第7話 現実離れしている
<ヨドマシカメラにて>
少し見ていると、どうもこの人物はその力を元にして人助けを多くしているようだ。
それで現代版スーパーマンだとか、ヒーローだとか最近話題になっているという。
この人も俺のように死神を見たのかな、なんて思っていた。
それにしても、海外の人は平気で自分の存在をアピールするよな。
そう思いながら俺は考える。
こいつもどんどん自分が強くなっていっているのだろうか。
脅威だな。
だが、どうやら俺だけではないようだ、そんな感じがする。
俺はこのニュースを見ていて、新しいゲーム機のことなど頭から消えていた。
◇◇
佐藤刑事が事務所で書類を整理している。
杉田が事務所へ出勤してきたようだ。
佐藤が机から立ち上がり、杉田のところへ向かう。
「おはようございます杉田さん、まずはこれ見てください」
英字新聞を見せていた。
「おはよう佐藤、俺・・英字新聞は読めないんだ」
「杉田さん、それはアプリで変換できますから後でいいです。 この見出しを見てください」
佐藤はそう言って、新聞の太字の文字を見せていた。
「・・ジャック・ザ・リッパー現る? うん、これくらいなら俺でもすぐに読めるが・・記事内容はわからんぞ」
杉田は苦笑いしながら言う。
「杉田さん、ジャック・ザ・リッパーって知ってますよね? イギリスの斬り裂きジャックです」
佐藤は言う。
「あぁ、有名な話だからな。 昔に売春婦ばかりをバラバラにしたという斬り裂き魔だろ?」
杉田があまり関心もなさそうに答える。
「えぇ、それです。 僕がイギリスに大学時代留学していたのはご存知ですよね? その時の友人が英国の警察にいるのですが、驚かないでくださいよ」
佐藤が目を少し大きくして話を続ける。
「斬られた遺体の検死結果、とても鋭利な刃物で斬られていたというのです。 細胞をそれほど損ねることもなく・・」
佐藤は杉田を見つめる。
「佐藤、その斬られていた遺体・・もしかして・・」
杉田もわかったようだ。
「えぇ、そうです。 最近起きている半グレの死体の切り口と非常に似ていると思いませんか?」
佐藤はニヤッとしながら言う。
杉田はすこし下を向いてつぶやくように言う。
「佐藤・・だがな、イギリスと日本では距離があり過ぎる。 もし仮にその犯人が日本で犯行を起こした後、イギリスに行ってまた犯行を繰り返したとしても・・なぁ」
「・・あまりにも飛躍し過ぎですかね? 少し事件につながる記事かと思ったのですが・・ダメですか」
佐藤がややうつむき加減に答える。
杉田は少しの間、何か考えるようにしていたが、佐藤の方を向いて言う。
「いや、佐藤。 わずかでも類似点があれば調べないわけにはいくまい。 俺が掛け合ってくる。 お前はイギリスへ行く準備をしていろ。 俺はこちらでもう一度同じルートを調べ直す」
杉田は佐藤の背中をポンと叩いて事務所を出て行った。
◇◇
俺は結局、何も買わずにヨドマシカメラから帰って来ていた。
カフェは休みにしているので、カウンターで一人コーヒーを飲んでいる。
時間は午後1時。
朝の学生のことなど、記憶から消えていた。
一口コーヒーを飲む。
ふぅ・・。
俺以外にも、こんな能力を持ったやつがいる。
当然だな。
だが、どれくらいの規模でいるのだろうか?
アメリカのあの人は、今のところヒーロー扱いされて満足しているだろう。
だが、どれくらい強く・・いや、人間離れしてくるかわからない。
その時にもヒーローでいられるだろうか?
考えると、怖いな。
こんな能力、決して誰にも言えない。
この孤独感に耐えられないと自滅が待っているだろう。
俺はそう思う。
そんなことを考えていた。
時間を見てみると、午後3時過ぎ。
今日はもう出歩く気がしないな。
そう思っていると、カフェの入口をガチャガチャする音が聞こえる。
俺は少しビクッとなったが入口へ歩いて行く。
「ったく、掛札見えないのか。 休みって書いてるだろ・・」
俺はブツブツ言いながらも入り口を開けた。
カラン、カラン・・。
「休みの日にすみませんね、山本さん」
杉田刑事がいた。
俺はすぐに刑事だと思いだした。
「あ、あぁ、あの時の刑事さんですね」
俺はそう言うと、杉田を中へ入れた。
「山本さん、あれから何か周りで気づいたこととか、変わったことはなかったですか?」
杉田はニコニコして話している。
気持ち悪いな。
俺はそう思いつつも答える。
「う~ん、特に変化はないですね。 あ、そういえば今朝ヨドマシカメラに行った時に、テレビのエリアで見たニュースが気になりましたね」
俺がそう言うと、杉田が俺を見つめる。
「ほぅ、どんなニュースですか?」
俺は杉田の視線を気にせずに考えていた。
どうせ俺の行動履歴はわかっているのだろう。
正直に答えるのがいい。
「はい、何でもアメリカで今ヒーローが誕生したとか、ワイドショーでやってたのが印象的でしたね」
「ヒーロー、ですか」
杉田は慎重に聞いてくる。
「えぇ、そうです」
・・・・
杉田は軽く目を閉じて何か考えているようだった。
「そうですか、また私も確認してみますね。 山本さん、お邪魔しましたね。 ではまた」
杉田はそう言うと席を立ち、外へ出て行った。
俺は杉田を見送ってドアを閉める。
あ、飲み物を出した方が良かったのかな?
ま、いっか。
◇
杉田刑事はゆっくりと歩きながら、次の場所へと向かっていた。
「アメリカのヒーローか・・」
杉田はそうつぶやくと考えている。
俺の頭が固いのかもしれない。
そういった超常的なものも入れ込んで考えなければいけないのだろうが、難しいな。
後で杉田はアメリカのこのヒーローの映像を見て驚く。
映画じゃないのかと。
事実だとしても、受け入れられるわけがない。
だが、頭の隅にほんの少し、このような超常的なパーツを入れると事件の解決が容易になる誘惑にかられる自分がいる。
「だがなぁ・・そんな超常的な力を認めてしまえば、どんな事件でも起こり解決してしまう。 危険だな」
杉田はそうつぶやくと集めた情報を整理していた。
◇
しばらくして、イギリスに飛んだ佐藤から連絡が入る。
PCオンラインでつないでいるので、そのまま会話ができる。
「杉田さん、そちらはどうですか?」
佐藤が画面越しに言う。
「いや、変化ないよ。 ただ・・あまり言いたくないんだが、アメリカのヒーローニュースが衝撃だったな」
「あぁ、それをご覧になりましたか」
佐藤は笑いながら言って、話を続ける。
「杉田さん、こちらでは例の斬り裂きジャックの話ですが、僕がまず注目したのは遺体の状態です」
佐藤がそう言うと、杉田がうなずく。
「それで結論から言えば、切断面は酷似していますね。 同一犯と言っても誰も疑わないでしょう。 それほどの切り口でした」
佐藤が報告していた。
「そうか・・佐藤、ご苦労だったな」
「それから・・」
佐藤は言いにくそうな感じで話している。
「どうした佐藤、他に何かあったのか?」
杉田がPCに近づいて言う。
「えぇ、僕もあまりにも飛んでる話なので無視しようかと思ったのですが、事実起こった事件があるのですよ。 隣のフランスなのですけどね」
佐藤が自嘲気味に言う。
「なんだ、その飛んでる話って言うのは・・」
杉田が聞く。
「えぇ、フランスでは魔法使いがいるという話でして・・」
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