第13話 海岸線より北の村

「まあ、予想通りと言えば予想通りでしたね」

「せやな」


 エルネシアの言う通りロックタワーの北方面には小さな村が1つ見つけられた。

 煮炊きだろうか、火事ではなさそうな煙も2、3上がっている。

 村が小指の爪くらいにしか見えないから、人の暮らしぶりは不明。

 当初の予定通り愛想よく警戒して向かおう。


「目的地の村も見つかったし下りるか」

「そうですね、キャッ!」

「岩壁」


 返事をしたエルネシアを横抱きにしてロックウォールを前後に長く横倒しにして使う。

 その上にひょいっと飛び乗ると、その勢いがロックウォールに伝わり……


「ヒャッハー!!」

「キャーーーーーーーーーーーー!!」


 安全性ゼロのジェットコースターのできあがりさ。

 熱操作で靴とロックウォールコースターの隙間を凍らせて動かなくしているので、吹き飛ばされる事はないだろう。

 まあコースター自体が飛んでくかもしれないが、そうなったらそうなったで策は用意してある。


 同じ方向にしか曲がって進んでないし、下に来るほど階段1段の幅が広くなって減速もしやすくなるので、コースターは下2割の辺りで完全に止まってしまった。

 熱操作で靴の凍りつきを解除してコースターから降りる。

 王道パターンだとエルネシアは腰が抜けてそうだから、横抱きにしたまま階段を下っていく。

 気絶も粗相もしてないのに下ろしてと言わないので、本気で動けなくなってるんだろう。

 上りで疲れたろうし、ゆっくり休むといいさ。

 地上に帰るとロックウォールとタワーを消しておくのも忘れない。


 結局エルネシアは村に着くまで自分で歩けなかったらしい。


 △△▽▽◁▷◁▷


 北に回るのに夕方には間に合わせようと走ったので、予定よりも少し遅れたが夕方遅くには村へと到着できた。

 どうでもいいが、横抱きって背中側の持つ場所とか体重バランスとか難しいな。

 門番に警戒させないように、いきなり攻撃されないように、門より50メートル手前で減速して歩きに変える。


「止まれ、何者だ!」


 先端に火を灯した薪を持った門番より誰何される。


「旅の夫婦だ、妻が足を捻って難儀していたところでここの影を見つけてな。中へ入れてもらいたいのだが、どうだろうか」

「確認する、しばらく待っていろ。おーい、誰か来たぞー、客だー!」


 誰かと客は相反してないだろうか?

 相変わらずエルネシアは無言だが、大回復と状態回復は何度か使用しているのでそんな気分なんだろう。

 顔も赤くなった気もしなくもないが、薪の火が赤いからだろう。

 ……いや、ホントのとこほわかってるんだよ、妻発言で照れてるって。

 俺も完全な演技は照れが出そうで難しかったし、今も若干心拍数が上がってるから。


「やあ、これは美しいお嬢さんだ、歓迎するよ」


 規模的に村だからもう村でいいだろう。

 村から出てきたのはどう見ても日本人男子高校生(イケメン)だった。

 大きく3度バックステップするとイケメンから距離を取る。


「彼女は俺の妻だ、それを理解して口説くってんなら殺す」

「っ!」


 自分でも聞いた事のない初めて放つ冷たい声に、ようやくイケメンは反応した。


「これはこれは同郷の後輩君、僕はここの村長をやっている者だ。この村にはまだ夫婦という習慣がなくてね、男女みんなが恋人であり夫婦みたなものなのさ。だから今の対応は僕が浅慮だった、許して欲しい」


「どうする?」

「許します」

「ありがとう」


 エルネシアの許しにイケメン村長頭を下げた。


「僕はまだ日本人だったから君達の関係を理解できるけど、この村の住人は違う。村に宿泊すれば間違いなく2人の回りて始めて、ゆったりと巻き込んでいく事だろう。だから悪い事は言わない、夫婦の関係を大事にしたいなら、村から去った方がいい」


 あっ、そういう。


「なあ村長、アンタ頭いいな」


 ピクッ。

 一瞬村長の左眉毛が反応した。

 これは当たりかな。


「そんなアンタに情報をやるよ、こっから南に行った海岸線から西に何日も進むと森があるんだが、以前その付近でモンスターの大群が居たらしい」

「なっ、教えてくれ、その大群はどうなったんだ!?」

「氷の台風が通過して全滅したってよ」


 言って後ろに振り返って走り出す。


「なっ、待ってくれ、まだ情報が!」

「あばよ、とっつあん! お互い生き残れるといいな! まーみむーめもー!」

「それを言うなら、は行だーーー!!」


 △△▽▽◁▷◁▷


「追手が気になるから今夜は走り続けるから、辛いだろうけど我慢して寝てくれ」

「それはいいんですけど、なにか変な会話してませんできたか?」

「んー? どの辺が?」

「頭いいなの辺りからです」


「あー、あれね。あれはな、村長が武力を使わずに俺達を追い返したかったんだよ。門番の装備は見たか? 武器は手製の木と石でできた槍で防具はなしで、村の囲いも牧場程度の木製だった。つまりあの村はできてまだ間もないんだよ、門番に必要だから先に槍は作ったけどあれが限界だから防具はなしで服だけ。村には家畜も産業もなく、家すら作りかけかもしれない。今でも生活はギリギリなんだと思う、だからこれ以上村に人を入れて食料を減らしたくない。だけど俺達の装備は木と石だけどちゃんとした形になっているから戦闘はしたくない。ならどうするか? 俺達自身の意思で村に入りたくないと思わせればいいと思いついた、だから村では外では夫婦だろうとも関係なく村人は誘ってくるだろうってな」


「あの村長は一瞬でそれを思いついて、シバさんはそれを見抜いたと?」

「そそ、他にもおかしな言い方とか色々あるんだけど、彼に敵対する気はなかったから決断を迫られる情報だけ投げて逃げてきたってわけ」

「それがあのモンスターの大群だと」

「あんまりにも不自然だったからな。離れるに越した事はないと思うよ」


 それっきりエルネシアは考え込んで、いつの間にか眠っていた。

 途中、横抱きからおんぶに変えたのだが、背中に甲冑が当たっていたのでふよんを堪能できなかった。

 無念。

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