第6話 これは常識離れの演出だ


とある広場ではチーマーと呼ばれる不良集団の集まりがたむろしていた。

赤いバンダナを腕に巻く集団と青いバンダナを頭に巻く集団。それはまさしく対立関係にあたる状況のなか、赤のバンダナを付けた男は言った。


「最近静かだと思っていたら……今度は都心で暴れるつもりか」

「何を今更。俺達はそこらの不良じゃない。俺達はギャングだ」


赤いバンダナの男―志田しだマサキ―と青いバンダナの男―深輪ふかわレイ―

両者はこの帝都の中でも隋を抜いて対立するグループのトップだ。

マサキはこの町の治安を守る不良として、レイはこの町を仕切るギャングとして有名だった。


「ところで……ここ最近妙な事件が起きているじゃないか」

「それがどうした」

「本当に警察が解決できると思っているのかって話だ」


どこか含みのある言い方にマサキは睨む。レイは特に何もすることなくヘラヘラと口にする。二人の舎弟たちが睨み合い、いつ抗争が起きても可笑しくはない。


「お互い能力者なんだ。お前からすればこの町を壊したくはないだろう?」

「そうだな。お前さえいなければ尚のこと嬉しいんだが」


言葉と同時に二人は駆ける。

マサキは手に炎を、レイは足に鋼を纏い凄まじい威力が辺りを震わせた。

燃え盛る炎はマサキ自身を侵す。そのせいで纏った手は徐々に火傷を負うことに。


「相変らず不便な能力だなぁマサキ」

「クソッ」


大きく跳ねて距離を取る。焼けた手を気にせずマサキは炎を出し続ける。

鋼の足を持つレイは嗤った。相変わらずだと言って。


「町を守る総長が、まさか自分の能力で死にかけるとか無いだろ」


――マサキは能力者である。その力は【放火ほうか】で、人体から炎を生成することができた。

だがデメリットとして彼自身から発せられた炎は使用すればするほどマサキの体は火傷を負うのだ。


「町を守ることができればコッチのもんさ。お前みたいな連中はこの町から出ていけ!」

「……ッチ。ほんとにムカつく熱血野郎だ」


鋼で出来た鉤爪で炎ごとマサキを引き裂こうとする。咄嗟に避けるもスピードはレイの方が速い。


「価値のない非能力者を庇って何が楽しい?」


レイも能力者であり、また非能力者を嫌っていた。

能力者こそこの町を支配するに相応しい存在だと言ったレイをマサキは否定する。


「どっちも同じ人間じゃねぇか!」

「違うね。何もない人間より才能ある能力者こそ新たな人種なんだ」


マサキの舎弟たちは何の能力も持たない普通の人間だ。だが能力者であるマサキを尊敬し共に町を守ると誓った集団の集まりだ。

レイの舎弟たちは才能こそないがレイにとって便利な“肉壁にくかべ”だ。

厄介な相手でも肉壁さえあれば多少の価値があると踏んでいる。


「どこ見てんだこのカスが!」

「――グッ」


重たい蹴りが腹部にあたる。不注意とはいえかなりの威力だ。

体はそのまま宙を舞い広場の太い木すら簡単に折れるくらいの衝撃。体中の至る関節や骨が悲鳴を上げる。


「クソ、が……」

「この町はいずれルイラ・レイラ様の支配下に置かれる。その時はお前を見せしめに殺すのもアリだな」


ルイラ・レイラとは一体誰だ。レイがニヤリと嗤いマサキを見下す。


「この町が壊れるのはもうすぐだ」


そう言ったレイは舎弟を連れて姿を消した。

残されたマサキは何とか死なずに済んだが、心配し慌てる大事な舎弟たちに連れられながら考える。


「ルイラ・ライラ……そいつが元凶なのか?」



♂♀



列車が稼働し、次の車両へと入るアヤ、カホ、サナの三人は辺りを警戒しながら進んでいく。

中は誰もおらず、次の扉へと足を動かそうとした。


「待って」


あと一歩の所でアヤが言った。


「この先……絶対何かがいる」


それは恐怖。

彼女の表情は青ざめ、更には震えているではないか。

カホとサナは互いに顔を合わせる。進んでいいのか否か、悩んでいる様子だ。


「アヤさん。先に進まないと解決にならないと私は思っている」

「それに何かあったら私たちがアヤを守るわ」


先ほどの戦いで三人は能力者であることを知った。

サナは文字を書き起こし、カホは閉ざされたドアを開けることが出来た。そしてアヤは化け物の行動を読み取りサナに指示を出した。

これは偶然ではない。集められた4人の内3人がこうして出合ったのだから。


「行こう」


三人は次の扉へと足を踏み入れた。

次の車内には椅子が無く、広々とした内装で一人の女が佇んでいた。


「まさか3人とも能力者だったなんてね~。なんてわたしはついているのでしょ~」


間延びした言葉は生気がない。

ボサボサの三つ編みに焦点が合わない目。継ぎはぎの白衣は汚れている。


「貴女がこの列車の犯人かしら」

「ん~そうとも言えるしそうじゃないとも言えるね~」


ヘラヘラとした笑みは次第に歪んで見えた。


「ねぇ。わたしの部下にならない?全員優秀そうな能力持っている感じだし~?」


女は三人を下から上へと舐めるような視線を送る。それが非常に気持ち悪い。

あの化け物を放ったのは恐らくこの女だ。三人は一斉に否定する。


「誰がお前なんかの部下になるか」

「え~?残念だなぁ……」


ワザとらしく肩を下げる女。すると――


「じゃぁ死んでもらうしかないね~」


ドンッ


「!」


頭上から何か重たい衝撃がした――恐らく列車の上だ。

天井がミシミシと音を立てる。僅か十秒も経たぬうちに天井は重みに耐えきれずにぶち抜かれ埃被った煙が辺りをまき散らす。


「一体だけだと思った?ざんね~ん。もう一体いるよ~?」


あの化け物同様、今度は腕が四本ある腐敗色の巨体。


「――ッ伏せて!」


アヤが叫んだ。

咄嗟に二人が伏せると頭上スレスレに鉈が平行して斬りかかって来たではないか。


「ん~?もしかして予知能力系かな?」


女は化け物にアヤを先に殺すように命令した。サナはペンで宙に文字を起こし防御壁を張った。


「これは厄介」


ぐるりと眼球は左右違った動きで二人を見る。

四本腕の化け物は鉈を持つ上二本、持っていない下二本を器用に使って攻撃してくる。

文字を起こして攻撃を防ぐサナにカホは。


「何か私に武器になれそうなやつはない!?」

「文字に起こせるやつなら!」


狭い車両で暴れる化け物に対抗しつつ、サナは“鋭く切れ味の良い剣”を執筆した。咄嗟に剣を書き起こしたが彼女は扱えるのだろうか?


「任せて」


漆黒の文字で出来た剣を持つ。カホが手に持てば剣は淡く光だし、彼女にとって最適な剣へと変化する。

化け物の攻撃を避けつつ、視線は化け物を操る女の首。


「あ」


一歩先へ足を踏み込む。剣の軌道は女の首へ狙いを定める。

ピッ――

女の首には一文字の赤い線。


「………ありゃまぁ。こいつは面白い」


流れる血を気にせずニタニタ嗤う。

次の瞬間、女の首はベチャリと落ちてしまった。同時に化け物も女が死んだためか、その巨体はひとりでに倒れ停止してしまった。


「……たお、せたの?」


カホの言葉に二人は何も言い返せなかった。

後に列車は再び停止した。窓から見えたのは自分達が辿り着く駅だった。

都心の列車でたった10分の道のりが、こんなにも長く感じたのは始めてだ。


「行こうかお二人さん」


ポケットから地図を取り出し、三人は駅を降りるのであった。

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