5日目お題 『ルール』

もったいないお化け


―――


 私の家庭には食事の時のルールがあった。


 基本的に自由な教育で放任主義だった両親だったが、食事のマナーには何故か煩かったのだ。


 今回のカクヨム3周年記念選手権のお題は『ルール』


 ルールと聞いて思い出したのが、この我が家の食事の時のルールである。


 まず一つ。

 ご飯を食べる時は正座をしろ。


 これは、テーブルが子どもにしては高くて普通に座ると食べ辛いし食べ物をポロポロ溢してしまうからだったと思うのだが、小さい頃は素直に言う事を聞いていた。

 でも体が大きくなるにつれ、食事中ずっと正座でいるのは辛くなって、いつの間にやら正座で食べる事はなくなった。


 二つ目。

 箸は正しく持ちなさい。


 普段優しい父が箸の持ち方に関しては厳しくて、それはもうスパルタだった。しかもその厳しさは一番上の私にだけで、二番目の弟、そして末っ子の妹には教え方がぬるかった。情熱が尽きたのか、はたまた甘かっただけなのか。そのせいかどうかはわからないけれど、下の二人は箸の持ち方がちょっと下手である。(本人自覚あり。)


 三つ目。

 ご飯を食べる時はテレビを消す。


 これは私がテレビに夢中になって食べる事を忘れるという特技(?)を持っていた為、両親が考えた苦肉の策だった。両親もニュースや日曜日の某アニメとかを家族で見たかっただろうに、お茶碗を持ってボーッとテレビを見つめる我が子を何とか矯正しようとした結果だったと思う。


 そんな両親の苦労を察して黙々とご飯を食べるようになったので、この三つ目のルールも自然消滅した。


 四つ目。

 肘をついて食べるな。


 当たり前のマナーだがうちの場合、肘をついた瞬間母の手刀が飛んでくる。

 その時の素早さと殺気が凄まじく、小学生くらいまでは「肘をついたら殺される」と怯えていた。


 そして五つ目。

 これが我が家のルールの最後にして最大の、未だにトラウマになっている決まり事。


 それは……


『ご飯を残したら、もったいないお化けが出るぞ。ご飯粒一つでも残したらいけないよ。』


「もったいないお化け」とはどういうお化けなんだろうと興味を持つ反面、子ども心にとても恐ろしいと思った。

 でも残さなければ出てこないんだと気づいてからはなるべく残さないようにした。


「なるべく」というのは残した時もあるけれど、何だかんだ誰かが食べてくれてたという事である。(全部食べろと教えている手前、両親も子どもの前では残せなかったのだろう。)


 そしてその「もったいないお化け」はこれまでに一度も出てくる事なく、今に至る。


 そう、私はこの最後のルールがある意味トラウマになっていて、そのせいで食事を残す事が出来ない。


 よっぽどお腹がいっぱいでそれこそ米粒一つも入らないという状況でない限り、無理をしてでも食べてしまう。


 まるで見た事もないもったいないお化けの呪縛のように。



 ……なんてただ食べる事が好きなだけだったりするのだが。


 だけど残した物を生ゴミに捨てる時、賞味期限が数日しか過ぎていない物を冷蔵庫で見つけた時。


 耳元で誰かが囁くのだ。


『ご飯を残したら、もったいないお化けが出るぞ。』



「や、やっぱり食べようかな!」


 一人、でかい声で呟いて結局食べるのだ。


「あーあ……これでまたダイエット失敗だぁ…」



「もったいないお化け」


 この教訓は食べ物に限らず物を大事にしなさいという事。


 我が家のルールの一つ目と三つ目は自然消滅したし、二つ目はスパルタ教育のお陰で修得、四つ目は今でも気をつけている。


 そして五つ目は、これからも守り続けていく事だろう。


 もったいないお化けに会わないように。


 ルールを忘れないように。



『ご飯を残したら、もったいないお化けが出るぞ。』



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