第2話 村人

テトラ・スィフト 15歳

男 LV8

村人

趣味 木彫りの人形作り

健康状態 怪我あり


外に居るのか?風が吹いている。

遠くで誰かが呼ぶ声がするな、そろそろ起きないと。


目を開けると小太りの丸い顔、鳴きながら名前を呼んでいる、誰だこいつ?

「良かった、生きてたよ。チコ、テトラは死んでなかったよ」


垢ぬけない女の子、青い髪に顔のそばかすが目立つ、誰だこの子?

「テトラ、私達でゴブリン退治は無理よ」


そうか、俺は、今、テトラと言うのか?

目を覚ます前に見えた文字通りなのか、テトラ・スィフト15歳でLV8?

怪我ありと言う事は、どこか怪我しているのか。


起き上がると、腕と足が痛い。

よく見ると血は出ていなかったから、打ち身か?

「ゴブリン?何があったの?」


「ああああ、テトラ、頭を打ったのかも知れないよ。私たちの事、分かる?」

女の子が泣きながら両手で頬を触る。

「君は、チコ?あいつは?」

「ええええ、親友の俺の名前が分からないのか?俺だよ、マルだよ」

覚えやすい、丸い顔にマルか。

「マル、俺たちは何をしていた?」

「やっぱり、頭を打っているよ。チコ、どうしよう」


何なんだこのやり取りは?

少し苛立ってくるが、ここは、抑えて話を聞こう。

「記憶が飛んでいるだけだよ、マルとチコ」


マルが、必死になって説明を始めた。

「俺たちは、最近、村を襲うゴブリンを退治しに来たんだよ。冒険者に頼むと、払えないくらいのお金を請求してくるだろ。お金以外の物で払うと、村の皆は飢え死にしてしまうから」

チコが、腕を引っ張ってくる。

「もう、帰ろうよ。私達だけじゃあ、ゴブリン退治は無理なの」

「もう少し、詳しく話してよ。ゴブリンは、何体いるの?」

「まだ、3体だよ。あそこの洞窟をねぐらにしている」

マルが、指さす方を見ると、洞窟がある。入り口にゴブリンが2体いた。


どうする?

この体で何かしないと、戻れないのか?

死んだらどうなる?

俺、今、LV8の村人だし、どう考えても弱いよな。

魔法なんて、絶対使えない職業だよ。

武器は、何を持ってるのだろう?


「マル、俺たちの武器は?」

「俺は、ナイフ。お前は、家から持って来た斧だろ」

手元に斧があった。

これじゃあ、無理だわ。

威勢よく飛び出していっても、殺されるね。


「帰ろうか、チコ」

マルが、必死に俺の服を後ろから引っ張るので、前に進めない。

「何するんだよ、マル。俺たちじゃあ、かなわないよ。死んじゃうよ」

「分かってるけど、何とかしないと村には俺とお前、チコの3家族しか居ないじゃないか。親父たちも忙しいから、俺たちでゴブリンを倒そうよ」


ああ、正義感の強い男の子だ。

1歳しか違わないけど、お兄さんは、感心するよ。

何とかしてやりたいけど、腕力も武力も知力も無い。

知力?俺には、こいつらと違って知識があるぞ。

ゴブリン3体、武器ナシなら、どうやって倒す?


「マル、薪を集めたら直ぐに火を起こすことは可能か?」

「直ぐに出来るよ。チコは、毎日、家事を手伝っているから火を起こすの上手だし」

「私なら、直ぐに火を起こせるけど、何をするの?」


よし、よし、いい考えがある。

じゃあ、お兄さんの言う通りに動いてもらおうかな。

「ゴブリンをまとめて倒すから、枯れ葉と薪と燃えやすそうな乾燥した木を集めてくれ。それを洞窟の入り口で燃やす」

「分かった、集めて来るね」、マルとチコは燃えやすそうな物を探しに行った。

「良い子達だ。後は、ゴブリンが3体とも洞窟に入れば作戦開始だな」


洞窟の入り口は、高さ120センチくらい。

マルに聞いたところ、あまり深くないようなので、静かに入り口を塞がないと。

入り口に居たゴブリンが洞窟の中に入ってから、少し様子を見た。

出てくる気配は、無いな。では、作戦の決行だ。


チコにいつでも火が起こせるように準備させておいて。

俺とマルで洞窟の入り口を塞ぐように岩を出来るだけ高く積み上げ、二人が集めてきた乾燥した木、薪、枯れ葉を順番に突っ込んでいく。

準備が出来たらチコに火を付けさせた。


空気が乾燥しているのかな?

火を付けてから良く燃える。

火を絶やさない様にしなければと、二人に火にくべる乾燥した木を集めてこさせた。

どんどん燃やすぞ!洞窟の中から、ギ、ギギギと鳴き声が聞こえてくる。

ゴブリンの鳴き声なのか、初めて聞いたが、気持ち悪いな。


洞窟の入り口で火を燃やす事、2時間以上は経ったか?

夕暮れ時になって来たな、マルが心配そうにソワソワしだした。

「マル、どうした?もっと木を集めて燃やすぞ」

「テトラ、もう帰ろうよ」


どうした、さっきまでの威勢は何処に行ったんだ?

急に弱気な態度を見せるとは。


「テトラ、親父たちが心配するから。もう帰ろうよ」


そう言う事か、遅くなると親に怒られるのだな。

男子たるもの、15歳になれば、夜遊びも経験しなければな。

「もう少しだ、マル。ゴブリンを倒せるんだぞ」


この言葉にマルが乗っかってきた。

「分かったよ。もう少しだね、頑張るよ」

「ゴブリンの声もしなくなったから、そろそろかな」


最後に入れた木々が燃え尽きたら大丈夫かな。

洞窟の中は、熱で死なないとしても酸欠状態になっているはずだし、ゴブリンもさすがに死んでいるだろう。


「チコ、危ないから物陰に隠れてて。マルは、俺と一緒に洞窟の中を確認するよ」

両手で斧を持ち、マルと一緒に中へと入る。

予想通り、洞窟の中でゴブリンが3体うつ伏せで倒れていた。


「念のため、とどめを刺すから」

俺は、斧を振り上げてゴブリンの首を狙って振り下ろした。

頭が胴体から離れると、消滅して、紫色の石ころが転がった。


おお、これは魔石か?

倒したから経験値が入りレベルが上がるのか、楽しみだ。


何も起こらない。

あれ、強くならないのか?

しょうがないな、ゴブリン1体だけでは駄目なのかな。


奥に進みもう1体のゴブリンにとどめを刺した。

まだ、強くならない。

何だ、期待外れだなと思っていると、マルが、自分もやると言い出した。

「テトラ、最後は、俺にやらせてよ」


マルが、ナイフでゴブリンの背中を刺した。

ギ、ギギギ、ギと声がする。

こいつ、まだ、死んで無いぞ!

「マル、早く、もう一度、ナイフを刺せ」


マルが、ゴブリンの背中から刺したナイフを抜くと、フラフラのゴブリンが手に持っていた棍棒を振り上げた。

驚いたマルは、悲鳴を上げて逃げ出した。

「うわぁぁぁぁ・・・」


少年、意外に気が弱かったんだな。

でも、仕方がないよな、ここはお兄さんが代わりにとどめを刺してあげよう。


俺は、斧を振り上げてゴブリン目掛けて振り下ろしたが、あっけなく、避けられた。


何で?


村人の攻撃は、そんなに簡単に避けられるの?

やっぱり、今の俺、テトラは弱いのか。


この状況は、ヤバいな。

とりあえず、逃げよう。

俺は、斧を抱えて走り出した。

重い、この斧、邪魔だわ。


入り口を出ると、物陰にチコと一緒にマルが隠れていた。

勘弁してよ。せめて入り口で待ち伏せして応戦するとか出来ないかな。

二人が、立ち上がり、俺の方を指さす。


今度は、何だよ。後ろからゴブリンが襲ってきているのは分かってるよ。

振り返ると、フラフラのゴブリンは、入り口でつまづいて転んでた。

これは、ラッキーなパターンだ。

見逃してはもったいない。


体勢を整えて、転んでいるゴブリン目掛けて斧を振り下ろす!

ゴブリンの頭をかち割った。


物陰から二人が、走ってくる。

「テトラ、やったよ。俺たちだけで、ゴブリンを倒したよ」

チコが、俺に抱き着いた後に、マルがスピードを付けたまま突進してきた。


やっぱり、吹っ飛ばされたよ。

どうして、この力をゴブリンを倒す時に仕えないのかな。

チコを抱いたまま、地面に後頭部を打ち付けてしまった。


星が頭の周りをクルクル回っているような感じがする。

あれ、ここ、真っ白な空間に戻ってるよ。

テトラは、死んで無いよな?










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