阿呆の一生

幕間

 私達は別々に生まれたけれど、同じに育った。


 記憶が灯ったのは数歳の頃だろうけど、その頃には男の体を嘗め回す方法を仕込まれていた。物の扱いが分かるようになった頃、人の殺し方を教わった。世界の道理が分かるようになった頃、神の存在と世界にはびこる善人主義者の矛盾を教わった。


 算数、国語、理科、社会と教わるように、セックス、殺人、密売、宗教を教わった。


 血とタンパク質の味しかしない地獄の中で、それを当然と受け取り、平然と過ごせたのは、二人が居たからだった。


 なぜか彼女達は私ではなく、家族だった。


 私の全てを知っていて、私も彼女達の全てを知っている。


 それなのに、彼女達は私ではなく、家族だった。


 私と私以外を分別するだけの、モノ。

 私と同じで、それでも違うモノ。

 同じに仕込まれ、同じに時間を共有して、それでも違う、モノ。


 これを家族と定義した。

 

 それがとても気持ちが悪いと思っていたのは、私だけだった?


 故に袂を分かれた時、二人は私を非難して、私は二人を拒絶した。


 だから、そう。


 いつかは結局、殺し合う日が来る。


 同じだけど、同じじゃない。

 この矛盾をどこかで解消しなければ、私達は人として生まれない。

 欲だけで反応する生物ではいられない。


 理性が必要。


 欲求を抑える為の、理性を得る。

 それが、人間。

 そうなる為にも、貴女達は死ななければならない。

 私が人として生きていく為に、貴女達は存在していてはいけないのだ。

 

「誰かが死んでも、生き残ったその一人に、私達は統合される」

 

「二人と居られるのなら、私は平気。生きていても、いなくても」


 あぁ、みんな、いつかのどこかのタイミングで気づいていたのだろう。


 さぁ、始めよう。


 折角だから、盛大に始めよう。


 殺し合いだ。


 始まりのファンファーレを、この世界の隅々まで轟かそう。


 阿呆の私には、これが程よく、具合がいい。

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