第5話 暴け合いなんだと


『これより~非能力者達を虐殺するべく~わたしはショーを開始しま~す』


ねっとりとした愉快な声。叫び逃げ惑う乗客。チェーンソーを振り回す化け物。

そんな中、三人のいる場所は化け物から一番遠い次の扉前。幸いにも化け物からは死角で見えていなかった。


「その扉開けれそう?」

「……多分無理。下手に動かすとアイツにバレて殺される」


扉の一点を見つめるカホ。その目は何かを捉えていそうで。


「多分徐々にコッチに来ているよ。殺気も凄い」


耳を立てるようにアヤは小さく伝える。まるで相手の行動を掴んでいるようで。


「……」


サナは考える。

どう考えてもあの化け物に真っ向から立ち向かえる能力など我々には持ち合わせていない。

だがカホもアヤも怯えていない。状況を早々と理解しているように見えた。


「「サナ」」

「……よし」


ポケットから取り出した古びた一本のペン。


「あとで何言われても知らない」


紡ぐのは言葉。記すのは文。見据えるは日常のその先へ。

床へペンを滑らせて書くのは文章。しっかりと、明確にソレを文へ紡いでゆく。


「――“そのモノ、非常に壁となる屈強な戦士成り”」


文章はそのまま剥がれ落ちて形を変える。漂う文字は影へと変わり徐々に形を形成する。するとどうだろう、まさしく言葉通りの屈強な戦士の影が現れたのだ。

戦士の影を見た化け物には持っている血濡れのチェーンソーに見たくない肉の塊が付着している。


「行け!」


影はそのまま化け物と対立する。黒塗りの剣で化け物と戦っているではないか。

その光景を見た二人はそれぞれ行動に移す。カホは扉を、アヤはサナの傍に。


「二人とも…!」

「できるだけ引きつけて!扉は私が動かしてみる!」

「今の所扉の向こう側には誰もいないと思うから、私はサナに指示を出すよ!」


――そうか、そうなのか!


サナは更にペンで文を書き続ける。

戦士を増やし、自分達を守る防御壁を作った。それらを文にしようとするなら時間はかかるがアヤが適切な予測で化け物の攻撃から防ぐことが出来た。

背後では扉に手を這わし、瞳を閉じるカホ。


「動け」


ガチャリ。

まるで扉の構造を操作しているかのように、自然と扉は開いた。


「早く!」


まだ化け物は影と戦っている。

追ってこられないようにするため、また犠牲になった乗客を見捨てるように、扉へ入る。

するとどうだろうか。車両の連結部が外れ、列車は勝手に動いた。


「助けられなくて、ごめんね……」


――ガコン


先ほどいた列車が遠ざかっていく。三人は列車へと足を踏み入れた。



♂♀



同時刻。


『――即報です!都心郊外にある駅にて原因不明の爆破が発生しました!』


TVでは血相を変えたアナウンサーが現場の駅で事の情報を伝えた。それを見ていた西八尋にしやひろルカは楽屋でDREAMドリームのメンバーと共にいた。

あまり駅など使わない彼女たちだが、いざ事件になると話は変わってくる。

それは彼女たちがいる楽屋は事件場所から近いのだ。


「さっき爆発音が聞こえたって…!」

「嘘!?もし犯人がコッチに来ていたらどうしよう……」


騒ぐメンバーにルカは落ち着かせようと声を出す。


「慌てないで。今警察や消防が来ると思うし、その内マネージャーも来るよ」


流石に近くで事件が起きたらリハーサルは中止だろう。

すると扉の向こうで慌ただしい物音が聞こえてきた。


「皆!大丈夫か!」

「マネージャー!」


血相を変えたマネージャーがやって来た。タクシーを呼んだから早くここから離れようと言った彼にメンバー全員は安心した。

しかし。


「さぁ、早くでy……?」


――ボトッ


「き、きゃぁぁぁあぁぁあああ!!?」


マネージャーが扉から出ようとした時だった。

突然彼の首がなくなったのだ。

いや、正確に言えば首が落ちてしまったのだ。ザックリと、綺麗に。


「なんだ。まだいたのか」


冷ややかに聞こえた知らない男の声。

ぬっと出たその姿は血まみれで、顔は火傷で目立ち、目は包帯を巻いている。


「女に興味はない。特に何の価値もない非能力者はな」


マネージャーの頭部を蹴って壁に叩きつける。鈍い音が嫌でも耳に入る。


「だ、誰!?」


ルカはメンバーを守るように立ちふさがった。すると男はさも興味なさげに答えた。


「非能力者を嫌う能力者だ」

「貴方が駅を爆発させた犯人なの……?」

「あぁ?よく喋る女だな。俺じゃねぇって」


興が冷めた。

男はそのまま踵を返し部屋を出る。

ルカは男の後を追うことが出来ず、また死体となったマネージャーの頭部すら見たくないと感じてしまい、メンバーと共に救助が来るまでひたすら何も視界に入れないようにしたのだった。



♂♀



「――遅かった」


駅の傍で女は悔しそうにする。

手には専用のバッグを持っておりここで何かをしようとしていたのだろうか。だが遅かったと言ったのだからそのバッグは無意味な存在となった。


「リュウキ!今すぐ彼女たちの回路を繋いで!このままじゃ…!」


すぐさま電話をかけ、悲痛な叫びが木霊する。


『――カノン、不味いことになった。回路が繋がらない』

「そんな…!このままじゃ奴らに殺されてしまうわ!」

『近くに立てこもれそうな場所はあるかい?なんでもいい……ハッ!』


電話越しの主は何かを察したようだ。


『前方に黒いビルがあるだろう?そこの2階に四人目がいる』

「わかったわ」

『どうか無事でいてくれ!そして四人目を保護してほしい』


電話はそこで切れた。


「――四人目は確か……だったわね」


女はビルへ向かうべくバックと共に走るのであった。

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