金曜日の放課後

七月最初の金曜日の放課後。明日の土曜は俺も優衣もバイトなので二人きりでは会えないが、日曜日はデートをすることになっている。


理由は夏の大型イベントのコスプレの為の買い物だ。


コスプレをしてみたい。彼女である優衣の手伝い。


可愛い彼女が水着系のコスプレしてくれるなら、手伝うのが彼氏だと俺は思う。


一般的なデートではないが、俺も優依もオタクなので、別に流行りの映画を見に行きたいとかは無い。


一応、優衣にもデートで映画とか見に行ってみる? と誘ったことはあるが「何かアニメ映画が公開されていましたっけ?」と返された。


優衣の感覚でも、映画と言えばアニメの劇場版が基本のようでホッとした。 


「優衣、約束通り、今日は持ってきたよ」

「はい、わたしも持ってきましたよ」


今日の放課後は優衣とちょっとゲームをして過ごそうということになった。昨日、一緒に帰る途中最近のゲームの話題になり、俺も優依も同じ協力出来るゲームを持っていることが分かり、遊ぶことになった。


放課後の文芸部の部室の気温が不安だったが、幸い今日はそこそこ雲と風があるので、涼しい日だ。


三日前ほど前は天気が良すぎて、運動部が死にかけていたから、この天気はありがたい。


「来月には新作が発売されるって聞いた時は、正直ふーんって感じだったけれど、嬉しいねソロ卒業」

「ふふ、わたしもです。ネットは怖くて、ソロでずっと遊んでいましたけれど」  


協力できるゲームはネット環境や本人のコミュ力でずっとソロということは結構ある。


実は優衣も、ずっとこのシリーズはずっとソロだったらしい。


「でも、結果的に良かったかもな」

「何かですか?」

「だって、初めての相手が優衣なんだぜ」

「変質的な言い方はやめてくれます?」


冷たい眼差しを俺を視る優衣。うん、ちょっとゾクゾクする。


「ま、まあ、お互い協力プレイは初心者だから、ゆっくりやってみよう」

「ええ、私も久しぶりですから、操作を忘れていますね」


というわけで、俺と優衣はちょっと大きめの携帯ゲーム機を専用の持ち運び用のポーチから取り出して、ゲームを起動した。


このゲームは老舗のアクションゲーム会社から誕生した名作ゲームで、シリーズも長い。


魔法などはないが、巨大なモンスターと戦うので操作キャラはドデカい剣とか振り回せる。ファンタジーな世界観だ。


プレイヤーは冒険者となって、危険なモンスターを討伐しながら、開拓村を大きくしていくのが基本的なストーリーなのだ。


「予想通り、爆乳ですね。睦月さん」

「はい、爆乳です!」


協力プレイモードを選んで、協力プレイ専用の冒険者ギルドのホールに俺の操作キャラが現れる。


俺の操作キャラを見た優衣がちょっと溜息をついていた。俺の操作キャラの職業はファイター。前衛向けの武具とスキルが使える。


さて、ファンタジーな世界観の前衛の女キャラが身に付けている装備と言えば何かな?


ビキニアーマーだ!!


外見は俺の趣味丸出しの、古き良きではなく、露出が控えめの最近多い、スタイリッシュなビキニアーマーの爆乳の女戦士だ。


優衣の操作キャラの職業はアーチャー。キャラの性別は女で、貧乳だ。


エルフっぽい感じの細身のキャラだった。装備は性能の良いと評判の物で、エロくない。


「ところで、優衣。そのキャラにワイルドキャット装備を「させませんよ」あ、はい」


ワイルドキャット装備とは、ワイルドキャットというヤマネコみたいなモンスターの素材を使って作る装備で、別名ビキニ・アマゾネス。


革の鎧の蛮族系ビキニアーマー装備だ。別名モフモフ・ビキニ。


「ま、とりあえず、やってみようか。最初はレッサーリザードから」

「そうですね」


というわけで、優衣と二人きりでゲームを始めたのだけれど。


「優衣、上手だね」

「え、そうですか?」

「うん、特に回避が上手い」


それに比べて俺はさっきから上手くモンスターの攻撃を避けれていない。


おかしい今日はなんか、敵の攻撃が上手く避けられない? モンスターの簡単な攻撃にも当たってるしな。久し振りに遊んだからか?


「俺、さっきから攻撃くらいまくっているしな」

「それは、睦月さんがさっきから、私の胸を見すぎだからでは?」


え、マジで?! 全然気が付かなかったぞ。


「え、嘘だ。俺、優依の胸見てた?」

「……気づいていなかったのですか?」

「うん」


俺の回答に優衣はため息をつく。


そうか、道理でなんか敵の攻撃に当たるかと思ったら。


「どうしようか」

「目隠しでもしてみますか?」

「いや、ゲームできないじゃん」

「冗談です。けど、少し困りますね。せっかくですからクエストの失敗は避けたいです」


だよね。せっかくなんだし。


俺はちょっと考えて、椅子を持って優衣の背後に移動して、優衣に背を向けて椅子に座てみた。


「ちょっと試しにこれでやってみよう」

「え、ええ、ちょっと驚きましたけど、やってみますか」


同じ空間にいるのに背中合わせ、微妙だけど今だけだしね。


これで、別のクエストを協力プレイで受けて始めてみると。


「うん、一つ前のクエストよりも、早くに終わったな」

「そうですね。思ったよりも早くに終わりましたね」


背中合わせに優衣と話す。効率がいいなら、これで続けようと思ったのだが。


「けどやっぱり、これは止めませんか?」

「え?」

「その、背中合わせって結構寂しいですし」


俺が後ろを振り向くと、優衣も後ろを振り向き、俺の顔を見ながら、照れていることが分かった。


「隣に座りませんか? 睦月さん」

「あー、その。胸、見ると思うぞ?」

「いいですよ。彼女ですし」

「ガン見するかもしれないし」

「一回もガン見しなかったら、クエストクリア後に、何か褒美を上げます」

「良し、任せろ」


こうして、俺は今までにないほど集中して、ほぼ無傷でモンスターを優衣と共に倒した。


一人では中々倒せない強いモンスターも、二人でなら倒すことが出来た。


新作ではアイテムやユーザーデータが引き継がれるので手に入れたアイテムの一覧を確認して、俺も優衣も満足だ。


ちなみに、優衣のご褒美はデートの時に、着けていく下着の色を指定できるというものだった。


「まあ、見せないので、いいかなって」

「酷い! 生殺しだ!」


俺の嘆く姿を見て優衣は可笑しそうに笑っていた。


でも、優衣は日曜日のデートの時に、俺にちゃんとご褒美をちゃんとくれたのだった。



放課後、ちょっと遠回りして帰る途中のこと。


「普段は文学少女っぽい優依のワイルドな姿が見てみたいな。アマゾネスみたいな身体にペイント付きで」


「え、キャンプのお誘い?」


その返しは予想外だったけど、キャンプか。


「と、泊まりでしょうか?」

「流石にお母さんに怒られるかな」


お互いにちょっと残念そうにしながら、この話は終わった。


けれど、俺も優依もなんとなく、お互いの身体を押し付けあうようにして、駅までくっついて帰る。


暑かったけど、全然気にならない一時だった。

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