小テスト後



夏休みが終わった後の期末テストの範囲としても出される小テスト期間が終わった。


と言っても、期末テストのような緊張感のある時間ではなかったが、それでも連続で小テストが続くと、終わったときの解放感は全員が感じているようで、午後最後の授業が終わった後、みんなホッとしたような表情だった。


小テストの手ごたえは悪くはない。どちらかと言えば良い気がする。


まあ、クラスメイトの中には絶望しているのがチラホラ。


運動部の連中が多いな。七海も肩を落としている。とはいえ、本番は期末テストだ。まだ、何とかなるようだから、頑張ってくれ。


問題用紙を絶対なくすなよ。と言う教師の忠告に従い、百円ショップで買ったファイルに問題用紙を入れておく。


あと数日で夏休みだ。


優衣と会える回数が少なくなるが、それはそれで楽しみな部分もある。


夏休みの前半部分はお互いにバイトがあるので、中々会えないが全く会えないわけではない。


俺の家は両親も仕事で帰れないことも多いし、優衣とも話し合って、時間がある日はうちに来ることになっている。


「ん?」


で、今の俺の問題は先ほどまで肩を落としていた七海からのメッセージだ。


相談があるそうだ。


今日の放課後は優衣がバイトがあるので、俺も真っ直ぐ帰ろうと思ったが、予定を変更して七海の相談にのることにした。






七海の相談は、また男の視線か何かの相談だと思っていたが、全然違った。



「夏休みさ、デート行かない?」


文芸部の窓やドアを開けて、換気をしていると少し遅れて七海がやってきた。

そして、パイプ椅子に座ってもらって、話を聞くと開口一番に、そう言われた。


「デート?」

「う、うん。駄目?」


七海は緊張した面持ちで、俺をやや上目遣いで見詰めてくる。可愛い。


「あ、あー、え? それは練習と言う意味で?」


前に少女漫画を読んだとき、練習でデートする話があったけど。そういうの?


それなら、俺も優衣のとのデート参考にはなるか?


「違うの、えっとね、アタシさ」

「うん」

「睦月のこと好きかもしれない」

「……」


七海の言葉に俺は固まる、なるほど。好きかも、ね。


「好きかもしれない、か」

「うん、その、興味があるといいますか」


あー、そっちか。俺、もしかしてキープされそう? いや、七海の性格上そういうのは無いな。


しかし、これは困ったぞ。一応、優衣が誰かに告白された時は、直ぐに俺の名前を出すという話だったが。


「あーその非常に言いづらいけど、俺彼女いるのでそういうのは」


俺がそういうと、七海は「あ、やっぱりか」という表情になり。


「そっか、ごめんね」


と、そう言って静かに席を立ち、無言で文芸部を出て行った。


正直、追いかけたかったし、慰めの言葉も言いたかったけど。

それは自己満足、自分の罪悪感を少しでも減らしたい行動だと考えて、どうにかグッと我慢して七海を見送った。



「マジか……」


優衣と出会っていなかったら、俺は七海の提案を受け入れただろう。

七海は可愛い魅力的な女の子だ。


「はぁ、まさか、告白。いや、告白まがいのことをされる日が来るとは」



俺は深くため息をついて、家に帰った。

優衣がバイトが終わったころ、俺は七海のことを報告しておいた。


こういうことは隠さずに行っておいた方がいい。

すれ違いや誤解はこういうところから起こってしまう。


そして、優衣のメッセージの返答はたった一言。


ーー滅


いや、怖いって。殺とか怒とかじゃなくて、殲滅とかの滅って。


まあ、嫉妬してくれているんだなぁ。と思って、優衣に可愛い。と思うことにしておく。



「ま、これ以上問題は起こらないだろう」


そう、判断した俺は悪くない筈だ。


うん、本当にさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る