5

 なぜ聖が勇次に部屋に来たがったのか、答えは直ぐに判明した。


 部屋に入るや否やパソコンを取り出し、勇次の机に置いていたパソコンからケーブルを抜いてLANを差し込む。


 パソコン画面に、高速で大量のプログラミング言語が流れていく。


「まさか、だよな」


「良く家に仕事を持ち帰っている、って前に言っていたね」


 ハッキングだ。間違いない。


 勇次は緊張して強張ったのだが、劉生は疑問を呈していた。


「意味、無いんじゃないか? うちもそうだだが、機密事項に入る場合、専用回線と暗号通信が使われる。ホームネットワークなんか使わない。重大な規則違反だ」


「家から機密情報に入る場合の話でしょ? それ。

 でも逆に、会社のパソコンから家のパソコンにアクセスする場合に、暗号化通信が使用されていない可能性はある。

 例えば、仕事のデータを自宅で作業する為に、メールで自宅に送信した、とかね。

 パソコンだけで仕事を行うこのご時世に、些末な違反など誰でも犯している可能性はある。

 その記録さえ抽出できれば、逆探知できる。

 欲しいのは、管理サーバーの特定とアーカイブの中身」


「できたとしても、即バレる。不正プログラムが随時働いている。そこらの民間サーバーなんかとは、桁違いのセキュリティだ」


「バレても構わない。むしろ、そうして警報を鳴らすべき。

 敵は、並の人間じゃない。人ですらない。人の闇が生み出した、化物」


 聖のパソコンを打つ指が止まった。


 画面に点滅信号が輝いた。


「ビンゴ。みつけた」


 画面の色が真っ赤に変色する。


「おい、本当に……入ったのか?」


「入るのは簡単。難しいのは、進む事」


 それを示すように、パソコンに流れる文字が今までの数倍にも膨れ上がり、その処理を行っているのか? ノートパソコンから、熱とモーター音がうねりを上げる。


「いやぁ、早いなぁ。これは、マズイ」


 聖のたんたんと告げた言葉に、勇次は焦燥した。気づいた。

「これ、逆に探知されると……、ここでやってるのが、バレるんじゃ」

 聖がこれに応えるとも思えず、劉生に顔を向けた。


 劉生は腕を組んでパソコンを見つめたまま、何も返答しない。まるで、何も聞こえていないかの如く、研ぎ澄ました視線で画面だけを見ている。


「あぁ、マズイな」


 劉生の小さな呟きに、勇次の焦りは絶頂に達した。


「おい! やめよろ! やめろって!」


 聖に手を伸ばそうとした。

 時、劉生はまたも呟いた。


「先に、取られていないか?」


 不思議な言葉に、勇次の手は止まった。


 聖の手は止まらない。表情も変わらない。


 しかし、声がしゃがれた。


「あぁ……うん、やられてる」


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