん、やっちまいましたね」

俺が一言。

「あぁ・・いったい何が? あれ、銃はどこに・・」

村井はキョロキョロとして、机の上にある銃を見て驚いていた。

「いや、今、俺が撃ったはずだ。 銃を置いてないぞ?」

明らかに混乱しているな。

俺は村井がブツブツつぶやくのを聞いている。


俺はそのまま村井の右腕を叩き折った。

ドン!

「うぎゃぁ!!」

村井がうめく。

ついでに左腕も折る。

「がぁ!!」

村井が机の上に突っ伏しながら両腕を振るわせて俺を見る。

「お、お前・・いったい何者なんだ? それにこんなことをして、タダで済むと思っているのか?」

俺は机の上に上がり、村井の顔を軽く蹴り上げる。

ガシャン!

村井はそのままのけ反って、椅子に座る感じになった。


「村井さん、女の子・・やったんでしょ? それに証拠を一つも残さないってどういうことですか?」

俺は机の上にしゃがみ聞いている。

「うがが・・」

「村井さん、死にますか?」

俺が言うと、村井が顔を横に振る。

「・・言う、言うからちょっと待て」

そういうと、椅子に座り直して俺を見る。

「お前の言う通り、俺たち全員でやったよ。 ゴ、ゴムだ。 ゴムを全員初めから使っているんだよ。 手にもあそこにもな。 これでいいだろ、な、助けろよ・・」

村井がそう言い終わらないうちに、村井の心臓に掌打を放つ。

村井の口から血が流れ出していた。


俺はそのまま事務所を後にする。

さて、医者とサラリーマンと公務員を残すのみだな。

時間は午後4時30分を過ぎていた。

俺は歩きながら思う。

医者がいるのなら、手術用のゴム手袋などを使い、犯人たちの遺留物の残る可能性は限りなくゼロに近づけるだろう。

変な意味、優秀なやつだな。

それに、今までも余罪はいくらでもあるんじゃないか?

一度味を占めたらやめられるはずがないだろう。

そんなことを思いながら公務員のところへ向かう。

市の職員のようだ。

夙川和人しゅくがわかずと、珍しい苗字だな。

地名から由来か?

ま、どうでもいい。


もうすぐ課業終了時間だが、夙川がいる市庁舎に来ていた。

俺は簡易的に変装はしている。

こんな新型コロナの時期なので、マスクはしていても不審者がられることはない。

手には村井の時に使っていた皮の手袋をしている。

伊達メガネもかけて、帽子をかぶっていた。

市庁舎の受付のところへ行き、夙川和人さんという方はどこですか? と聞くと、別に不審がるわけでもなく調べてくれて教えてくれた。

案外、緩いな。

そんなことを思いながら、教えてくれた2階の税務課へ向かった。

税務課の受付で、俺は夙川和人を呼びだしてもらう。


受付が電話をして、それほど時間をかけずに夙川が現れた。

夙川は受付に軽くお辞儀をして、ゆっくりと辺りを見渡して自分を呼び出した人を探している感じだ。

俺が軽く片手を挙げて、近寄って行く。

夙川は笑顔で対応してくれる。

この顔だけを見ると、とてもあの女の子を襲ったようには見えない。

むしろ、逆のイメージだ。

まぁ、関係ないな。

「夙川さんですか、佐藤といいます。 実は携帯に届いたメールを見ていただこうかと思いまして・・」

俺はそう言って、自分のポケットから携帯を取り出して、画面を見せた。

夙川は、一瞬ビクッとなったが、すぐにその動作を悟られないように笑顔で対応。

「わかりました佐藤さん、どうぞこちらへ」

そう言って、受付カウンターから出てきて税務課の横に設置してある簡易応接室らしきところへ案内してくれた。


夙川に見せた画面にはこう書いてあった。

『女子高生を犯したのは、村井以下あなた方5人でしょ?』


応接室に案内されて俺はソファに座る。

俺の真正面に夙川も座った。

夙川は少し落ち着きがない感じだ。

俺は少し様子を見ていたが、言葉を出す。

「夙川さん、あの女の子、飛び降りて自殺しようとしたのですよ」

俺の言葉を聞き、少し驚いたような感じだったが、それ以上に自分のことが気になっている感じだ。

夙川はソワソワしながら俺を見て言う。

「そ、そうなんですか・・で、その女の子は無事だったのですか?」

「えぇ、無事軽傷で済みました」

俺がそういうと、夙川は軽くうなずいて聞いて来る。

「佐藤さん、それで私にどうしろとおっしゃるのですか?」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る