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「バックドアだらけ。これに気づけないとか、日本警察も終わってる……って、言いたいところだけど、できたのは数分前。もう既に半分以上は処理されている。予定じゃなかったけど、火事場泥棒になっちゃった、かな」


 劉生は聖の隣に座り、鞄から自身のパソコンを取り出した。


「言うんじゃねーぞ、誰にも」


「ん?」


 聖のパソコンに接続し、捜査を始める。


 聖のパソコン画面に、某怪盗アニメの主人公のアイコンが表示された。


「変われ」


 聖の横から劉生は手を伸ばす。とてもタイピングに適した姿勢ではないのだが、猛烈な速さでキーボードを操作していく。


 勇次の背中に、じわりと汗が滲んだ。

 数秒もすると、聖が感嘆した。


「おお、流石。やり慣れてるね? 君」


「準備、だよ。警察に入る前の」


「へぇ」


 ずっと以前、中学の頃から気づいていた。野儀劉生は、天才だ。

 ただ漠然と頭が良いだけではない。

 運動神経が良いだけではない。

 学校のヒーローであるだけではない。


 その根幹に流れる、途方もない野心。

 やむ事の無い向上心と、志向欲求。

 その全てを体現させるだけの能力を、神に与えられている。


 警察の内部情報を探る程度の事、彼が既に行っていたとして、なんら不思議ではない。「いつかは、警視総監になりたい」なんて、こいつは思わない。

 

 入った瞬間に、支配する。


 それだけの準備を、もうこの段階で行っていたとして、それが当然だと思う輩。


 欲望の塊。自尊心の権化。


 だから、女にも手を上げる。人間性は、クソだ。


 どうせなら、ここで亡き者になった方が、彼も幸せなのかもしれない。


「入るぞ。パスは……」

「盗ってある。これで」

 聖がパスワードを入力。


 彼女もまた、同じ穴の貉だ。


 どちらも、消えてしまえばいい。


 聖がエンターキーを叩くと、画面が切り替わった。


 文字だけが流れる画面が唐突に変わり、サイト画面が開かれる。所謂、イントラサイト(内部サイト)。右端上部に、真っ赤な文字で「捜査資料(極秘)」とあった。


 そこでもパスワードを入れ、悠々と入室していく。

 手際のよいハッキング活動。


 その指と表情が膠着した。


 聖が静止してしまった為、劉生がプルダウンしていく。

 一枚の写真が表示されていた。


「これが、犯人」


 女の写真だった。


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