5 沖縄鼻血旅行の来訪者
5-1 謎の天使水着
「きれいだねー海」
「思い切って来てよかったな」
「ええ……」
俺はティラと笑い合った。
ふたりの前には、南国のコバルトブルーの海が広がっている。砂は白くてさらさらしており、手に取るとサンゴが細かく砕けたものとわかる。
空は抜けるように真っ青。真上から照りつける大きな太陽に熱せられた風が海から吹き、
「……ちょっとわかってんの、あんたたち。あたしが当てたのよ福引。なにふたりっきりの世界に入ってんのよ」
不満そうに口を尖らせたのは、古海だ。ロングスリーブのTシャツを着て、白と紺のボーダーが胸の形に歪んでいる。セーラー服でないので、かなり新鮮に感じる。
「わかってるって。ネクロマンサーご主人様には大感謝しております」
「わ、わかればいいのよ。わかれば」
ちょっと照れくさそうに瞳を細めた。
「ゴールデンウイークの沖縄って、泳げるんですねぇ」
遠浅の浜で遊ぶ観光客を見ながら、ティラが感心したように口にする。
「そりゃ海開きが四月だしな。本気で泳ぐにはまだちょっと冷たいから、ちょい入り程度なんだろうが。……さて、では仕事にかかるか」
「仕事?」
古海が眉を上げた。
「俺があの世に旅立つための修行じゃないか、特等旅行の目的は」
「そういやそうだったわね、建前は」
「建前ちゃう。本気や」
「なんで関西弁よ。気持ち悪い」
「修行大賛成です」
ティラがうれしそうに瞳を和らげる。
「で、具体的にはどんな感じで進めましょうか」
「まずは水着だな。水着寸止め訓練」
「……名称だけでアホらしさがわかるわ。それが『修行』なんだ」
口を歪めて腰に手を当てた。
「とにかくだな。俺様が水着の美少女ふたりと遊ぶことで、これまで十六年間、たったの一度もできなかったイチャラブの疑似体験を……うっ……」
「涙流してるじゃない、いやだ」
天然天使ですら、さすがにあっけに取られている。
「もてない男はこれだから……」
古海もあきれている。
「真面目な修行だからな、これ。未練満載の中で、『水着美少女といちゃつきたい』って奴がひとつ消えるんだから、お迎えには近づくだろ」
「たしかに、それはそうね」
ティラは同意した。
「じゃあ着替えろ、ふたりとも。ほれ早く。エッチな水着に」
「エッチなわけないだろ、十八禁じゃあるまいし」
古海にどつかれた。
「普通の水着だよ」
「ちぇっ……」
微妙にテンションが下がった。
「まあ悩殺タイプにはしといたけどね」
「悩殺……。はよ着替えろ。俺もう下に着てるしさ。ここで待ってるから」
「わかったわよ。なによヨダレ垂らしちゃって、いやらしい。――行きましょ、ティラ」
「はーい」
ふたりはリゾートのクラブハウスに消えた。直哉はいそいそと水着姿になると服をトートに放り込んでビーチバーのスタッフに預け、アイスコーヒーを飲みながらエロ水着妄想に耽っていた。
「お待たせー」
古海に肩を叩かれた。
「どうよ。ピチピチ女子中学生の水着姿は」
シナを作ってみせた。
「悩殺されるでしょ、花柄のトライアングルビキニ。地元じゃこんなかわいいの着れないし、冒険してみたんだ」
「た、たしかに。かわいいし、その……。き、きれい……」
思わず言葉が途切れたw
胸を覆うのは三角の小さな布で、張り付くように包んでいるだけ。ボトムも同様で、紐は両脇で蝶々結びだ。裸も同然の水着なので、体のラインがモロにわかる。古海は割とスレンダーなタイプだから、Cカップといえどもそれなりに存在感が大きい。
「い、生きてて良かった」
「なに泣いてんのよ。第一、あんたもう死んでるじゃない」
ツッコまれた。とはいえ、ほめられて嫌な気のする女子はいない。普段なかなか人には見せられないスタイルの良さを持ち上げられて、古海はうれしそうだ。
「古海さん、着替えるの早すぎ……」
ティラがクラブハウスから出てきた。
「ぐはーっ」
秒殺されたw
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