放課後

コスプレ。


オタクではない人でも、ハロウィンやクリスマスでコスプレをしたことがあるかもしれない。


ネットが普及して、コスプレへのハードルも下がっている。


 


一昔前は奇異な目で見られたそうだけれど。


 


さて、そんなコスプレだが。学生にはやはりハードルは高い。


裁縫が得意なら、自作できるだろう。だが、コスプレ衣装を買うとなるとかなり難しい。


基本的に、値段=品質だからだ。


コスプレ衣装は拘り始めるとキリがなくなる。


 


とはいえ、今回優衣がしようとしているコスプレはキャラクターの通常衣装ではなく、夏限定のイベントで使われた水着衣装。


布面積は少ないので、自作はしやすいだろう。出来るとは言わないが。


 


「それで、優衣はどの衣装にするんだ?」


 


今日の授業が終わり、放課後になった。そして、何時ものように文芸部で合流して、今はテーブルで向かい合ってパイプ椅子に座りながら、コスプレの相談をしている。


 


「そうですね」


 


優衣のことを考えるなら、高身長キャラは除外。似合わないわけではないだろう。優衣は美少女だ。


もちろん、コスプレは当人がしたいキャラのコスプレをすればいいと思うが。


それでも初心者が似合わないコスプレをしていたら、文句を言ってくる輩はどこにでもいるだろう。


トラブル回避で、出来るだけコスプレをする人間に似合いそうなキャラを最初のうちはした方がいいかもしれない。


 


「それに、その水着だと胸が」


「はい、ずっとコンプレックスで、今も怖いですね」


 


優衣はそう言いながら、自身の胸に両手を当てる。


うん、今すぐモミモミしたい!


 


「でも、睦月さんのお陰で少しだけ、平気になりました。さんざんセクハラまがいなことをされましたし、それにコスプレとかもしてみたいですから」


「そっか」


 


俺と優衣は漫画家や声優などを目指しているわけではない。


だからこそ、一度くらいやってみようとなったのかもしれないな。


 


「それに長い歴史のある大型イベントだから、そういう対策もしっかりしているので、初心者にはやりやすいかなって」


「そうだな。確かに普通のイベントよりもしっかりとしている印象はあるな」


 


大型イベントだから、コスプレ専用の場所とルールもしっかりしている。


昨日の夜に改めてルールを確認したけれど、一般向けのトラブルに対するマニュアルもあった。



「必ず、予定を合わせて行こうな」


「はい」


 


自然と俺の手を握ってくる優衣に答えながら、俺はスマホを取り出した。


 


「それで、どのコスプレをするんだ?」


「そうですね。初めてですから、比較的衣装が簡単なものを」


「衣装が簡単ってことは、作るのか?」


「そうですね。最初は作ろうか迷ったのですが、やめました」


「じゃあ、買う感じ?」


「はい、中古でも状態の良いコスプレ衣装がありますので」


 


なるほど、と思い、優衣が教えてくれたスマホでネットショップを二人で見て回る。


「未使用でも結構数出ているな。しかも結構出来がいい」


「そうですね。小物が付きかそうでないかで、また値段が変わりますが。悪くないですね」


 


ビキニタイプや競泳用やセパレートタイプとか色々あるな。


知らないキャラのもたくさんあるし。


 


「それで、優衣はどのキャラのコスプレをするんだ?」


「いくつか迷ったのですが、サイズが少し違っても着やすいビキニタイプのキャラの衣装にしようかと」

「そうか、確かにな。似合いそうだ」


 


優衣がビキニタイプの水着のコスプレをしている姿を想像して、俺の主砲が砲弾を装填したいが、力がなくて動けないなと嘆いている。


良し、昨日も頑張って演習をして正解だった。


 


「でも、このキャラの髪型がショートカットなんですよね」

「ああ、そうだな。ストーリーでセミロングの時もあったけど、基本的にはこのキャラはショートカットだ」

「なので、こっちのビキニタイプもいいかなって」

「あ、こっちは確かにロングヘアだな」


 


コスプレする時、地毛をどうするか結構みんな大変みたいだな。


地毛でやりたい人もいるし、バッサリ切ってしまう人もいるみたいだし。


 


「睦月さんは、私の髪型どう思いますか?」

「そうだな。ショートカットも素敵だと思うぞ、優衣が髪を切ったら優衣の可愛さに気づくかもしれないから、難しいな」


個人的に、俺の彼女可愛いだろう。は馬鹿な行為だと思う。質の悪い奴に狙われる可能性が出てくるし。


「でも、まあ、夏になると長い髪で生活するのも大変だろうし。うん、切ってほしいって言ったら切ってくれるか?」


俺の言葉に優衣は少し考えて、頷いた。


「毎年、長い髪だと大変だったから、睦月さんが切っても大丈夫というなら、切ろうかな」


「優衣の長い髪は好きだけど、優衣に負担がかかるなら、ショートカットがいいな」


「うん、じゃあ、ちょっと切ってみようか。問題は周りから注目される可能性だけど」


「付き合っていることが分かると、面倒だね」


 


それから、俺と優衣はちょっとだけ、下準備をした。


簡単に言うと、クラスの女子から髪を切った理由を聞かれた時の答えなどだ。


優衣が髪を切れば多少は目立つ。一過性の注目だろうが、面倒なので直ぐに興味を失わせるために、事前に質問されそうなことと回答を用意した。


ま、リア充達も暇ではないし、俺達も普段は目立たないように過ごしているので、優衣が髪を切ったことに気づかない可能性も高い。


「ま、髪を切っても何も変わらない。変わらないようにすればいいさ」


「そうですね。ところで、睦月さん」


「なんだ?」


「今日、水泳の授業は無かったですよね」


「ん、ああ、そうだな」


「だからこそ、実は今制服の下にスクール水着を着てきています」


「――っ?!」


 


俺はまじまじと、優衣の頭の先からつま先まで観察する。

その制服の下には優依のワガママボディが?!


「見たいですか?」


「――はいっ!」


 


俺は元気よく、優衣に答えた。ここで引く奴は男ではない。


今日も暑いが昨日ほどではない。優衣は席から立ち上がると俺の隣まで歩いてきて、じっと俺を見下ろす。


「上と下、どっちから脱いでほしいですか?」


「ぐはっ、積極的だな」


「み、水着ですから」


顔を真っ赤にしているから、恥ずかしがっているのは分かっている。


けど、俺の為に頑張ってくれている優衣に、俺は答える。


「脱ぐ前に椅子から降りて、しゃがんで下から見ていい?」


奥は見えないだろうけれど、その見えないさが、俺の心にグッとくるはず!!


そう思って答えたけど、優衣からの返答はビンタだった。

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