2.入学式

(はぁ、めんどくさい。)


フェイは、非常に憂鬱な面持ちで足を運んでいた。聖戦から三年が経ち、街の復旧はすでに終わっている。そこで国家は今回の事態を重く見たのか魔法剣士全体のレベルアップをはかろうとした。聖戦の翌年には、各国の学園にそれぞれ教官として七聖剣がそれぞれ派遣されることとなった。


(にしてもなんで俺が行かなきゃならないんだ。俺、魔術使えないのに。)


フェイが目指すのは、アリステル王国にあるアリステル魔術学院だ。15歳となり魔法剣士の適性がある子供の多くがこの学園を目指す。フェイが学園に行きたがらない理由はひとえに魔術が使えないからだ。


現代多くの人々は、何かしらの魔法に適性がある。その中でも魔力がある程度ある人間がこうした学園を目指す。フェイには、魔術の適性がない、彼が扱うことができるのはたった一つ身体強化魔法だけ。魔法剣士とは、魔術と剣技を合わせて戦う人たちの総称である。そのため本来この学園を目指すのはおかしいのだが…。


(卒業しないと〆られるしな。ほどほどに頑張ろう。)


フェイは、いつの間にか見えていた大きな門をくぐり学園の学び舎へと足を運ぶ。


「フェイさんですね。これが部屋の鍵でこちらが教科書です。なくさないようにしてくださいね。」


「はい。」


この学園は全寮制で新入生は入学式の日に鍵を受け取ることになっている。


(見られてんなぁ。気にしないでおくけど。)


魔術の適性は、その人の髪を見ればよくわかるといわれている。

実際問題それは正しく、火の適性がある人は赤い髪色、水の適性がある人は青色などの髪色になることがほとんどだ。まれに二属性に適性がある人などもいるがその場合適性が強いほうの属性の色が髪に出てくることが多い。


それに対してフェイの髪色と言えば真っ白。おそらく何色にも染まらないために色素の抜けた白色なのだろうとフェイは予測している。あまり見ない色の髪のために周囲の人たちは、フェイの髪に視線が釘付けだった。


(さっさと部屋に戻って準備だ。)


そそくさとその場を後にし、フェイは入学式に向けて備えていた。


(大きいし、人も多い。どちらかというとパーティー会場じゃないか?これ。)


フェイが入学式が行われる体育館でまず最初に思ったことがこれだ。部屋全体には、豪華な飾りつけがされており、とてもきらびやかだ。周りを見ればとても誇らしげな表情をしている子とびくびく震えている子の二通りが見られた。


フェイは、案内された席に座り入学式が始まるまで何をするか考えていると…。


「ねぇ、僕はロランっていうんだ。良かったら仲良くしてくれないかな?」


突如隣の席の子が話しかけてきた。振り向いてみれば十五歳というには少し幼い印象を抱く男の子がいた。


「あぁ、俺はフェイだ。こちらこそ仲良くしてくれるとありがたい。それにしても平民とは珍しいな。」


「そんなこと言ったってフェイもそうじゃないか。それにしてもその髪色…。もしかして…。」


「諸君よくぞ、この学園へ来てくれた。」


突如体育館に大きな声が響いた。


『後でな。』


『うん。』


ロランとフェイは互いに小声で話を済ませ、正面に向き直った。


「私はこの学園長のライズ・マーヴィンだ。この学校で目指すのは、実戦で戦える魔法剣士を育てることだ。早い話、実戦で役に立たなければ意味はない。申し訳ないがそういった覚悟のないものは出て行ってほしい。」


ライズの冷たくどこか厳しい物言いに部屋の雰囲気が凍り付く。だが誰もこの部屋から出ていくものはいなかった。


「そうか、それならいい。我々教師陣一同、しっかりと立派な魔法剣士になれるように手を尽くそう。それでは、そろそろ皆が待ち受けているであろう人物に出てもらおう。」


ライズは、壇上から降り、部屋の端にまで下がった。


「皆さん、ごきげんよう。この学校で特別教官として指導させていただいておりますローレリア・セブンスです。今日からよろしくお願いしますね。」


「聖女様!聖女様よ!」


「ローレリア様美しい。」


「結婚してくれー。」


若干一名おかしな人物がいたような気がするが壇上に現れたのは、七聖剣の一人聖女ローレリア・セブンスだ。腰まで伸びる長いプラチナブロンドの髪に誰もが見とれてしまいそうな美貌が特徴で何よりも特徴的なのがその治癒能力である。


彼女がいれば傷ついた人はたちまち元気になり、四肢を失ったとしても回復させられる。

その回復能力の高さ、人々のために献身する姿に聖女と呼ばれている。


「例年なら私一人なのですが今年は、もう一人います。出てきてください。」


「というわけで私も今年からこの学園に通うこととなりました。ソフィア・セブンスです。よろしくお願いしますね。」


「!?」


「氷姫様――。」


「俺たちのことも氷漬けにしてくれー。」


「結婚してくれー。」


陰から現れたのは、七聖剣の一人ソフィア・セブンス。水色の髪に透き通るような碧眼。それに加えて聖女に引けを取らない容姿が特徴的な彼女だ。

聖女が美人系だとすれば彼女はかわいい系と言ったところだろう。


彼女の持つ武器は、変幻自在な氷の魔術だ。

ある時は、凍らせて攻撃したり、ある時は妨害のために氷を放ったりと非常に汎用性が高い。

それよりも厄介な点として―――。


「ねぇ、フェイ。ソフィア様こっちの方見たよね?ひょっとして僕のことみてたのかな?」


「いや、さすがにそれはないと思うが。」


(面倒なことだけはやめてくれ。)


先ほどの瞬間、フェイは確実にソフィアと目が合った。フェイは、これからの学園生活で面倒ごとが起こらないのをただただ祈っていた。


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無能の俺と魔法剣士 @_hikaru_17

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