第12話 天高く人痩せる塔

 甘酸っぱい空気が落ち着いてから靴跡の追跡を始めた。


 追跡者

 隠密(小)

 看破


 チェイサー? それともストーカー?

 2つ目の隠密(小)だ、これで少し効果が上がるだろう。

 看破は瞬間観察力みたいな能力で、僅かな情報から推測の材料を見つけ出せるようだ。

 多分実力を隠した達人だとか仕掛けられている罠だとかを見抜くんだろう。

 今は薄れてきている靴跡がよく識別できるようになっている。

 これなら見逃して迷子になる事もないだろう。


「そう思っていた時期が俺にもありました!」

「なんですか急に」

「ずっと追跡していた足跡は見失わずに来てるんだけど、その足跡の持ち主自体が迷子だったらしいんだよ」

「ええー! そんな事ってあるんですか!?」

「現在進行形で、ここに」

「どうします? 1度海まで戻りましょうか?」

「んー、ちょっと試してみてからな」


 岩塔。


 魔法は込めた魔力量によりその大きさを変える。

 ならば登れるロックタワーに目茶苦茶魔力を注ぎ込んで使えば……


「うそーん」

「これはちょっと、大きくし過ぎじゃないんですか?」

「タワー系初めて強化して使ったし、加減がわからなかったんだよねー」

「なるほど」


 誰が使っても同じ結果になる魔法。

 強化というか巨大化させるには魔力を注ぎ込むしかない。

 しかし加減を誤ってしまうと……


「雲の上まで先端突き出てますね」


 こうなったりする。


「まあ、反省は後にして登ろう。上からなら村以外にも何か見つかるかも知らないしさ」

「はい」


 ロックタワーは外側が螺旋階段になっていて、枠しかない窓から外が見える。

 螺旋階段の内側は一定の上昇距離ごとに厚い石の床と何もない広間になっていてドアはない。

 そしてこれだけの重量への支えが必要になるので、塔は円柱から円錐へとその形を変えていた。

 つまり。


「ある程度の高さまで登るのが長い」

「徐々に短くなってますけど、1階登るだけでまだまだ時間かかりますね」


 ラノベあるあるの身体強化欲しい。

 空を自由に飛びたいよ。

 テレポーテーション能力が欲しい。

 エスカレーター、エレベーター。

 ご飯、パン、麺、肉、野菜、果物。

 こんな脳死状態じゃしりとりしても退屈は拭えないし、むしろ余計な思考が挟まってくるから無心で登れずにストレスが溜まるんじゃないだろうか?

 ロックシールドとか効果のあるうちは自由に動かせないから、自由に空飛ぶ足場なんてできないし。

 これだけ職業があってもまだ欲しい能力とか物があるだなんで、人間とはどこまでも欲深い生き物よな。

 無心どころか雑念満載で歩いていると雲の下までは来れた。

 もうここがゴールでもいいよね?


「エルネシア、これ以上登ったら雲に隠れて見渡せなくなるから、この辺りから周辺を確認しようか」

「あっ、はい。もうと言うかやっと言うか、上まで辿り着いたんですね」

「悪い、この高さは本気ですまないと思ってる」

「楽して下で待ってるより、登って一緒に苦労したいですから」


 ズッキューン!!

 エルネシアたんマジ女神!


「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。だったら俺はなるべく君に楽をさせられるように工夫して生きてかなくちゃ」

「私騎士なのにまだ1度も戦ってませんからね、何もかもおんぶに抱っこで楽してないなんて言えませんから」


 アカン、この娘ええ娘過ぎて眩しいねん。

 風呂とかなんだとかのルールや作法って教えてるの、まるで騙してるようで胸が苦しくなってきたわ。


「一応下りは楽ができる方法を考えてるから、もうちょっと頑張ってくれ」

「はい!」


 輝かんばかりの笑顔に押されるように、螺旋階段を少し下りながら窓から外を調べていく。


「当然ですけど西と南には何もありませんね」

「今日まで歩いて来た道だからなー、何かあったら俺の探索能力の欠如が招いた失敗だったな。次は東で本命は北だから、どっちかに何かある事を願おう」

「はい」


「うん? なんだあれ?」

「なんか薄っすらとだけど、白いロックタワーみたいなのが、地平線の向こうからチラッと頭だけ見えてる」

「私には見えませんけど、多分それってダンジョンだと思いますよ」

「そうか……ダンジョンって餓死したりするのか?」

「へっ? えっと、わかりません。ギルドの資料にもなかったような気がするんですけど、どうしてです?」


「あのダンジョンが飢えてモンスターを放ったんだとしよう」

「はい」

「だったらなんで、森の出口からここまでモンスターに出会わなかったんだ?」

「あっ! つまり森の近くにダンジョンはあったはずなのに、シバさんの風魔法の跡地からはどこにもダンジョンは見つからなかった。東のダンジョンから来たモンスターなら、森に集中していたのもここまで接敵してないのもおかしい。だからダンジョンが餓死したと思ったんですか?」

「正解 ついでに言うならダンジョンを攻略したであろう人物を見なかったのも理由かな」


 ニブルヘイムでダンジョンを破壊できるかは不明なのと、ダンジョン攻略直後にニブルヘイムが攻略した人達に当たった場合もあるけど。

 そうだったら不運だったなと言う事で。

 自分達の安全第一に行動してんのに、見ず知らず以前に居るかどうかもわからない相手を気にして大技打てるかよ。

 それにダンジョンの中に人が入っていったなら、外に出たモンスターも彼等を殺そうとダンジョンに戻るだろうし。


 最悪な可能性としては、偶然あそこで大量にモンスターが自然発生したんじゃなくて、人為的に発生させられたか集められていた場合だ。

 やったのが魔族とか悪魔とかっていうのがあるあるパターンなんだろうけど、他の可能性としては最初のオーガみたいな野良モンスターの上位種とか進化個体とか、そんな知恵をつけた強いモンスターもあるか。


 まあ今は面倒くさい可能性があるとだけ覚えておいて、ダンジョンでモンスター乱獲レベルアップなんかの対応しかできないか。

 それこそ楽々ラノベじゃないんだから一発でベストメンバーが集まるわけないし、聖剣なんかの伝説の装備も手に入らないだろう。

 いざとなったら地下に隠れてニブルヘイムじゃー! しかない。


「考え込むのはこの辺りにして、そろそろ北方面も確認しませんか?」

「ん? ああ」


 東の窓からずっとダンジョンを見ていた俺の思考を止め、本来の目的に戻してくれるエルネシア。

 ほんにお主はようできた嫁よのぅ。

 嫁とか恥ずかしすぎるから本人には言えないけど、まだ。

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