第17話 今は名もなきチームの誕生

 夜までしっかりご休憩した俺達は、翌日ダンジョン目指して歩きながらネネについて聞いていた。

 こんどは魔法使いとしての実力だけど。


「私は父が天使で母が乳牛系の獣人だったから、こんなに体が大きくて魔法の属性は8属性全部だよ」


 お母さん、好きなんだね。


「ネネさん8属性全部だなんて、凄いじゃないですか!?」

「そうなのか?」


「属性は誰でも1つは持ってるって言われてるけど、全員が魔法使いになるわけじゃないから証明できてないの。だから魔法使いになれた人達が最低1つ持っていたから、そうだと言われてるの。それでね2つ以上の属性を持ってるってなると、いきなりグッと人数が減っちゃうのよ」


「へー、そうなんか」

「8属性持ってるってなれば、お伽話しに出てくる伝説の大魔法使いくらいしか確認されてないんですから!」

「ほぅ、そりゃ俺もすげーんだな」

「当然ですよ、なにせ私達の恋人なんですから」

「えっ……、シバ君?」

「ネネにはまだ全部は見せてなかったな」


 居岩や風呂の湯等で複数属性の魔法使いだと推測はできてるようだったし、倉庫を使って見せても凄いオリジナル魔法ねで済まされたんだが、8属性持ちなんて自信があったら、そりゃ筏で海を渡ろうとするかも知れないし、少しくらい常識外れな魔法を見ても揺るがないわな。


火盾ひたて水盾みずたて風盾かぜたて岩盾いわたて光盾ひかりたて闇盾やみたて氷盾こおりたて雷盾かみなりたて

「えっ……?」


 ネネは混乱している。

 シバはネネの肉まんを揉みしだいた。

 ネネはアンと言って正気に戻った。

 エルネシアは焼き餅を焼いた。

 シバはエルネシアの桃を揉みながらベロチューをした。

 エルネシアの機嫌は治った。


 正気に戻ったネネに総職系男子の能力と持ってる職業を教えた。


「エルちゃん、私要らない子ですか?」

「昨日聞いてた通り私も戦闘させてもらえてませんから仲間ですよ」


「それに俺は魔法の威力を増やす調整が下手なんだよ。ポンポン魔力を使い切るから総量が増えるし、増えても自分じゃ残りなんパーセントくらいってしかわからないから、昨日と今日じゃ同じ感覚で魔法に魔力を追加しても威力がガラリと変わってるなんてザラなんだよ。だからネネが居てくれるなら俺は前衛で戦いながら魔力は回復術に回せるようになるから戦闘も安定するはずなんだ」

「あっそうなのね、よかったわ」


 昨日の風呂でダンジョンから出番があると聞かされていたエルネシアと違い、伝説の8属性魔法使いなのに自分の上を行かれていて、存在意義や存在価値に不安を覚えていたネネだったが、必要だと言われて安心したようだった。


「あと魔力量を増やすためには魔力切れになる必要があるから、悶絶するくらい苦しいけどバンバン魔法使って何度も魔力切れを起こすように」


「あの時のネネさんの顔は今でも忘れられません」


 後にエルネシアがそう言うほどに、魔力切れを続けよう宣言に対して悲惨な表情をしてたんだろう。

 先頭で索敵しながら歩いてたから見えなかったけど。

 ダンジョンに辿り着くまで数日、俺達は和気あいあい(笑)と旅を楽しんだ、はすだ。


 △△▽▽◁▷◁▷


 ダンジョン。

 高さ100メートル以上もある白亜の円塔。

 外側には一切の凹凸も窓もなく、地上にただ1つ出入口があるだけ。

 出入口にドアはなく奥が覗ける。

 それはまさしく回廊と呼ぶに相応しい雰囲気で、完全に設計された人工物を彷彿とさせた。


「ダンジョン探索、以下冒険をするに当たって全員に新装備を配布しまーす、拍手」

『わー』


 パチパチパチパチ。


「まずはパーティーの守り前衛のかなめエルネシア」

「はい」

「エルネシアには道中集めた砂鉄を職人パワーで加工した鋼鉄甲冑騎士セットをプレゼントしまーすイエーイパチパチパチパチ」

「えっ……」


 鋼鉄甲冑と言われ、まだ理解が追いついてない。

 ドッキリは大成功のようだ。


「岩壁。ほらここに座って、着るの手伝うからさ」


 革を通り越していきなり金属なので、鎧下等は相変わらず繊維でできてるんだけどな。

 下半身、胴体、腕、兜、そして盾と剣。

 これで麺頬めんほおを下ろせば戦闘状態にる。


「エルネシア、どこからどう見ても立派な騎士だぞ」


 言われてようやく実感したのか、彼女頬に涙が伝う。


「あのっ、私、今日まで本当に役立たずで、家事とか何もできなくて全部シバさんに任せっきりで、恋人だって愛してるって言ってくれてても不安で、いつか捨てられるんじゃないかって。でもあの日ダンジョンから一緒に戦ってって言われて嬉しくて、それにこんな装備までくれて……ふぇー」


 半泣きだったエルネシアはとうとう耐えきれなくなり泣き出してしまった。


「あーあー、泣け泣け、泣きたい時は全部涙にして流しちまえ。流した涙の分だけ君は強くなれるから」


 甲冑の上からだけど俺とネネは、2人でエルネシアが泣き止むまで抱きしめていた。

 泣き終えたエルネシアの顔は赤く涙でクチャクチャだったのに、とても綺麗だった。


 △△▽▽◁▷◁▷


 ネネには木の防具セットと杖。

 砂鉄がエルネシアの分しかなかったんだ。

 同じ前衛をする俺でさえまだ木の防具セットなんだから、ネネまで鉄が足りるわけもなく。

 杖にしたのは広く牽制できるからってだけ、武器攻撃力は期待してないんだと。

 複数のモンスターと接敵して前線を抜かれた時の自衛手段でしかない。

 近接戦闘捨ててる選択なのだが、大丈夫なのだろうか。


 俺の武器は総石製の剣だけ。

 切れ味なしの鈍器だから他の武器は必要なかった。

 エルネシアの話しでは、異世界のモンスターハンターは敵の特徴に合わせた武器選びも必要らしいのだが、石武器だと突き刺すか殴るしかないので扱いやすい剣の形にした。


 本当に異世界ラノベの貧乏冒険者のスタートにそっくりな物の足りなさなんですけど。

 初日からずっと足りない尽くしだったんだから、こらからも創意工夫とチームワークで乗り越えて行きましょうか。

 ふむ、チームワーク……チームか。


「今日から俺達は集団パーティーじゃなくて仲間チームと名乗ろう」


 これが俺達のチーム、後のブラックマ結成の瞬間だった。

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