第21話 ハプニングは時に仕事する

「うわ、冷たっ」


「雨じゃん!早く宿戻ろ!」


その後も続いた沈黙は、冷たい雨によって遮られることとなった。


俺達がすぐさま宿に戻ると、それと同時に雨は徐々に強くなっていき、遂には雷も鳴り始めた。


「ふぅ。セーフだったね。明日大丈夫かな……」


「まぁ天気予報見たら明日の朝には止んでるみたいだし大丈夫だろ」


明日は午前にラフティングをしてからグループ毎の行動となる。


グループ行動では、各グループ時間毎に分けられているが、体験工房、カヌー体験、そしてトレッキングだ。


「けどこの雨じゃトレッキングは危ないよね。どうするんだろ」


「山の天気は変わりやすいって言うし、代案ぐらい考えてるとは思うけどな」


正直自由時間になってくれれば最高なんだけど。


「……今自由時間になればな、とか思ったでしょ」


え?なに?心の中読まれてんの?


「……エスパーかよ」


「相田君限定のねっ」


いやそういうのは禁止ね?俺じゃ無かったら勘違いしちゃうぞマジで。


と言いつつ俺が返答に困っていると、新川が楽しそうな笑顔から邪悪な笑みへと変化していく。あ、これからかってる時の顔だわ。


「なになに?照れちゃった?」


「……うるせ。もう遅いしとっとと戻るぞ」


そう言って踵を返して宿の廊下を歩いていくと「はーい」と間延びした声が後ろから聞こえた。新川はそのまま俺の2、3歩後ろを歩く。周りの生徒達も、少し間を開けて歩いている俺達には特に関心を持つこともなかった。


恐らく新川のことだから気でもきかせてくれたんだろう。


そのまま男女の部屋へと分かれる岐路に着き、俺達は向かい合った。


「んじゃ、また明日な」


「うんっ!明日楽しみにしてるね!」


その時見せた彼女の笑顔はとても魅力的で、つい見惚れてしまうほどだった。


さっき公園で見た、憂いを帯びたような表情を忘れてしまう程に。




◇◇◇




次の日の朝、昨日の雨は止んでいたが少し昨日よりも霧が濃くなっていた。


体調のチェックをし、朝食を摂ってから宿舎の前へと集合し、点呼をとる。


一連の動作が終わると、G組とH組がそれぞれ分かれて行動となった。


俺達G組はまずラフティングからだ。バスで20分程走ったところにある川へと到着。近くの施設へと誘導された。


それほど大きくはない施設だったので、俺達は外の河原で待機し、その後スタッフの人達からの説明を受ける。


ライフジャケットとヘルメットを着用し、その後全員その施設のバスに乗り込み川の上流へと出発した。


「うわぁ、なんだか緊張するね」


表情の硬い新川が苦笑いしながら話しかけてくる。ガチガチじゃねぇか。


「ふっ、ビビってんのか」


「あー!そんなこと言っちゃうんだぁ」


ポコポコと肩を叩いてくるがライフジャケット着てるから全然痛くない。むしろ気持ちいいレベルだわ。いやそんな性癖ないけど。


そんなやり取りをしているとスタート地点に到着したみたいだ。


「それじゃあ皆さん、我々スタッフの指示に従ってボートに乗ってくださーい!」


担当スタッフの人から軽く説明を受けると、早速、川の斜面に半分浸かったゴムボートへと乗り込む。


「うお、なんか急に怖くなってきたわ」


「あれー?相田君こそビビってるんじゃないのー?」


そのガチガチの顔どうにかしてから言え。


「颯人も緊張することとかあるんだな」


「ね、意外かも」


「……お前ら俺をなんだと思ってやがる」


お前らみたいなリア充と一緒にいると「誰?」みたいな感じで見られんだからな。


そんな愚痴かもわからないことに頭を悩ませながら出発の時を待っていると「ひゃわぁっ!」という謎の可愛らしい声が聞こえた。


後ろを見ると、ゴムボートに片足を突っ込んだまま震えている橘だった。


「る、るりちゃん大丈夫?」


「だ、だだだ大丈夫だよよよよよ?」


や、噛み過ぎだし震えすぎだ。あと目の焦点合ってねぇ。


「橘さん、手貸そうか?」


平川が持ち前のイケメン力(笑)で手を差し伸べた。


「う、ううん!……1人で乗れるから大丈夫」


振られた。ナイスだ橘。


突っ込んだ片足を軸に、右手でボートの端を持ちながらゆっくりと乗り込んでいく。


しかし、支えてる手が滑り体制を崩してしまった。


「橘!」「るりちゃん!」「橘さん!」


先に乗り込んでいた俺と新川と平川が同時に叫ぶ。そのまま川へ落下—



「ったく、危なっかしいな」



しなかった。


橘の左腕が掴まれ、一気に引き上げられる。橘はそのまま引き上げた相手の胸の中へときれいに収まった。


「ご、ごめんなさい!……竜崎君」


「……無理なら誰かに言って休んどけよ」


「う、ううん。もう大丈夫!本当にありがとう」


「るりちゃん大丈夫!?」


「う、うん!ごめんね心配させちゃって」


それから橘は新川の助けを借りながらゆっくりとゴムボートへ乗り込む。


竜崎の反射神経半端ねぇな。と感心しながら橘の方を見る。そういや竜崎に助けられてからなんか大人しくなったよな。なんてふと思っていたのだが、







その時橘の横顔は熱でもあるのかと見間違う程に真っ赤だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る