第6話 猫剣士

にゃん太郎 64歳

男 LV29

陶剣士

趣味 料理

健康状態 良


大分、他人の体に入り込むのに慣れてきた。

早く、自分の体に戻りたいけど、直ぐには、無理そうだな。

しかし、俺が吸い込まれる体は、癖が強いよな。


今回は、猫剣士か。陶の字が気になるけど何だ?

名前は、にゃん太郎で年齢は64歳。

以外と高齢者だな。戦えるのか?

どこかで聞いたことある名前と職業だけど。

趣味にも心当たりがあるぞ。

何だったけな?


この人、何で魂が抜けたのだろう?

目の前に料理が並んでいるし、見た目は旨そうだ。

頭の中の記憶では、問題の発生は特に無いな。


せっかくだから、食事させてもらおう。


「う、こ、これは・・・」


「クソ、不味い。どうやったらこんな味になるんだ」

思わず、フォークをテーブルに投げつけた。

あまりの不味さに不快感は、マックスを通り越し身震いした。


見た目は、綺麗な料理なのに。


パンは、ひっくり返すと、カビ生えてるよ!

焼け目の無い魚、生臭いよ!

野菜は、水切りしてない、ベチョベチョだよ!

スープは、匂いは良いけど、何このザラザラ感と苦みは!

肉は、香ばしいけど、ゴムだよ、コレはゴム!


趣味が料理のくせして、腕は皆目、レベルマイナスだな。

もしかして、自分で作ったクソ不味い料理で魂が抜けたのか?

何て間抜けな猫だよ!


ああ、外に出て気持ちを晴らすか。

部屋の鏡で見た姿は、ちょっと俺の理想とは違ってた。


顔は、大きくて丸い猫。

体は、3等身。

頭には、赤い帽子。長靴のようなブーツを履いている。

腰には、カッコいいレイピアを備えている。


身長が低すぎる。

最近のカッコいい猫剣士と言うより。

まんが祭りの長靴をはいた猫だよ。

このまま、気球に乗って80日、世界一周しちゃうよ。

何歳だよ俺、平成生まれは見たこと無いアニメだし。


街を歩いていると、なんか見たことある様な風景。

有名なアニメにもなった世界。

そう、ここはエルダーのアキバか?

惜しい、もう少し身長が欲しかった。

小顔、スリムで、すらっと身長の高い猫剣士だったら良かったのに。


この調子なら、今回は、色々と楽しめるかも。

レベルは低いけど、獣人だよ。

身体能力は、高いに決まっている。

今の俺は、いかなる攻撃も素早く避けて、腰のレイピアで一突きできそうだ!


俺の姿をジロジロと見る人たち、剣士や魔術師や子供までも。

うーん、何故だ?

街の皆の注目を集めるほど、俺は、有名人なのか?

それなら何故、皆に追いかけられるのだ?

すれ違う人が、次々と俺を追いかけてきたから、逃げるしかない!


にゃん太郎よ、お前は何をやらかしたのだ?

どんな理由で、64歳、高齢のおじいちゃん猫をみんなが、追いかけるの?


前からも人が押し寄せてきたよ。

逃げる場所が無い!

駄目、・・・・・捕まっちゃう。

「ニャふん」


「観念しろ、にゃん太郎さん」

軽装の剣士もどきに捕まえられた。


「何するニャ。俺を放せ!」

一生懸命、ジタバタするが、動けないじゃないか。

このバカ力の剣士め。


「にゃん太郎さん、もう、いい加減にしてください」

可愛い魔術師が、抑えつける。


「苦しいニャ。放せよ!」

女の子なんだから、もっと優しく俺を抱いてよ。


「もう、こんな生活やめてください」

一般市民の女の子に諭される。


「どうしてニャ?俺は、自由だよ。今から、ここの生活を楽しむのニャ」

「あなたのパーティーは、とうの昔に解散したんでしょう」

「何、俺のパーティーが解散ニャ?俺の放蕩の茶会が?」

「何を言っているんですよ。放蕩じゃなくてドラネコの夜会でしょ」

「なら、今から新しいパーティーを作るのニャ」

「新しい、パーティーですか?」

「そうだニャ。俺がご意見番になるから、みんなであの地平線を目指すのニャ」


周りに群がる人々は、呆れている様だ。

どうした、俺の想像と話の展開が違うぞ。


立ち上がり、腰のレイピアを出した。

「まだまだ、現役で頑張れるのニャー!」


剣士が、剣で俺のレイピアを叩き割った。

なに!レイピアが割れたぞ。


「じいさん、あんたのレイピア、陶器製のお飾りだろ」

「ニャにー、俺の自慢のレイピアが陶器製?」


がっかりして、両膝から地面に崩れ落ちた。

「どうしてニャ。俺は、猫剣士としてもう活躍出来ないのニャ」

「そうだよ、大人しく昇天しろよ」


大柄の男が近づいて来た。

只物では無いな、顔にある無数の傷跡・・・・・この雰囲気は。

「ああ、ギルマス。今説得している所です」

「なあ、にゃん太郎爺さん」

俺の肩に手を置く男は、この街のギルドマスター。


「スバルシュか、俺、まだ現役でやりたいニャ」

「いい加減、くそ不味い料理を作るために食料を盗んだり、街を徘徊するの止めてくれないか」


俺は、年老いた猫で、認知症なのか?

にゃん太郎さん、あなたは、ただの徘徊する泥棒猫なの?

なんか、悲しい現実をみんなで受け止め合ってるみたい。

異世界でも、高齢者問題はあるのだな。


「もう、諦めるニャ。だから、年老いた猫をいじめないでニャ」

「俺たちもそうしたいんだよ」

「おお、ギルマス。分かってくれるニャ」

「そうよ、だから街の仲間と相談して、保護するんだから」

「保護ニャ?俺を保護するのニャ?どうななるのニャ?」

「街はずれの施設に入るのよ」


やっぱり、年寄は、施設に入った方がみんなの負担にならないよね。

そりゃそうか!

街を徘徊して、物は盗むし、一人暮らしをしてもあの料理では生きていけないよね。

施設で身の回りの世話をしてもらう。

そんな余生を過ごす方が、にゃん太郎さんにとっては幸せかも。

かなり、癖のありそうな老猫剣士だけど。


「みんな、ありがとうニャ。俺は、施設に行くニャ」

「みんな、俺がにゃん太郎さんを施設に連れて行くよ」

「ギルマス自らが同行ですか、最後を見届けるのですね」

「最後ニャ?何、何、最後って何ニャ?」

「さあ、にゃん太郎さん気にしないで行きましょう。みんな最後の挨拶を」

「にゃん太郎さん、また、お会いしましょう。さようなら」


どうなってるの?

最後の挨拶って何?

施設で余生を過ごすんじゃないの?


ギルマスに何故か拘束具を付けられ、カゴの中に入れられたまま、施設に入った。


どこ、ここ、打ちっぱなしのコンクリート造り?

雰囲気的にまずい状況の様な気がするけど、気のせい?

想像していた施設は、温かい木製の建物で大きな窓からお日様が差すんだよ?


「おい、ギルマスニャ」

「にゃん太郎さん、皆のために決心してくれて感謝します」

「俺、この後、どうなるニャ?」

「にゃん太郎さん、もう、分からないのですね?」


なぜ、スバルシュは、涙を流しているんだ?

お願い、今、俺が考えている事と同じこと言わないで。


「殺処分です!」

「駄目ニャ、一度、飼ったら最後まで面倒見るのが飼い主の務めだニャ」

「何を言っているのですか?誰もにゃん太郎さんを飼っていませんよ」

「俺は、街全体で飼われているのニャ」

「飼っていません!剣士らしく、最後は、ビシッと決めてください」

「痛いのは、嫌だニャー!」

「痛くありませんよ、毒草の注射でコロリです」


キャー、冷たいコンクリートの檻の中で、声にならない声が出る。

助けてー、誰かー、可愛い老猫だよ。

腕に刺さる注射針がチクッとした。


意識がもうろうとする。

にゃん太郎さん、ごめんなさい。もっと注意深くしておけば。

俺が、こんな最後を選んでしまった。本当に申し訳ない。

でも、認知症のにゃん太郎さんには、分からないかな?

せめて、次があるなら良い転生が出来ますように。

俺に出来るのは、祈る事しかなかった。







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