無能の俺と魔法剣士

@_hikaru_17

1.プロローグ

「お姉ちゃん、もっと見せて。」


「いいよ、フェイ。よく見ててね。」


フェイと呼ばれた少年は、お姉ちゃんと慕う少女の動きをつぶさに観察する。


「雷切。」


目にもとまらぬ一瞬の間に彼女は、腰に構えた刀を抜いて、目の前にある的を一刀両断してみせる。


「すごい、すごいよ。お姉ちゃん。」


「ありがとう。フェイがほめてくれて私もうれしいよ。」


フェイは彼女の技が大好きだった。彼女の放つ魔法が大好きだった。そして同様に彼女もフェイに褒められるのが好きだった。風景は、その場で一転し、そこには血みどろの彼女と一匹の人型の魔物がいた。


「ごめんね、フェイ。お姉ちゃんが弱くてさ。」


「やだよ、置いてかないでお姉ちゃん。」


弱弱しく呼吸する彼女を見てフェイは必死の剣幕で叫ぶ。だが彼女の目からは、諦観の色が見える。まるでもう死ぬのが分かっているかのように。


「だからね、フェイ。最期にあなたへプレゼント。」


「うっ。」


フェイの中に温かい何かが流れ込んでくる。彼女は、自分の持つ精いっぱいの魔力をフェイに流し込む。自分の生命力をも犠牲にしつつ…。


「フェイ、私はあなたのここにいる。だからつ…よく……なる…ん…だよ。」


「お姉ちゃん、目を覚ましてよ。ねぇ、ねぇってば…。」


フェイは、泣き続けていた。そしてそれを…。


「ッ!?夢か。」


そこでフェイは、目を覚ました。目の前には、見慣れた机や本棚が飾られている。そう、先ほどの出来事は夢だ。それも五年前に彼の姉を失った日の出来事だった。


「顔でも洗おう。」


いつの間にか垂れていた一筋の涙を手で拭いつつフェイはその場を後にした。


二年前、聖戦と呼ばれた戦いがあった。それは、魔物と人とのどちらが生き延びるかをかけたかのような戦いだった。


その中でものちに七星剣と呼ばれるようになった者たちの戦いは熾烈を極めた。もはや人類の命運は彼らにかかっているとも過言ではなかった。そして幾度となく続いた剣戟のうちについに終わりはやってきた。


最後までたち続けていたのは、七星剣たちの方であり、その姿を見た人類は歓喜した。人々は、彼らを崇め讃えた。そして誰かが輝く星のようだと言うことで七人合わせて七星剣と呼ばれることとなった。人々はまず、最初に復旧から取り掛かった。聖戦による被害は大きく、亡くなった者たちも多かった。だが彼らの表情は明るかった。その要因は、七星剣にあった。彼らのおかげで生き延びることができた。彼らのおかげで今も生きていられる。七星剣という存在が無意識のうちに彼らの未来を照らすものとなっていたのだ。


これは、聖戦から3年後の出来事である。

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