第3話 スライム

真っ白な空間に戻ってきた。

頭を打った衝撃で、テトラから俺の魂が飛び出したのだろう。

まあ、村人だし、あの状況では、あまり長居はしたくなかった。

結果的には、戻ってこれて良かったけど。


神様に聞きたいこともあるし、呼んでみようかな?

「おーい、神様。聞こえますか?」


返事が無い。

「誰も居ませんか?」

何も聞こえない。

「誰でもいいから、返事してくれよ!」

この空間で話していると、延々と続く独り言みたい。


おいおい、俺を放置するのか。

出てくるまで、呼び続けてやる!

「おおおおい・・・、うゎあ」

吸い込まれていくよ、今度は、どこに行くのか?


ホー 3カ月

両性 LV1

スライム

趣味 草

健康状態 優良


吸い込まれた時に出てくる文字情報、少なすぎるよな。

ホーて名前なんだ。

スライムなの、しかもLV1だし。

俺、人間じゃないよ。スライムじゃん。

何でよ?

スライムと俺の魂の波長が合ったの?

あり得ないし、聞いてないよ。


周りが、薄っすらとしか見えない。

いや、見えてない。なんとなく周りに何があるか感じてるだけだ。

趣味の草て何?

草が好きなの、俺は。

なんか、小説で読んだような内容になるの?

スライムで最強になって行くの?


とりあえず、動いてみよ。

駄目だよ、このスローな感じ、凄く嫌だよ。

ピョンピョンと跳ねたいのに、上にしか跳ねないから、前に進まないよ。

生まれてから3カ月のスライムは、身体能力無いの?

それに行動範囲は、狭いのか?


感覚を研ぎ澄ますと、どうやら此処は、森の中の様だ。

ここなら、安全そうだな。

スライムは、どれくらい生きるのだろう?

ゲームの雑魚キャラだったから、詳しい内容を知らないよな。


何故か周りに生えてる草が欲しくなる。

これは、何かが起こる兆候か?

それとも、ホーの趣味が関係しているのか?

しょうがない、食べてみよう。


上手いぞ、草ってこんなに旨いのか。

口が無いので体全体で取り込むと、体の中でジュワと溶けて良い感じだ。

心と体が満たされる感覚が広がっていく。

幾らでも食べられるぞ。

このまま食べ続ければ、何か特殊能力が身に付く事は無いかな。


どうしてか、スライムになってから無性に幸福感に満たされる。

大好きな草に囲まれた、安全な森だからか?

それだけで幸せになれるなんて、健気な生物だな。


今なら、どれだけ人間は欲深いのか理解できそうな気がする。

強欲は、罪だな。


寒くも無いし、暑くも無い。

動き回っても、触れる感覚があまりしない。

これは、痛覚が無いのか、それとも鈍いのか?

あまり、気にする点ではない様な気がする。


スライムなら何でも取り込んで、吸収するはずだよな。

時間もありそうだし、色々と試して見るかな。

上手くいけば、能力が向上するかも知れないし。


森をピョンピョン跳ねながら、探索していく。

岩を取り込むと、不味いと感じた。

木を取り込むと、少し旨いと感じる。

水を取り込むと、何も感じない。


生きている動物や魔物を取り込むのは、難しそうだ。

肉を取り込むとどうなるのか興味はあったが、試す勇気は出なかった。


嫌だ、俺は、草食系かよ。

色んな物を取り込んだけど、残念、何も変化が無いよ!

LV1から全然レベルは、上がらないし。


無理だ、俺は、あの小説のような憧れのスライムにはなれない。

他のスライムと仲良く、平和にまったりと過ごすしかないのか。

まあ、こんな生活も嫌いじゃないけど。

会話が出来ないので、少し寂しく感じる。


一日中、動き回っても疲れない。

逆に、一日中、動かず、じっとしていても苦にならない。

何て便利な体だ!

生命の神秘かな。


あれ、何か近づいて来た。

人かな、冒険者か、もしかして同じ異世界の人?

俺をテイムしに来たのかな?

それで、俺を放浪飯にいざなってくれると嬉しい。

そんな都合良く行かないよな。

今の状況、普通に考えてヤバいんじゃないの。


プチ!

やっぱり、なんか刺さったよ。

全然、痛みは感じなかったけど。

俺、弾けちゃったじゃないか。

もう、最強じゃなくて、最弱だよ。

戦わず、直ぐにやられました。

夢破れて、ごめんなさい。


また、真っ白な空間で漂ってるよ。

「神様、俺、スライムに入って直ぐに死んじゃったよ。どうなってるんだよ」

聞こえてないのか?


この空間でフワフワと漂っているのは、心地いいけど。

何故か、眠くならない。

このままの状態が続くと、瞑想して悟りが開けそうだ。


「おーい、助けてー」


「すまなかった。直ぐに返事できずに」

「神様、やっと呼びかけに応じてくれた」

「わしも忙しくてな、すまんな」


「それより、さっきスライムになりましたよ。人の体に入るのでは、無かったのですか?」

「人とは限らんぞ。波長が合えば、どんな体にも入り込む」

「そんなルールなのですか?しかも、強くないし」

「そりゃそうじゃ。お主の魂が入った所で、強くなる訳がないじゃないか」

「そうですね。でも、体が違うと、死んだらここに戻ってくるのですね」

「お主の本当の体以外なら、死んだらここに戻る」


本当の体に戻って死んだら、違う所に行くの?

今、これを聞く事に恐怖を感じるから、止めておこう。


「死ぬ以外で戻る方法は?」

「魂が飛び出すきっかけ次第じゃな」

「何ですか、それ。くしゃみとか、何か衝撃を受けるとかですか?」

「その通りじゃあ」


「俺の本当の体は、今、どんな状況ですか?」

「知らんな」

「そんな、無責任な!神様なら、元に戻るためにも俺の体を保護してもらわないと」

「それなら、大丈夫じゃろ」

「どうしてですか?」

「お主が暮らす日本は、あの世界の中の国で一番安全ではないか」

「確かにそうですが」

「ニューヨークとか、貧しいアジア諸国なら、今頃、追い剥ぎに会ってお主の体は、道端で転がっているじゃろうが。日本なら近くの病院に運ばれている」


ニューヨークと比較するとは、さすが、創造主様だな。

俺の住む世界の事を良く知っておられるのですね。


「そう、願いますね。今度、確かめておいてください」

「そうじゃな、念のため見ておこう」

「約束ですよ」


「あと、俺の住んでいる世界以外に並行して、違う世界があるのは理解しましたが、どんな世界があるのですか?」

「分かりやすく説明すると、お主たちが想像する世界は、ほとんど並行して存在しているよ」

「本当ですか!」


もしかしたらと、あれこれ良からぬ事も一緒に想像してしまう。

自分の体に戻るまで、この状況が続けば、面白い世界に行けるかも知れない。

変な妄想で勇人の顔の表情が緩む。


「変な事を考えるんじゃないぞ、神は全てお見通しだぞ。それじゃあ、儂は仕事に戻るから、何か聞きたいことがあれば、


呼びかけ続けないと話できないの?

神様は、耳が遠いの?

忙しいだけなの?

もう、既に面倒な事になっているよ。


一生、帰れないなんて事は無いよな。

そんな事を考えると、恐ろしくなってくる。

このまま、身を委ねてフワフワしながら、次の体に吸い込まれるのを待つだけか。

ああ、電車の中でした、くしゃみを後悔するよ。


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