第8話 魔法使い ②

「ライトニング!」

俺の・・・ルビーの魔法でダンジョンを明るく照らした。

これなら、松明より明るいし、出てくる魔物への対処が楽になる。


「助かるよ、ルビー。普段ならみんな松明片手で入るから、魔物が出るとてんやわんやの状態だったからな」

「本当よね。アーチャーのサラスなんて、ダンジョンの中では、荷物運びしか出来なかったし」

「何を!  この、クソ・・・シーフめが!」


言い争うシルビアとサラスの間にリーダーのダッシュが割って入る。

バランは、柄に装飾を凝らしたご自慢の槍を肩に抱き、呆れ顔だった。


クソー、ルビーめ、このままじゃあ、本当に迷惑をかけてしまう。

どうして、自分のレベルを偽ったんだよ!

今の体の本当の持ち主に腹が立った。


嘘を付いてまで、ダンジョン攻略に参加する理由は何だよ。

頭の中を覗いて、彼女の記憶を見ても、同世代の若い男の子しか見えない。

剣士か? それとも、騎士見習いか?

スライブ? 彼の名前か、彼女とどんな関係なんだよ?


しかし、このダンジョンに出てくる魔物は、レベルの低い奴ばかりだな。

入り口近くでスライム、次に大コウモリや大クモ、その次は、剣しか持たないスケルトンだし。


気になる点が、もう一つあるけど、なんかこのダンジョン知っている。

彼女は、前に一度、来ているのかな?

今のメンバーの話だと、ルビーのレベルでは、攻略できなと思うけど。


戦闘を進むダッシュが立ち止まった。

照らし出される、大きな扉。

明らかにこのダンジョンの最奥で待つ、ボスの部屋を示す扉だ。


ここに着くまでに、言い出せなかった。

覚悟を決めて、みんなと一緒に入るしかないな。


「さあ、みんな。扉を開けるから準備してくれ」

「行くぞー!」


扉を開けると、息の合った連携が始まった。

リーダーのダッシュが盾を前に構えて、先頭を走りだすと、後ろからバラン、サラス、シルビアの順番で一列に並んだ。

俺は、シルビアの後ろに並んで、皆に付いて行く。


目の前にサイクロプスが、棍棒を片手に叫び声を上げ、威圧してきた。

レベルが、低い俺は、足が動かなくなりそうになる。

皆は、平気なのか、動きが鈍らない。


「みんな、頼んだぞ!援護する」

最初にサラスが弓で、遠隔攻撃を始めた。


俺もこの攻撃に続かないと、「ファイアーボール!」

ダメだ、サラスの矢よりダメージを与えられていない。


「ルビー、もっと威力の強い魔法をお願い!」

シルビアが、レベル30の魔法を求める。


出したい、レベル30にふさわしい魔法を放ちたいよ。

でもレベル18じゃあ、こんな魔法士か出せない、本当に申し訳ない。

それでも、今できる最善を尽くさないと。


「ファイアーストーム!」

少しは、効いたみたいだ。サイクロプスがバランスを少し崩した。


「最初は、俺がこいつを引き付けるから、バランとシルビア攻撃を」

「よっしゃあ!任せてくれ」


ダッシュの重装備は、タンクの役割もしているのか。

バランの槍が高速で突きを展開する。

シルビアは、身軽さを武器に軽快に飛び回った。


連続して攻撃しているのに、与えるダメージは想像以上に小さい?

何でだ、嫌な予感がするな。


「バランとシルビア、まだか?まだなのか?」

「おかしいよ、ダッシュ。こいつ本当にレベル30なの」

「そうだよ、シルビアの言う通り、かなり削ったはずなのに」

「ギルドで得た情報だぞ、間違っていないはずだが」


後方で一緒に攻撃していた、アーチャーのサラスが何かを見つけた。

「みんな、そいつは、レベルアップしているかもしれない」


どうした、何で言い切れる?

サラスの方を見ると、壁にもたれる冒険者の亡骸があった。

周りをよく見ると、確かに、鎧や盾、剣などが散乱している。


「俺たちの前に、どこかのパーティーが挑戦して敗れたのか」

バランが、一旦、後退した。


「ダッシュ、どうする?このまま攻撃を続ける?」

「続けるしか、無いだろう。そうしないと全滅するかも知れないぞ」


会話する、ダッシュとシルビアに疲れが見えてきた。


「ルビー、強烈な魔法を頼む」

皆の声が、ダンジョンを木霊する。


「ごめんなさい、私の本当のレベルは、18なの」

やっと、声が出たよ。

でも、この状況で言いたく無かった。


「何故だ!どうして、レベルを偽ったんだ!」


ヤバい、リーダーは眉間にしわが寄り、今にもキレそうだ。

どうするんだよ、ルビー、君が望んだのは、こんな結末か?

仲間を全滅させるためにここに来たのか?


頭の中で女性の声が響いた。

違う、違う、違う!

私は、スライブの仇を取る。私の幼馴染、恋人の。

それが、本当の理由か。でも、レベルが低すぎるだろ。

敵討ちをするなら、自分のレベルをせめて20以上に上げとけよ。


「今更、言い訳はしない、みんなに迷惑はかけないから」

そんな事、言って大丈夫か、俺。

しっかりと観察して、考えろ。

何がある、何が見える、何が出来る?


「私が、攻撃したら、みんな後ろに下がって!」

ウインドカッターを天井めがけてぶっ放す。

上手くいってくれよ。


天井が崩落して、サイクロプスの上から降り注いだ。

頼む、動きを封じ込めてくれ。


「何、何をしたのルビー」

土煙の中からシルビアの声だけが聞こえた。


土煙にサイクロプスの影だけが映し出される。

「バラン、下がれ。こいつ避けた」

「ダッシュ、みんなを守ってくれ、俺がおとりになるから」


ああああ、バランが飛び込んで行っちゃったよ。

俺の、ルビーのせいで、こんな展開になってしまった。

こうなったら、今の魔法でやり切って見せる。


「うわああああああ、・・・」

バランの叫び声に向かって走れ。


「ルビー、待つんだ。殺されるぞ」

ダッシュの制止を振り切ってサイクロプスの足元が見えた。


「ピットフォール!」

落とし穴にサイクロプスが落ちる。

しかし、上半身は、まだ穴の外だ。

こん畜生、穴の深さが足りない。やっぱりデカいな、サイクロプスは。


サイクロプスの上半身に抱き着いた。

このまま、行けえー。


「ピットフォール!、ピットフォール!!、ピットフォール!!!」

かなり深い穴になったぞ。

上を見ると、俺も逃げられない深さになってしまった。


これで、みんなが助かるなら良いのかな?

ルビーを犠牲にするのか?

生き残って、みんなに謝罪させないと、俺は納得できない。


サイクロプスにしがみつく。

体の中で燃え尽きろ、「ファイアーストーム、三連発!」

かなりダメージを与えられたようだ。


上から、みんなの声が聞こえる。

え、逃げないの?


「ルビー、お前を残して行けない!早く、上がって来い」


おお、みんな、何て良い仲間なんだ。

それなら、飛べないかわりに浮力を付けるぞ。

「クリエートウォーター」


穴を水で満たしてしまえば、浮力でみんなが待つ上に行ける。


穴が、水で満たされ浮かび上がった俺は、みんなに水の中から引き揚げられた。

一緒にサイクロプスも浮かんで来た。

待ち構えていた全員で頭だけ集中攻撃をすることが出来、無事、倒せた。


「嘘を付いていた事は、どんな理由があっても許されない。しかし、仲間を助けるための咄嗟の判断と魔法は良かったと思う」

そう言うと、ダッシュが握手を求めてきた。

「本当にごめんなさい。みんなを危険な目に会わせてしまって」

「そうよ、この償いは、暫く私達のパーティーに残る事ね」

シルビアが、言葉と一緒に俺に抱き着いた。


さあ、ルビー、体を返すから新しい仲間と、しっかり向き合ってくれ。

どんな理由で魂が抜けたのか知らないけど、この一部始終を見ていたんだろう。

彼女の戻りたいと願う気持ちを強く感じると、俺の魂はルビーの体から押し出された。











  

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