第3話 ようやく事が動くんだってさ

帝都都心に佇む警察本部では謎の変死体についての調査と原因を探るべく奔放していた。

犯人は恐らく能力者であることから、事件を担当する上司から引き続き調査の命が下された。


「すまないね亜歹あがつ君」

「いえ、一刻でも早く犯人を捕まえましょう」


礼儀正しく真面目と称された男―亜歹ヨシタカ―は一人資料を捌いていた。

四肢が捻じ曲がり、異常な充血で息絶えた死体はこの一週間で十数名にまで増加していた。

加えて被害者の中には四肢の切断や皮膚が抉られたような形跡が残されており、これを普通の人間ができる芸当ではないと彼は踏んだ。


「せ、せんぱぁい……!」


資料室から大量の資料を運んできた後輩―眞鍋まなべサユリ―がフラフラとした足取りで此方にやって来た。ヨシタカは嫌な予感がし、その予感は見事に的中した。


――バサバサバサッ


「うきゃぁ!?」

「何やってんだ眞鍋!」

「ご、ごめんなさい!」


大量の資料が机や床にぶち撒けられたではないか。そのせいでヨシタカがやっていた作業が全て台無しになってしまった。


「ったく、なんで大量に持ってくるんだ」

「だってぇ……。あれ?こんな資料ってありました?」


古びたファイルを取り出す彼女にヨシタカもソレを見る。よくよくみれば“都心地主家系”についての資料だということが分かった。


「そういえば今の地主さんってどなたでしたっけ?」

「お前覚えておけよ……。現在都心の約8割を所有する地主は笠原かさはらリュウキという男だ」


帝都では土地を管理するにあたって必要な財力や権力と言った、優秀で不正の無い中立者が必要だった。国の8割を有することが出来るのだから勿論欲汚い富豪がこぞって名乗りを上げた。

そんな中、唯一罪のない中立者である笠原家が選ばれた。一族は皆帝国の為に多額の財を使って貿易と貧富の差を埋めるための圧倒的な貢献力で国を潤したのだ。


「笠原リュウキもまた、俺達警察の手伝いをしてくれたり町の施設の管理とかを担っている」

「へぇ……。凄い人なんですね」

「あとは能力者についての研究も行っている」


能力者は限られた人間にしか発症しない一種の”病気”のことである。

或る者は火を、或る者は風を。そんな能力を持った人たちを人は能力者と呼んだ。

一部では一種の病気として嫌っている者も少なくはない。

ヨシタカもその一人だ。能力者のせいで数多くの犯罪をこの目で見てきた。ゆえに能力者は政府の元で捕縛し監視下に置くのがいいと考えている。


「そういえば……3年前の都内能力者事件で多くの被害者たちが後天性能力者になったって聞きました」


【都内能力者事件】


それは3年前に都心にあるスクランブル交差点である女が引き起こした最悪の事件。

丁度昼下がりの人込みが多く行き交う時間帯だった。その中央でルイラ・レイラという女が高らかに笑うや、突如として辺りは爆発した。

辺り一面爆撃で多くの死者と怪我人が出たその事件後で二次被害が出た。


「それが後天性能力者の増加というわけだ」


普通の人間が急な能力に目覚めたせいで制御が利かず、暴走を起こし脳がキャパシティーを超えて破裂する痛ましい事件が多発した。生き残った他の後天性能力者達にはカウンセリングと専用の施設で生活させている。


「中には能力を使って犯罪を行う奴や、自身が能力者であることを隠しながら生活している奴もいる」

「いつ、どこで能力者による犯罪が行われているかと思うと……少し怖いです」


サユリの意見は最もだ。二人とも非能力者のため場合によっては能力者によって殺される可能性だってある。


「ルイラ・レイラ……奴こそ3年前の事件の元凶であり未だ行方が分からないままだ」



♂♀



――夢を見る。

それはちょっとした浮遊感と目の前に広がる真っ白な世界。右も左も分からない。もしかしたら上下の感覚すら分からないかもしれない。


「また、同じ夢」


ただ浮遊するだけの夢は昔から変わらなかった。

既に私はこの夢に侵食されていたかもしれない。


「あれは、なに?」


見えるのは立派な屋敷。

丁寧に管理されている庭にはガーデンチェアーが5つ。丸いガーデンテーブルを囲うように均等に置かれている。

1つの椅子の前に温かそうな紅茶が注がれているティーカップは、まるで自分を誘うように湯気立っていた。


「やぁ」


ふわり、体が勝手に紅茶の置かれている席へ座る。と、もう一つの席には見知らぬ男が微笑みを浮かべて座っている。


「ようやく繋がった。キミを待っていたんだ」

「貴方は、誰ですか?」

「名乗らずとも時期に会える。さぁ、この紅茶を飲んで元の世界にお帰り」


飲んではいけないと分かっていても、体は勝手に動いてしまう。


――ゴクリッ


温かくて優しい味。

一滴も残さず飲んだカップはサラサラと消え、また自身の体も消えかける。


「待ってるよ。キミ達4人が私の屋敷にくることを」


待っていた?時期に会える?キミ達4人?

貴方は一体誰なの?その言葉は紡がれることなく意識は沈んでいった。



♂♀



――目を覚ます。

時刻は朝四時を回ったところ。朧気な意識とは裏腹に先ほど見た夢は鮮明に覚えている。

四時とあってまだ日は顔を出していない。ベランダのカーテンを開けると夜と朝の境界線が見える。


(あの人は待っていると言ったっけ)


顔は霞かかって見えなかったが、確かにあの男は時期に会えると口にした。

しかも自身を含めた四人。残りの三人は一体誰なのだろう。

顔を洗い、私は準備する。


私はPCを起動させ配信の準備をする。

私は見た夢を忘れずに原稿用紙に残して。

私は端末と貴重品を持って図書館へ。

私はマネージャーとの打ち合わせに。


事は静かに動き出す。その様子を元凶は知ってか知らずか、密かに笑うだけ。


「さぁ、準備が出来たらいよいよ開始だ」


序章の幕上げは果たして?

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