第4話 類は友を呼ぶってね


それは本能的に、それこそ必然的だった。

あの夢が忘れられず、ただそれだけの理由が己の体を動かす理由になった。

普段ならお気に入りの店の前に立ち止まるのに今はそんな気が起きない。目に映る景色は常に整備された道を歩く。


「あ」


ふと、スクランブル交差点の向こう側で見知った相手を見つけた。向こうもコチラを見て手を振っているではないか。


「久しぶり」


信号が青に変わって向こうからやって来た彼女は、学生時代からわらない姿に此方も安心して返事をする。


「久しぶりアヤ。こうして外で会うのって何年以来だろ」

「んー……ざっと2,3年ぶり?」


眼前で思い出すように唸る岩鍛代いわきたいアヤに、奥向江おくむかえカホは面白かったのか笑ってしまう。

そこでカホは道に不思議な夢を見たとアヤに話した。するとアヤも似たような夢を見たと返し、もしかしたら自分達は四人の内の一人ではないかと悟った。


アヤとカホは中学生時代からの仲だ。昔はよく一緒に遊んだりしていたのだが大人になるにつれ外で会うことは少なくなってしまった。

それにしても偶然にもおかしい。お互い自宅に引きこもりがちな性格だというのに。

片や司書、片やゲーマー。年は同じだが違った道を歩んだ二人。

同じ夢を見て本能的に、それこそ必然的に外へ出たなんて。


「偶然ではなく、必然的に集められたんじゃないかってことかい?」

「「!」」


グイッっと腕を引っ張られる。その原因はアヤがよく知る友人で。


「もう赤信号だ。さぁ、一緒に行こうかお二人さん」



♂♀


窓に映るは静かな夜空。そしてその夜空を見ながら男は言った。


「――人は皆、何かを抱えて生きていると私は思うよ」


正面に座る彼女はすっかり冷めてしまった紅茶には一切手を付けていない。

男が淹れ直そうかと言ったが首を振る。理由はこれを飲めばこの世界とはサヨナラだと思っていたからだ。


「勘が良いのか単に紅茶が苦手か」

「夢だと分かっている私に、尚紅茶を勧めるのは可笑しいかと」


大きなテーブルを囲うように置かれた5つの椅子。アンティーク調の室内に映えるように、その真っ白で異質極まりないテーブルには冷めた紅茶が一つ。


「文豪と称される貴女はまさしくその名が相応しい」

「止めてくれません?その肩書は嫌いなので」


にこやかに笑うもその瞳の奥は笑っていない。


「それは申し訳ありません。

それと、貴女にちょっとしたお手伝いをお願いしたい」


いずれこの屋敷に来るであろう2人を連れてきてほしい。

そう言った男は地図を手渡してきた。


「一人足りなくない?」

「彼女は非常に多忙で抜け出せないし、いい具合に干渉できない」

「合間を縫って、それこそ貴方が導けばいい」

「過干渉は失礼かと」

「紳士だこと」


冷めたはずの紅茶が何故か湯気立っている。勝手に淹れ直したのだろう。


「さぁ、朝日が昇る時間です。どうか彼女達をよろしくお願い致します」



♂♀



菊羽田きくはたサナが話す一連の内容に二人は唖然とした――とは言っても、サナとカホはほぼ初対面同然だが。

サナはカホがプロゲーマーであることは知っている。しかし実際会ったことはないのでアヤが仲介者として紹介することに。


「彼女は私の同級生なの」

「よろしくね。サナ」

「はぇ~。世間って狭いもんだね」


サナが手に持っている小さな地図に二人は見る。

それが夢ではないことを物語る重要な品物であることと、サナが三人目であることが分かった。


「四人目の目星はついているんだ。でも、非常に多忙な人なんでね」


都心から少し離れた場所には列車がある。サナはこの列車で大体10分はかかると言った。

それから三人は列車で他愛ない会話を繰り広げた。これだけ会話をすれば10分なんてあっという間だと思っていた。


ガタンッ


「?」


――そう、思っていた矢先のことだ。

列車は急に大きな音を立てて止まってしまった。


『――えー、えー……マイクテスト中。あー、あー……』


突如として車掌ではない誰かの声が車内に響いた。

声からして年若そうな女性の声だ。


『次は~逆さ~逆さで~す』

「さ、逆さ?」


ざわつく他の乗客員。中には声を荒げて文句を言う者も。

しかし、文句を言った乗客の体が突然浮き出し、グルンッと体が反対に。


『迷惑な雑魚はそのまま~』


潰れてしまえ。


「ヒィッ!」


ゴキン。

通路で逆さになった乗客は勢いよく首から叩きつけられてしまった。

そのせいで首があり得ない方向に折れ曲がり、さらには異常なほどの充血が見える。


「きゃぁぁあああ!」


叫ぶ他の乗客たち。

死した乗客の近くにいたカホ、アヤ、サナの三人はその場でしゃがみ込む。


「能力者か」

「もう、最悪じゃん」


あの事件と同じ状況が今起きてしまった。

幸か不幸か、もしかしたら犯人が分かるかもしれない。


「どうする?」

「状況を考えるに、傍にいないのに騒いだ客を殺したってことは……もしかしたら透し系の能力者か、あるいは隠しカメラを使った念力系の能力の可能性がある」


『次は~密閉~密閉~』


列車の窓から逃げる乗客に対して嗤うように言葉は紡がれる。

あろうことか窓が勝手に締め出される中で、窓から逃げようとしていた数名の乗客が窓に挟まれてしまう。


「た、助けて!」


ミシミシと嫌な音が鳴る。助けようとする他の人が懸命に挟まった人を引っ張るが。


「あ゛、が……!」


ギチギチ、ギチッ――――


「ぎぃ!?いだい゛!痛い゛ぃいぃいいいい!」

『戸締りはしっかりと~。例えその身が引き裂かれようとも、ちゃぁんと閉めないと』

「ぎゃぁぁぁあぁあああ!!」


ブチンッ―――ぼとっ


挟まれた人は文字通り上下が真っ二つ。飛び散った血に絶望する人々。

愉快な女の声は尚アナウンスを続ける。


『次は~虐殺~虐殺~』


車両の扉がゆっくりと開く。

そこには腐敗色の巨体な体にボロボロのどす黒いエプロン、手にはチェーンソー。

むき出しの歯茎と出っ張った眼球は最早人間ではない。


『これより~非能力者達を虐殺するべく~ショーを開始しま~す』


ねっとりとした愉快な声は、嫌なほど三人の耳に木霊した。


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