第18話 高過ぎて人間にはついていけないダンジョンのセンス

 エルネシアも落ち着いたのでダンジョンに入る。

 ダンジョンの入口にはモンスターの放出以外ではほぼモンスターが近寄らないらしい。

 それでもほぼなので警戒を怠らずに俺を戦闘に索敵しながら1歩を踏み出す。


 探索者

 地図

 時刻

 方向

 ダンジョンワープ


 おっ、新職業。

 能力はこれ以降移動した場所を地図として記憶する。

 時刻は昼過ぎとか、そろそろ夕方とかの大まかな時間がわかる。

 東西南北や仲間の方向がわかる。

 どれもこれも便利じゃないか。

 ダンジョンワープってのだけはまだ使えないみたいだけど。


 後ろで金属甲冑がガチャガチャ鳴るので足音を殺さずに歩く。

 20メートル先の角から拳大の白く浮かぶ球体が現れた。

 最初から飛行モンスターか、ひょっとしたらこのダンジョン難易度が高めなのかもしれない。

 鑑定(物)しかないのでモンスターの詳細は不明だけど、まだ1階だし油断しなければなんとでもなるだろう。


 石剣で右からスイングして球体モンスターを強打……した瞬間、モンスターが死んで消滅した。

 後には飴玉やキャラメルサイズの白い塊が落ちていた。


「海の近くで塩太陽ですか、1階はハズレですね」

「ねえねえエルちゃん、あれはどのくらいの強さのモンスターなの?」

「生意気盛りの新人モンスターハンター少年が負けて帰ってくるレベルのザコですね。塩でできているので水が弱点ですから、ネネさんならウォーターショット一発で倒せますよ」

「そうなんだぁ、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


 こっちが警戒して慎重に行動してるのに後ろ2人は気楽にしている、……ふむ、これが信頼の効果か。


「塩はいくらでも作れるから先に一掃しとくぞ」

『えっ?』

「本日初公開、雷属性のオリジナル魔法爆雷ばくらい!!」


 サンダーボムを省略した雷爆かみなりばくじゃなくて、オリジナル魔法の爆雷。

 砂粒以下サイズの電気の塊を飛ばす魔法。

 爆雷は自動で移動して敵に接触すると爆発、周囲をプラズマ分解して消滅させる恐ろしい魔法なのだ!

 しかも敵以外は自動で回避するのでわざと当たりに行かなければ無害、それでも当たれば爆雷が消滅するので無害。

 そしてなによりその小ささから発見されにくく使う魔力も極少量で済むという、ダンジョンという逃げ場のない限定空間のモンスターを殲滅するためにわざわざ生み出した。

 ニブルヘイムが遠距離戦略魔法なら、爆雷は敵のみの広域殲滅魔法なのだ。


「シバ君、何かしたの? 何もしたようには見えなかったけど……」

「なに、歩けばわかるさ」


 脳内地図に自動マッピングしながら落ちている塩を無視して1階を探索していく。

 時々遠くからバチッて音がしている。


「簡単に説明すると砂粒サイズにまで小さくしたサンダーボムに、人間は回避してモンスターを追跡する性質を与えて無数に放った」


 実はレールガンにしようかかなり迷ったんだけどねー、弾丸用の金属が確保できないなってなったからレールガンは諦めました。

 親指でコイン弾きたかったんや。


「次からもハズレでザコなら時間の無駄だしこれで殲滅してくよ。代わりにハズレじゃないなら普通に戦闘してもらって戦闘技術を身に着けていこうと思ってる」

「はい、わかりました」

「わかったわ」

『……はぁ』


 2時間後、これまでで唯一ドアのある部屋を見つけた。

 ラノベの定番ならここがボス部屋のはずだが。


「以前話したボスの出てくる部屋です。ダンジョン各階のボスは同階で出たモンスターを強くしただけの個体がほとんどです。稀に違う種類になったりします」


 ブリーフィングも終わったのでドアを開けて爆雷を流し込むが、ボスが居ない?


「ボスは部屋の中に入らないと現れませんし、1度入るとモンスターを全て倒すまで出られません」

「なる」


 それでも爆雷を流し込んでおく。


「2人共、ドアが閉まるまで部屋に入ったら壁際まで移動してくれ」

「はい」

「はーい」


 なんとなくネネの事がわかってきた、活動的おっとり? 穏やか? お姉さんだ。

 運動が得意なわけではないがアクティブ、行動派、そう言われるタイプの優しい女性。

 最近は毎晩テクニックをレクチャーしてくれているので腰のキレが増した気がするし、母乳も継続して飲んでるから、エルネシアに少し大きくなってすよと嬉しい言葉をもらっている。

 バタンとドアが閉まると部屋の中心に魔法陣が発生しモンスターが現れた、しかしその瞬間にはバチッという音と共に消滅して奥のドアが音もなく開いた。


 ドロップアイテムを鑑定しても塩としか出てこない。

 出現モンスターと同じアイテムだろうと無視して先に進む。

 3人が部屋を出たら後ろでドアが自動で閉まった。

 代わりに隣の壁に下へ続く階段が現れた。


「これは?」

「次の階に到達したパーティーにのみ見える階段で、下りると下の階のどこかにランダムで出ます」

「塔の外観からして直径20メートルもないのに1階で2時間歩いても地図が埋まってないからな、やっぱダンジョンってのは空間が歪んでるんだろう」

「そう言われていますね」

「まっ、考えるのはこんくらいにして先に進むか」

「はい」

「はーい」


 △△▽▽◁▷◁▷


 2階で出てきたのは牧場や動物園なんかで見る山羊だった。

 巻いた角に垂れ下がった毛と、どう見ても見間違えない山羊だ。


「行きます、ネネさんモンスターを濡らしてください」

「我が心の求めるまま水よ敵を撃て、ウォーターショット」


 斜めの位置から2人と山羊の戦闘を観察しているが、まずネネに山羊を濡れさせてからエルネシアが盾を構えて突撃していく。

 山羊の角を盾で上手くいなしながら数回斬りつけて倒した。

 ドロップアイテムを拾って集合。

 渡されたのはさっきの塩と変わらないサイズの木の実。

 鑑定には胡椒と出ている。

 俺の知ってる胡椒とサイズが違ーーーう!


「お疲れー、戦ってみてどうだった? 楽勝に見えたけど」

「あのモンスターはペッパーンといって攻撃すると粉末胡椒を巻き散らかしてまともに戦えなくしてくる迷惑なモンスターで、水魔法で濡らすと毛が貼り付いて胡椒が舞わなくなるので濡らしてから戦うのがセオリーです。ネネさんさえ居れば苦戦するような相手ではありません」


 ネネに視線を向けてみる。


「私はウォーターショットを1度使っただけだから」


 それだけで感想を求められてもなんて答えたらいいかわからんわな。


「俺が参戦する必要もなさそうだし、2階は斥候に務めるよ」

「はい」

「はーい」


 しかしこのペッパーン、ドロップアイテムは胡椒だけじゃなかった。

 羊毛、羊皮紙、羊肉。

 羊じゃねかよ。

 ちょっとダンジョンのセンスを疑った。


 結局ボスも2人が同じ方法で完封勝利した。

 次は3階だ。

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