7-4 お泊まり女子会+1死体w

 ある土曜日、野花が泊まりに来た。古海と示し合わせたのだ。事前に聞かされてはいたが、現実に幼なじみが小さなキャリーケースをごろごろ引きながら玄関に入ってくると、なんやら知らんが、少しドギマギした。


 あの中に「お泊まりセット」という女子の秘密が入っていると思うと。昔は憧れのお姉さんだっただけに、なんだか緊張してしまう。俺、意外に純情w



 俺にちらっと視線を飛ばすと、「おじゃまするね」と、耳元で囁いた。それから部屋に入ると、古海を見つけてハイタッチ。ふたりは興奮して、きゃあきゃあはしゃいでいる。どうやらお泊まり女子会という話にしてあるらしい。「いらっしゃーい」とか、ティラは無邪気に微笑んでいる。


 ――まあ俺以外はケルちゃん含め全員女子だから、四捨五入すれば女子会だよな。


 頭をかくと、俺は玄関の鍵を締めた。


         ●


 お泊まり会のスケジュールを、古海と野花は厳密に決めてあった。まずはなぜか俺主催の、「カフェアートの会」だ。


 懸賞で当たったエスプレッソマシンが大活躍した。ストローや爪楊枝を駆使して、コーヒーの表面に絵を描いてやったよ。古海に逆らうの面倒だし。


 ミントには耳の長い猫の顔。ティラには天使の羽。野花には表面を覆う花束。古海には文字で「死体」と描いてやった。ザマミロw


「……なんかあたしのだけ落差ある」


 古海がむっとしている。


「お前好きだろ、死体。自分でも卵焼きに描いてたじゃないか」

「そりゃあんたは死んでるんだから、死体って描いてあげたわけじゃない。ご主人様の愛の証拠に。あたしはあんたに死体とか言われる筋合いないわ。もういいから、早く死後硬直しなさいよ、このドンガメ死体っ!」


 なんか怒ってるしw


「なあにそれ。なおくんが死んでるとか」


 野花はにこにこ顔だ。


「新しい厨二設定なの、それ?」

「厨二もくそも、実際死んでるし」


 古海はまだ不機嫌だ。


「死んでたら動くわけないでしょ。ほら」


 野花に頭をなでなでされた。俺、園児かw


「体温だってあるし」

「はあ。未練かなにかで死に切れないみたいですよ。直哉くん」


 ティラが説明する。天使の羽のカフェアートをもらって、うれしそうだ。


「そりゃ生きてるんだものね。ねえなおくん、かわいい絵をありがとうね」


 手をそっと握ってきた。


「でも、古海ちゃんがかわいそうだから、もう一杯作ってあげてよ。今度はちゃんとした奴」


 そのまま手を撫でている。


「おっお姉ちゃん……」


 絶句した俺を、猫がじっと見ている。遊び相手を奪われると懸念しているのかもしれない。


 仕方ないんで、さらに二杯創った。それを古海に差し出す。ひとつには、カマキリとコオロギ、カエルを持った男子が描いてある。文字は「ご主人様」だ。もう一杯には、古海らしき女子が心から楽しげに笑っている絵を描いた。周囲は花畑。時間をかけた力作だ。


「これ、あたし……」


 コーヒーの表面をじっと見ていた古海の瞳が潤んだ。あわてて横を向くと口にする。


「そ、そうね。良くできてるわ。ご主人様がほめてあげる。あんたもあたしが好きなんだったら、素直になりなさいよ。……どんだけツンデレなのよ」


 ティラが古海の手を取った。


「さあ、みんなで飲みましょう。少し冷めちゃったけど」


 全員、コーヒーを手に取った。直哉はアートを描いていない素のエスプレッソだ。しばらくの間、親密な沈黙があたりを支配した。窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえてくる。


 夕方前に、全員でスーパーまで買い出しに出かけた。ミニキッチンだからろくなものは作れないが、幸いなぜか「KK」だ。両方で作業して工夫すれば、それなりにはなんとかなる。


 メニューはカレーにサラダ、デザートは苺のムースケーキ。ひとつのキッチンは古海が陣取って、ティラを使役してカレーとサラダを作っている。ミントには、猫用の「ネコ缶×カリカリ」ケーキを作らせているようだ。


 もうひとつは野花で、ムースケーキ担当。俺は男手として、生クリームと苺、牛乳と砂糖とゼラチンを延々泡立てる役。野花のOKが出るまでテーブルで十五分もやっていたら、腕がパンパンになった。


「いやーおいしいわねー。こうやって全員揃ってお泊まりディナーにすると」


 古海の機嫌はすっかり直っている。


「ええ。天上のご飯よりおいしいかも」


 ティラはカレーをもぐもぐ頬張っている。


「天上では食べ物なんてないんじゃないの? ミントとかだって食べなくても平気みたいだし」

「活動エネルギー、生きる糧という意味では不要なんです。でも愉しみとしての食事はあるの。だから毎日というわけではなくて、うれしいときや記念したいとき、逆に悲しいときとかに食べますね」

「へえー。それも新しい厨二設定?」

「そうそう」


 古海が軽くいなす。なにを言っても信じないので、野花はもうすっかり適当にスルーして扱うことになっていたw

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