第8話 ソフィア





杉田は言葉を失っていた。

「杉田さん・・杉田さん! 聞いてますか?」

佐藤が画面越しに笑いながら言う。

「杉田さん、僕も初めは笑って聞いていたのですが、事件の詳細を知っていくと本当に魔法を使っているとしか思えないような事件があるのです」

杉田は不思議と笑う気にはならなかった。

佐藤の話を聞いている。

「まだ、聞いただけの話が多いのですが、人が空中に浮いていたとかあるのです。 それも人通りの多い中でです。 映像もあるのですが、CGかと思いました。 後は手の平から炎を出して牛を丸焼きにしたりしてましたね。 マジックかと思っていたのですが、どうも違うような感じもします。 他にもその人のいろいろな映像があるのですが、まだ全部見れていないのです。 それが今のところ、僕の調べたところですかね」

話し終えると、佐藤が疲れてるように見えたのは気のせいではあるまい。


「佐藤、本当にご苦労だったな。 まだ滞在期間は残っているだろう。 できるだけ情報を集めてくれ。 しんどいだろうがな」

杉田はそう言って、佐藤をねぎらうとPCの前から離れる。

席から離れるとPCの画面が自動的にオフになる。


杉田は自分の席に戻り、考えていた。

やはり俺たちの知らない何かが起きているのかもしれない。

杉田は頭をゆっくりと左右に振る。

いや、危険で安易な考えだ。

確実に状況証拠を積み重ねて事実をなぞらなければいけない。

そう思うと椅子に背を持たれさせ、天井を向いていた。


◇◇


<フランスの郊外、山本がデスソードを受け取った頃>


自宅の一室で10代後半だろうか、きれいな金髪の女の子がオンラインゲームをしていた。

部屋のドアの外で声が聞こえる。

「ソフィア、もう寝なさいよ。 明日も大学あるのでしょ?」

「うん、わかってるわママ。 おやすみ」

「おやすみ」


ソフィア。

小さい時から日本のアニメに憧れて、特に魔法使いなどのアニメが大好きだった。

フランスで行われているコスプレイベントにも欠かさず参加している。

ソフィアが、コスプレをすると本当のアニメキャラのような感じに見える。

動かなければ、どこかのフィギュアじゃないかと思うほど整った顔立ちとスタイルだ。

ただ、痛い。

痛すぎるほど魔法少女化していた。

常に妄想の世界に入っていると言っていいくらいだ。

オンラインゲームでも魔法使いを使って暴れまわるヘビーユーザーだった。

大学の授業でも、神話や東洋文学を学び日本に関する事案を手当たり次第学んでいた。


そんなある日、寝ていると夢か起きているのかわからない感じで目が覚めた。

身体は動かない。

気が付くと、ベッドの横に白い服をまとった人らしきものが立っている。

ソフィアは驚いたが、怖くはなかった。

その白い服を纏った人は、しばらくソフィアを見つめていたが動くことなく語り掛けて来た。

『君は、魔法使いになりたいのかね?』

!!

ソフィアはいきなりのことで言葉を失っていた。


『な、何? これは夢なのかしら。 でも、しっかりと考えられている。 明晰夢めいせきむというやつ?』

ソフィアは頭の中でいろいろと言葉を浮かべて考えている。

身体は動かない。

白い服を纏った人がまた語り掛けて来る。

頭の中に直接響くような声だ。

『君は、魔法使いになりたいのかね?』

同じセリフだ。

ソフィアは考えてもわからないので、とりあえず答える。

それに危害を加えらそうな感じでもない。

『そ、そうよ。 魔法使いになりたいわ。 でも、そんなの無理でしょ!』

ソフィアは逆切れぎみに話していた。


『魔法は超科学だ。 素養があれば誰でも使うことができる』

白い服を纏った人は言う。

ソフィアは驚いた。

変な人がいるという言葉は消えていた。

魔法は誰でも使うことができるって言ったかしら、どういうこと?

やはりこれは夢なのかしら。

ソフィアがそう思うと、白い服を纏った人は言う。

『夢ではない。 君にはその素養がある。 魔法使いになりたいのだね?』

ソフィアは少し考えて答える。

『えぇ、なれるものならなりたいわ』

『君の願いは叶えられた。 後はその腕輪が教えてくれるだろう』

白い服を纏った人がそう言うと、ソフィアの視界全体が白い霧みたいなものに包まれていった。

・・・

・・

朝5時。


ソフィアが目覚める。

「今朝はとても早く目が覚めたわね。 昨日の夢、変な夢だったわ。 魔法使いになりたいかですって? なりたいに決まってるじゃない。 それが私の人生だから・・でも、バカみたい。 わかってる。 私は妄想に生きる人間だということはね。 外であまり変なことをすると病院へ通わなくてはいけなくなる。 それだけは勘弁してほしいわ・・」

ソフィアはベッドの中で目を開けたままいろいろと考えていた。

時間は午前5時30分。

30分も変な考えをしていたわけだ。


さて、起きよう。

ソフィアがベッドに腰かけると、ベッドからゴロンと床に何かが落ちた。

転がってゆき、壁に当たって止まる。

見たこともないリングだ。

ソフィアは立ち上がり、そのリングの方へ近寄って行く。

!!

「これって、腕輪じゃない! え、えぇぇぇぇ!! もしかして、あれは夢じゃなかったの?」

ソフィアは両手で頬を押さえ、驚きと狂喜がこみあげてきていた。

しばらくその場でつっ立ったままの状態でいた。

ハッと我に返って、転がった腕輪にそっと触れてみる。

チョン!

指先でタッチしてみる。


特にビリッとしたりするわけじゃない。

そう思うとソフィアは腕輪を拾い上げた。

そのままゆっくりと持ち上げ、いろいろと眺める。

金色を基調に、訳のわからない模様のような文字のようなものが刻まれている。

・・・

見つめていてもらちがあかない。

ソフィアはおそるおそる左腕に腕輪と通す。


!!

ソフィアの左腕にキュッと吸い付いたかと思うと、そのまま腕と融合していった。

「え? な、何? ちょっと・・・」

痛みなどは何もない。

ソフィアの頭の中に一気にいろんな情報が流れ込んでくる。

・・・・

・・

「はぁ、はぁ、はぁ・・・本当に魔法なんて使えるのかしら」

ソフィアは急いで右手で左腕の腕輪があった辺りを触ってみたが、既に腕輪はなくなっていた。

その代わり、腕に見たこともない文字が刻まれていた。


ソフィアはその文字を右指でなぞりながら思う。

不思議と焦りはない。

魔法は超科学って言ってたわね、あの人。

私に素養があっても十分な修練を積まないと意味がないようだし。

情報によると、魔法は超高度文明における知力の結晶だという。

本人のイメージを具現化させる法則。

自然に存在している元素などを利用して、その組み合わせで様々な現象を起こす。

そのイメージに必要な元素を集める装置がこの腕輪らしいけど、詳しくは使いながら学べってことね。

なんかすごいのか、いい加減なのかわからないわ。

でも、いったいあの白い服の人はなんだったのかしら。

現実にこんなものがあるけど・・まさか日本で流行っている異世界転生のことって、事実なの?


ソフィアはいろいろ考えていたが、まずは魔法を使ってみようと思った。

ベッドに腰かけて、両手の平を上に向けてその中に炎が揺らめくイメージをしてみた。

ソフィアがゆっくりと集中していくと、手の平の上でユラユラと蝋燭(ろうそく)のような火が現れると火が大きくなってきた。

「きゃあ!」

ソフィアが両手を振り払うと、炎は小さくなって消えて行った。


タッタッタッ・・ドンドン!

「ソフィア! どうしたの、ソフィア! 開けるわよ!」

外からソフィアの母の声がする。

「おはようママ、違うの! 虫がいたから驚いただけ」

ソフィアが答える。

「虫? そう、もうすぐ朝ご飯だから起きてきてね」

「うん、わかったわ」

ソフィアはそう答えながらも、だんだんとうれしさとワクワクがこみあげてきた。

本当に、本当に魔法が使えるんだわ。

あの白い人が何者かしらないけれど、これからの私の人生は最高になるわ!

ソフィアはとてもうれしそうな顔をして服を着替えていた。


その後、ソフィアは人知れず魔法の練習を重ねてゆき、ついに街中でデビューをした出来事を佐藤刑事が耳にしたのだった。

ソフィアは大学の授業を受けていたが、もはやほとんど頭に入らなかった。

考古学に精通している先生などに、自分の腕に浮かび上がっている文字を紙に書いて見せてみたことがあった。

興味深く見ていたが、見たこともない文字だそうだ。

ルーン文字に近いというが、意味が読み取れないという。

そうかと言って、ランダムに並んでいるわけでもない。

先生はソフィアにどこでこんな文字を見つけたのかと聞いてきた。

ソフィアはオンラインゲームの神殿にあったものだと回答。

先生は少し呆れていたが、それ以上は追求してこなかった。

ゲームと聞いた途端に興味を失ったのかもしれない。


ソフィアは腕輪を手に入れてからいろんな魔法を試した。

基本は自分のイメージがしっかりとしていること。

驚いたのはアニメなどの魔法使いが使えるような治癒魔法だ。

きれいな元通りのイメージを描くと、緑色に光り本当に回復していた。

家の近くの猟犬が罠にかかって右後ろ脚を損傷。

ソフィアと仲良くしていた犬だった。

何となく犬の気持ちがわかるような気がした。

誰もいないときに犬のところへ行き、傍(そば)でしゃがんでみた。

犬は足を引きずりながら近寄って来て、ソフィアをペロペロ舐めてくる。


ソフィアはそっと犬の足に手をかざし、犬の元気な時をイメージして集中力を高めていった。

すると、手をかざしたところがほんのりと緑色に光り、しばらくとすると犬の足が完全に回復していた。

犬は尻尾を振りながらソフィアの周りを駆け回る。

ソフィアは立ち上がり、家へ帰ろうとすると立ち眩みがおこる。

片膝をついてしゃがんでしまったが、しばらくすると回復。


犬の足を完全に回復するような魔法を使うと、かなり疲労するみたいね。

ソフィアはそう思うが、毎日いろいろ練習を繰り返す。

知らない間に立ち眩みなども起きなくなった。

ゲームでいえば、基礎魔力が向上したといえばいいのだろうか。

そして、いろんなことができるようになるとデビューをしたわけだ。

顔は仮面で隠したままだったが。


◇◇


<日本、山本の家>


午前6時。

朝のニュースを見ていた。

相変わらずトップニュースは新型コロナウイルスのことだ。

国内では小規模な人数が騒がれている。

今は国外から一般旅行者は入国させていないはずだ。

結構なことだ。

だが、国外では凄まじい勢いで未だに広がっている。

もう半年が来ようとしているのに、収まる気配がない。


ニュースを見ていて思うのは、海外の変なニュースだ。

イギリスの猟奇殺人は犯人が捕まらないという。

過去の事件もそうじゃなかったか?

また、フランスでは魔法使いが現れるとか・・ほんとか?

ただ、俺は次のニュースが新しい。

中国で死者が動いているというニュースがあった。

あれ? 

むか~しにキョンシーなんて死霊術があったよな?

そんなことが頭をよぎる。

インドのトラの事件も増える一方だ。

トラってレッドリストに載ってる動物じゃなかったか?


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