夏休み前の小テストに備えて



七月も半ばに入った。

文芸部の部室で俺と優衣は、今日の授業内容の復習をしていた。


「もう直ぐ、小テスト期間ですね」

「そうですね」


この学校は二期制なので、十月上旬に中間テストがあって、夏休み前に行われる小テストは中間テストでも出題されるモノが多い。

なので、しっかりとこの範囲を勉強と問題用紙を保管しておくと十月の中間テストで楽になると明言されている。


「ふぅ、三学期制が羨ましい」


昔は全ての学校が三学期制だったと聞いたが、今は二期制が大半で、少ないが三学期制があるようだ。


「でも、三学期制だと五月下旬か六月上旬にテストですから、色々と忙しくてもしかしたら私達はテストが原因で付き合うまで仲良くなれなかった可能性もありますよ」

「あ、確かにそうか」


そういう可能性もあるか。

テストを気にして、もしかしたら恋人になれなかった可能性。

ま、考えても仕方がないな。


「っと、そろそろ休憩するか?」

「あ、そうですね」


放課後になり、直ぐに文芸部で小テストの為に勉強をしていた。

そこそこの時間になって、俺達は休憩をとることにしたのだが。


「何か買ってくるか? ジュースぐらい奢るよ」

「あ、うん。なら、レモンティーをお願いしても?」

「ああ、いいよ」


こうして、俺は文芸部から学食・購買部へ向かった。

学食と購買部は同じ建物なので、放課後でもそこそこ生徒たちがいる。

この学校は比較的最近出来た学校だから、意外と施設が充実しているところが嬉しい。


サクッとレモンティーを二つ購入。そのまま文芸部へ戻る途中で、七海とすれ違ったので軽く挨拶すると、七海に「ちょっと待って、聞きたいことがあるの」と言われた。



「なんだ?」

「その、最近さ。清水さん髪型変えたり、雰囲気変わったじゃん」

「ああ、そうだな」

「何か知らない?」


探るような、カマをかけるような質問に俺は事前に予測していたので、冷静に答えた。


「いや、知らないな」

「……そう」

「七海は清水さんと仲良かったっけ?」

「え、あ、うん。ちょっと気になってさ」

「気になるって?」

「その、みんなで清水さんが可愛くなったことで話したんだけど。やっぱり恋人とか出来たのかなって」


なるほどね。まあ、普通はそういう予想になるか。


「それに、睦月は清水さんと同じ部活でしょう? 何か知っているのかなって」

「ああ、確かに同じ部活だけど、文芸部で一緒にいる時も基本的に会話はないぞ?」

「そうなの?」

「ああ、まあ、同じオタクだから、ゲームで協力プレイもしたことはあるが」

「へ、へー、意外と仲いいの?」

「うーん、まあ、そこそこ? けど、クラスで話すほどではないな」

「そっか」


俺の言葉に七海は「そうなんだ」ち納得して、そのまま俺達は別れて七海は部活に向かった。

付き合っていることは隠しておく方向で優衣と話し合っているので、そこそこ仲が良いと答えたが、もしかしたら七海は俺と優衣の関係をなんとなく察しているのかもしれないな。


「どっちでもいいか」


俺は優衣の待つ文芸部へと戻ることにした。




「……そこそこね。レモンティー二つ持って文芸室へ戻ったようだし、もしかしたら、遅かったのかなぁ」


相葉七海は、一度後ろを振り返り、睦月の背中を眺めながら、小さくため息をついた。




文芸部に戻ると、俺と優衣はそのまま集中して夏休み前に行われるテストの対策をした。

他の学校に進学した友人の話を聞く限り、この学校はテスト範囲を結構わかりやすく教えてくれる上に細かい小テストも多いので、かなり優しい学校のようだ。

教師達に感謝だなぁ。


まあ、面倒だから授業をさっさと進めて、小テストでヒントを渡して本番の期末テストの点数底上げをしたいのだろうが。


「そろそろ、いい時間だな」

「そうですね」


放課後いつも帰る時間が近づいてきたので、俺達は復習を切り上げたのだが、個人的に物足りない。

何が足りないかは言わなくても分かってもらえるだろう。


「十分ぐらいか?」


俺がスマホで時間を再度確認してそう呟くと優衣が何がですか? と問いかけてきたので、俺は優衣にこう告げた。


「イチャイチャする時間」

「……はぁ」


残念なものを見る目で見られて、ちょっとぞくぞくしたけれど、俺は勘違いしている可能性のある優衣にこう言った。


「濃厚接触じゃなくて、普通にイチャイチャしたいんだけど? 優衣が嫌ならあきらめるけど」

「誰も嫌なんて言ってないじゃないですか」


俺は優衣の言葉が嬉しくて、椅子から立ち上がり、机の迎え側に座る優衣の隣の席のパイプ椅子へ移動する。


「何をするつもりですか?」

「じゃあ、手を握らせて」


優衣が仕方がなさそうに、けどちょっと嬉しそうに手を伸ばしてきたので、恋人つなぎをする。


「小さい手」

「普通だと思いますよ?」

「俺にとっては小さくてかわいい手だ」


優衣に、何言ってんだコイツって顔された。

優衣はあまり周りから可愛いとは言われなかったようだしな。俺から言わせてもらえば場関連ちゅだと思うが。


「じゃあ、次は抱きしめていい?」

「えっと、セーターは?」

「できればワイシャツも」


即座に優衣の拳が俺の腹に叩き込まれた。まあ、そこまで痛くはないけどね。


「脱ぎませんよ」

「わ、分かってるよ」


優衣はスクールセーターを脱いで、俺と向き合う。


「おいで~」

「はぁ……」


お互いに向き合って抱きしめ合う。優衣は溜息をつきながらも、しっかりと俺を抱きしめてくれる。

もちろん、俺もしっかりと優衣を抱きしめる。


俺の胸元に優衣の心臓の音が微かに聞こえてくる。同時に優衣の体温と静かな吐息が聞こえる。


「夏、課題をする時に家に来てくれないか? 変な意味ではなくてさ。出来るだけ会いたいなって」

「いいですよ」

「それと、海とかプールって行きたいか?」

「それは別にいいですね。トラブルが怖いですから」

「ナンパとか?」

「はい、イベントなどは警備員がいますけど、そういうところは」

「確かにな」


それから、少し夏の予定のことを話した。

お互いにオタクだからか、一般的な学生が行くようなデートではないが。


「せっかく彼氏彼女になれたんだ。色々、一緒にしてみような」

「はい、睦月さんとなら、楽しめそうです」


コスプレをしてみたかった優衣。けど、胸のことや一人で何かするには勇気がいる。

俺が優衣の心の支えになれるのなら、手助けぐらいはするさ。


「そうだ、この夏やってみたいことって、コスプレだけか?」

「うーん、そうですね。イベントでコスプレは前からしてみたかったですけど」


優衣は少し考えて、こう告げた。


「あとは夏じゃないですが、いつかイベントに一般ではなく、サークル参加してみたいですね」

「サークル? 優衣はイラストとか漫画って描けるの?」

「えっと、そう言うわけではないんですけど、一度はやってみたくないですか?」


優衣の言葉に確かにやってみたいとは思っていたが、イラストも描いたことがないからな。


「確かに一度くらいはやってみたいけど」

「……難しいかな」

「あ、ごめん。せっかくだ、目指してみようか。サークル参加」

「い、いいの?」

「うん、いいよ」


こうして、俺と優衣の目標の一つにイベントにサークル参加をすることが決まった。

まあ、今は小テストに集中して、夏休みまでの間に夏のイベントの準備をしつつ、サークル参加についても色々調べてみることにした。

それと、俺と優衣がサークル参加出来る何かを作れるかどうか確認と練習もしてみよう。

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