第14話 完徹かーらーのー

 イケメン村長の事だから、少ない情報から俺達が北か東に向かったと推測しただろう。

 なので目的地のダンジョンがある東にしばらく走ってから、ロックシールドを足場にしては消してと低空ランニングをした。

 東に向かった足跡が消えたとなったら、北に向かったのを隠すための囮と考えるに違いない。


 ラノベを読んで様々なパターンを記憶していたのが情報戦の勝因で、バカみたいな魔力量持ちな魔法使いが相手だったから追跡していた場合に失敗するんだよ。

 結論、相手が悪かったな。

 村を守るためにと先に拒絶したのはあっちなんだから、掌返されても……


 そんなどうでもいい事を考えながら走り続けて数時間、正面の地平線が薄っすら明るくなってきた。

 日本の夜明けだよー。

 てか、日本どこだよ、帰れるのか?

 帰るならエルネシアはどうする?

 戸籍は、学歴は。

 むしろこの世界が地球の可能性も捨てきれないんだよ。

 昨日のイケメン村長も日本人だったし。

 門番は外人っぽかったから異世界人かどうか不明だけど。

 わからない、保留。


 なら先に考える事は?

 どうやってこの現実を生き延びるか。

 情報が足りない、だがダンジョンは放置できないし、ドロップアイテム次第ではダンジョン付近に拠点を構えるのもありだ。

 服、家具等の布の材料、食材や畑用の種や苗、隠してはいるけど隠せてないエルネシアの焦燥、それを解決するための甲冑用の金属。

 求め始めたらキリがない。


 足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない。

 甘えたって泣き事言ったってどうにもならない、俺が頑張らなきゃだけどエルネシアにも頼らないとどうにもならない。

 だから、緩みそうになる度に自分に覚悟を聞き直さなきゃいけない。

 勇者の能力は便利だ、こんな状況でも不安にならない、立ち止まらなくて済む、ありがたい。


「うっ、うーん」


 背中でエルネシアが呻いた、そろそろ起きるのだろうか?

 マイナス感情にならない俺の、人間らしさを失った俺の拠り所。

 不安にならないからこそ疑問を忘れないようにしている、これでよいのだろうか、男として恋人として、なにより人間として正しいのか間違っているのか。

 マイナス感情にならないからこそ、思考の上で怖いと思う、いつか人間らしさを失ってしまうのではないかと……


 だから今日も俺は疑問を持つ、振り返る、観察する、思考する。

 人間らしさを。


 △△▽▽◁▷◁▷


「ん? 今、何か聞こえたような……」


 周囲を見ても特に何もないよな、空耳か?


「そこの人ー、助けてくださーい」


 助けて? 襲われてるか、陸……じゃないか!

 居た! 海上に板かいかだ乗った人間が、立てないのか座ったままだが手を振ってる。

 手を振り返して相手に見つけたと伝え、背中からエルネシアを降ろす。


「エルネシア、起きろ! 人だ、助けを求めてる!」


 ガバッ!


 一瞬で覚醒したエルネシアは周囲を見渡しながら質問してきた。


「どこですか!?」

「海の上、板か何かに乗ってる、人数1」

「見つけました、シバさんロープと重りになる物を」

「わかった!」


 倉庫から木を柔らかな繊維にして作った長く丈夫なロープに、岩魔法を砕いた石を結びつける。


「できた」

「あの人の上を通り過ぎるように投げてください、絶対に当てないように注意してください」

「やってみる」


 正式パワーコントロールには自信がない。

 全力を出した時の身体能力が地球人の基準じゃ、中学生の感覚じゃ扱いきれないからだ。

 それでも俺に投げろって言ったのは、エルネシアじゃパワー不足だからだろう。

 だったらやるしかねえ!


 倉庫から近いが少し大きな石を出して、別の方向に何個か投げて感覚を修正する。

 30個近くも投げてようやくロープが切れなさそうだが対象を少し超えるくらいの力加減がわかった。


「よしっ、これならいける! せーのっ!」


 低めの角度で真っ直ぐ海上の人の上を通り過ぎ、その後ろ3メートル辺りで着水した。

 相手はロープを掴むと引っ張りだしたので、俺も陸から引っ張っていく。


「ロープは任せました、私は周囲の確認を」

「応」


 それまでもしていたのに、声に出して見ているから安心ろと伝えてくれるエルネシア。

 背後は任せてロープが切れないよう慎重かつパワフルに引いていく。

 ウインチを超えるパワーにより1分足らずで彼女は筏を接岸できた。


「ありが……」


 それが限界だったのか、その女性は立ち上がれずに気を失ってしまった。

 とっさに掌で頭だけ打たないように支える。

 女性を引き上げ、ロープと一応筏も倉庫に収納。

 大回復と状態回復を交互に数回使い息遣いがマシになったのを確認すると背負い上げる。

 デカイ、多分身長が2メートル以上ある。

 20か30くらいじゃなかろうか、背負ってるのに爪先を引きずりそうだ。


「エルネシア、救助成功、少し内陸に家を出して看病する」

「はい」


 夜通しロックシールドの上を走ってたので魔力の残りが少ない。

 大神官の魔力回復なんとか大に賭けるしかねえか。


「この辺りで大丈夫です、シバさん家を」

「居岩」


 いつもの家を作りマットレスを出して女性を寝かせ……足がはみ出ているが仕方ない。

 大回復と状態回復は使っているので、無理矢理ほぼ健康になっているはず。


「エルネシア、そいつを叩き起こせ、何か食わせる」

「起きてください、食事ですよ、お水もありますよ、起きてください」


 異世界人の体質や体力はわからんが、それでも4日前後は漂流していたんだろう、救助した時は唇にひび割れがあり肌がカサついていた。

 今は術で無理矢理持ち直しているだけにすぎないから、さっさと飲み食いさせないとまずい。

 魔力の回復よりも女性の回復に使う方が多い、そろそろ魔力がなくなる。

 ……女性で身長高いし、もしかして効くか?


「あーっ、こんな所に背を低くする不思議な薬があるぞー!?……効果なしか」

「この緊急時になにやってるんですか!」

「平和的に起こしたかったんだよ、魔法で起こすから離れてくれ」

「はい」


 寝ている女性の右足首を掴むと、自分の右胸にサンダーショットを放った。


「あっ、ぐぅ……」

「キャッ!」

「ちょっとシバさん、なんて事はしてるんですか、大丈夫ですけ? 怪我はありませんか?」

「俺はな、彼女も冬のあのビリビリくらいには感じてるはずだ、ほれ、目覚ますぞ」

「あっ」


 女性が目覚めたのを確認すると壁際に居岩で箱を2つ作り、倉庫から食料を出して、隣の箱にはウォーターシールドで水を入れたら魔力がゼロになった。


「エルネシア、魔力切れだ、今回はキツイのが来たみたいだ。あとは任せ……」


 そこまでしか言えず、意識が……

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