3-4 JC&天使と同じベッド ――喜んでいた頃が、俺にもありましたw
うはー。JC&天使と同じベッド。死んでから俺様まさかのモテ期到来。もっと早く死んどけば良かった。あなたの今日のラッキーアイテムはボツリヌス菌ですとか。
俺は盛り上がったのだが、実際はすぐに後悔するはめになった。ティラはさすが天使というか、すぐ人を信じるところがあるので適当に言いくるめてきた。ところが古海には、その手がまったく通じなかったからだ。
お楽しみのバスタイムからして悲惨だ。目隠しされてベッドに縛り付けられ、ティラと古海が風呂できゃっきゃはしゃぐのを聴くだけの放置プレイという。夜は夜でふたりがベッドに寝て、家主のはずなのに「下僕死体」(ネクロマンサー先生談)の俺は、床に転がされてタオル一枚という。
翌日、俺は例によって学校を自主休校した。なぜか古海も休んでつきまとっている。
「一緒に行動すると、留年地獄になるよ。古海ちゃん」
ティラがあきれているが、古海はどこ吹く風だ。
「いいのよ。真面目で通ってるんだからたまには休んでも。こっちはあたしの一生が懸かってるし」
どこから出したのか、エプロンなど纏って、おかゆを作っている。裸エプロンでないのが残念だが。
「とにかく朝食はあたしが手によりをかけるから、あんたたちはコーヒーでも淹れてなさいよ」
なんとなく嫌な予感がして、俺はそれとなく観察していた。メニューはおかゆと卵焼きのようだ。おかゆが炊けてきて吹きこぼれると鍋の蓋を取って、味見などしている。
――と、ポケットからなにか小瓶を出して、中の粉末を鍋にざっと流し込んだ。俺たちの様子をうかがうと、そのままお玉でぐるぐるかき回している。
これは……。
これは飲めんw なんたってマグカップを口に着けたまま、上目遣いで一部始終を目撃しちゃったからなー。
「さあーできた。うん、おいしいに違いないわ」
不揃いな食器におかゆを盛り、大皿に卵焼きを載せた。卵焼きにはケチャップで「死体LOVE」と描いてある。
「なんだよこの不気味な文字列」
「いいじゃないの。かわいくて。メイド喫茶のオムレツってこうなんでしょ?」
「はあ、かわいいんのかなあ、これ」
「食い物の上に描く文字じゃねえだろ」
「味はいいんだから、どうでもいいでしょっ」
横を向いてしまった。
「……古海は食べないのか、おかゆ。自分にはよそってないが」
「あ、あたしは……その……ダイエットで」
横を向いたまま、閉じたまぶたがぴくぴく動いている。
「……じゃあ私もやめとこうかなあ」
ティラが箸を置いた。
「そうね。天使だから大丈夫とは思うけど、食べないほうが無難ね」
「古海」
「なによ」
「お前、これ食ってみろ」
レンゲでおかゆをすくうと、突きつけてみた。
「嫌よ。ダイエット中って言ったでしょ」
「ひとくちくらい食べても平気だろ。貧乳だから、少しくらい太ったほうがいいぞ」
「はあ? 貧乳とはなによ失礼な。Cカップなのわからないわけ? そりゃこの天使よりはちょっとだけ小さいけど、クラスではエース級に大きいのに」
胸をぐっと突き出して見せつけると、例によって逆ギレし始めた。
「そもそもなによ従者のくせに口答えして。生意気よあんた死んでるくせに。だいたいこんなの食べて平気なわけないでしょ、毒を盛ったんだから。早く食べなさいよ。意識がぼーっとなったところで、ネクロマンシーに協力するって言質を取って術を始めるんだから。ほら口に入れなさいっての!」
「……やっぱり」
「なによやっぱりって。――あっ……」
ネクロマンサーの額に冷や汗が浮かんだ。斜め上を見て、必死に言い訳を考えている。
「し、死体は毒に当たったくらいがかわいいのよ。おっ男前になるっていうか……その……」
「ひとこと言っておくが、もしお前が今度この類のこすっからい手を使ったら、金輪際協力しないからな。絶対に。いいか絶対にだ」
強く言われると、古海はしゅんとなった。
「……わかったわよ。なによ、ほんの冗談じゃない。男のくせに度量がないわね。神経毒くらい、いいじゃないねえ。真に受けてマジ切れしちゃってさ……。わ、悪かったわ。ご……ごめんなさい」
小声でぼそぼそ言う。
「わかればいいよ。おかゆはアレだけど、卵焼きはおいしそうだし。ちょっと文字が不気味だが……」
フォローしたつもりだが、どうにも救いようがない気もする。
「……まあいいや、とにかくみんなで食べよう。俺、いつも朝食はバナナとヨーグルトなんだ。それも出すからさ。コーヒーとヨーグルトが合うんだよな」
「わあ、おいしそう」
「そ、それならあたしも食べてみたい。ヨーグルトにはジャムをかけて」
ようやく場が和んだ。
たしかに落ちこぼれネクロマンサーはかわいそうでもある。旅立ちの寸前とかになったら術にかかってやってもいいな。本人が喜んだら、それからこの世を去って消えちゃえばいい。
使役期間が短いのは申し訳ないが、夢を諦めて嫁に行く前、一度くらいは「死者蘇生に成功した」って思い出をあげてもいいじゃないか――。
俺はそう考えていた。珍しく俺、いい奴w
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます