Side Story〈Yuuki〉EpisodeXV

本話は、本編60,61話の話になります。

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「分かった。話す。いいな?」


 意を決したように一度ため息をついたゼロさんは、だいさんに目配せをしてから口を開きました。

 お話としてはこの前の日曜日、ゼロさんはセシルさんと会ってお盛んに何かをしていた、ということですけど、だいさんだけは知っていた情報ですし、どうやらだいさんも関わっているご様子。

 ゼロさんとだいさん、色々関係性があるみたいですね。


「まず俺が亜衣菜と会ったのは先週の水曜日だ」


 水曜日……ですか。

 ふむ。その日はログインはしましたけど、特にギルドでも目立った会話はなかった、ような?


「ほんとに会ったんだ~」

「ド平日からお盛んなこって」

「すぐそっちに持ってくな!」


 むむ、平日にお盛んなのは普通ではない?

 そしてそっちって、どっちでしょうか……。


 でもなんだかゼロさん、お二人のリアクションに少し表情がお疲れですね。


「色々あって神田で飯食った後、秋葉原に行った」


 色々? ふむ。

 なんだろ、聞いてみようかな、と思ったのですけれど。


「平日から秋葉原とか、オタクか!?」

「ゲーマーのあたしたちが言う言葉でもないけどね~~」

「というかさすがにそれは偏見よ……」

「で、秋葉原でたい焼き買ってたんだけど、そこでばったり亜衣菜に会ったんだ」

「うっわ、さすがMr.ミスター奇跡」

「だいだけじゃないんだね~、奇跡の相手」

「常時発動型スキルか」

「これがイケメンスキルキャップの力か~~」

「適当なこと言うな!」


 ゼロさんがお話をするたびに、ぴょんさんやゆめさんがちょこちょこ口を挟むので、私は聞くタイミングを逃してしまいました。

 とはいえ他の方々がお話をしている間にお話を整理していると、また別な疑問が浮かびます。


「ゼロさんはたい焼きがお好きなんですか」

「え? いや普通だよ?」


 そして今度こそ何とか隙を見つけた私は、ゼロさんに質問することに成功。

 私の質問に少し不思議そうな表情を浮かべたゼロさんから返って来たお言葉は、他の方々に対する言い方よりも優しい感じで、ちょっとホッとしたのは秘密です。

 とはいえ、今聞いたことは私が知りたいことの一部分。


 だって、不思議じゃないですか。


「なら、わざわざ秋葉原までたい焼き買いに行くんですか?」


 有名なお店なのかもしれませんが、たい焼きなら秋葉原まで行かなくても、手に入るはずですよね。


「たしかに!!」

「ゆっきー鋭い!」


 でも、あれ?

 私が不思議に思ったことを尋ねたら、ぴょんさんとゆめさんとは対照的に、ゼロさんが何やら気まずそうな表情に……。

 むむ?


「はは~ん、名探偵ぴょんには見えたぞ? さてはゼロやん、仕事終わりに誰かとデートしてたな?」


 むむ、デート? 

元カノさんにばったり会った時が、デート中だったというのですか?

 え……それはいわゆる、修羅場というやつ?


 ゼロさんの表情を見てか、ぴょんさんがゼロさんにそう尋ねると。


「デ、デートなんかじゃないわよ!!」

「おや~~?」

「おやおや~?」

「あ」


 何故かぴょんさんの指摘を否定したのは、だいさんでした。

 そして否定しただいさんは、しまったとばかりに口を抑えますが……なるほど……やはりだいさんも争奪戦メンバー、なんですかね。

 さすがにこれは直接聞かなくても分かります。


 ゼロさんとだいさんが、デートですか。

 ふむ、デートって、たい焼きを買いに行ったりするものなんですね……。


「ゼロさんは、水曜日の仕事後に巨乳美人とデート……」

「違う! 違うから! ゆっきーその呼び方もやめて!」

「巨乳美人=自分としっかりインプットされてるんだね~~」

「ちょっと、ジャック!?」

「まな板の気持ちも考えてあげなよ~」

「誰がまな板じゃああああああ!」


 頭の中を整理するために思ったことを口にすると、だいさんが全力で頭を振りながら否定の意を示しますが、その様子を見た他の方々はとてもとても楽しそうに笑い出します。

 あ、ぴょんさんだけは何だか怒ってる様子ですけど。


 でも、デートに行くってことは……。


「ゼロさんとだいさんは、お付き合いされてるんですか?」


 もうすでに恋人同士、ということでしょうか?


「え?」


 私の質問にゼロさんはちょっと顔を赤らめたまま、きょとんとした表情を見せるも。


「ないないないないないない!! そんなことないから!!!」


 だいさんが顔を真っ赤にして全否定。


 むむ、付き合ってないのに、デートしていた……ということですか?


「うわ、全否定だ~」

「ゆっきーは怖いもの知らずだね~~」


 あ、でもそうか。


「あ、そうですよね。日曜日にセシルさんとお会いしてるって話でしたし、お付き合いされているなら、そんなことしないですよね。失礼しました」


 うん、お付き合いされてるなら、元カノさんと会うわけないですよね。

 お付き合いされているのに別な女性と会うなんて、よくないと思いますし。


 そう思った私は、非礼を詫びるためにゼロさんとだいさんに頭を下げます。


「ゆっきーは面白いな~」

「私、ですか?」

「素晴らしいぞゆっきー!」

「あ、ありがとうございます?」

「天然さんだね~~、可愛いな~~」

「むむ???」


 でも、何故か周りの皆さんが褒めてくれます。

 失礼なこと言ったと思うのに、どうしてでしょうか……。


 というか、ゼロさんとだいさんのお二人と、他のお三方の反応、全然違いますね。


 うーん、いまいちゼロさんとだいさんの関係が分かりません。

 デートをするということは、お付き合いないし、恋愛感情を持っている、はずだと思うのですけど。

 だいさんは全力で否定されてますよね。


 ふむ……。難しい……。

 

 その後もゼロさんに対して皆さんがセシルさんと会った時のお話を聞き、ゼロさんがそれに答える時間を過ごす中、私は改めて恋愛とは、お付き合いとは何なのかについて少し考えました。

 

 話の途中で色々気になる単語はありましたけど、3Pってなんだろう。

 後で調べてみるとしましょう。


 そしてゼロさんから、だいさんと食事に行かれた後、だいさんと一緒にセシルさんの家に行ってお話したり、元教え子の方と会ったりした、というお話を一通り聞いてなお、いまいち分からないことが一つ。


 気になるのはそう、ゼロさんとだいさんの関係です。


「あの」

「お、ゆっきーいけいけ~」

「いいぞ国語科。言葉に切り込むのだ!」


 いや、今国語科は関係ないと思うんですけど……。

 でもまずはゼロさんに疑問をぶつけましょう。

 だいさんは何というか、ちょっとお疲れみたいですし。


「なんで、ゼロさんはだいさんと食事に行かれたんですか?」

「おお、戻した~」

「でも、たしかにそりゃそうだよね~~」

「想い合う二人は僅かばかりの時間でも逢瀬おうせを重ね……」

「無駄に国語的な表現すんな!」


 私がゼロさんに問いかけると、またもや皆さんが盛り上がります。

 でも皆さん、不思議に思ってなかったのでしょうか?


「俺とだいが合同チーム組んでるって話してるだろ? チーム方針とか、今後の予定とか、色々話すことあるんだよ」

「合同チームを組んだりすると、わざわざ会って話をしに行かないといけないのですか……勉強になりました。覚えておきます」


 なるほど……教師たるもの、定時後も仕事のための行動が必要なんですね……。

 さすが全体の奉仕者と呼ばれるお仕事です。


「え?」

「ゆっきーそんなことねーからなっ」

「電話かメールで伝えといて、仕事で会ったときに話せば十分じゃない~?」


 むむ? 違いました?


「おいおいゼロやん、未来ある若者が勘違いしちゃうぞー?」

「付き合ってるんだったら、はっきり言っちゃえばいいじゃ~ん」

「ギルド内夫婦二組か~~。9人しかいないのに、すごいね~~」

「夫婦じゃねえ! というか付き合ってませんし!?」

「だいさんとセシルさんと……一夫多妻制は日本では認められてませんが……」


 結局お付き合いしているのかしないのか、好きなのか何なのか、もうよく分かりません。

 でもとりあえず、二人の女性と結婚出来ないのは、子どもでも知ってることですよね。


 私の問いをきっかけとする言葉たちを受け、ゼロさんは顔に手を当て困惑した様子。


 あれ、もしかしてゼロさんも恋愛で迷うことがあるのでしょうか?

 むむ、もしや……ゼロさんって恋愛マスターではない?


「水曜日は……外食の日なんだ」


 ゼロさんに対する疑惑を抱きながらじっとゼロさんを見ていると、困惑を見せるゼロさんが聞き慣れない言葉を口にしました。

 むむ、外食の日とは?

 水曜日の新たな呼び方ですか?


「へ?」

「外食の日~?」

「そんな暦ありましたっけ……」

「先々週、『月間MMO』の発売日に本屋でばったりだいと会って、だいがそう言ってたんだよ!」


 あ、だいさんの造語なんですか。

 むむ、でもだいさんはぐったりしていて、お話聞けそうにないですね……。


「だいが毎週水曜は外食する日にしてるみたいで、いつも一人で行ってたみたいだから、俺にナンパ防止要員を頼んできたの!」

「あー。食欲の化身だもんな」

「おひとり様ご飯か~、わたしにはできないや~」

「でもたしかに、だいが1人でご飯食べてたらナンパはされそうだね~~」

「なるほど……たしかに食事は誰かと食べたほうが美味しいといいますしね……」


 なるほど。

 一人で食事をする寂しさを紛らわすために、だいさんが誘ったのですか。

 でもほんとに食欲のため? いや……やはりこれは、争奪戦……?


 争奪戦にエントリーしているというなら、不思議ではないですよね。


 そこがはっきりとはしませんが、ひとまずゼロさんがだいさんとお食事に行った経緯は分かったので、ひと段落。

 でも、まだ気になることもあります。


「水曜日の話は分かりました。では、なぜ日曜日はセシルさんとお会いになったんですか?」

「え」


 ばったり会っただけならまだしも、わざわざまた別の日に会ったというのは、故意の行動ですよね……。


 そんな風に私が疑問をぶつけると、皆さんもはっとした様子を見せてくださいました。


「日曜の話はまだ聞いてないよ~?」

「ほら、ちゃっちゃか話せよモテ男」

「お前らがいちいち茶化すからだろ!?」

「話す気はあるんじゃ~~ん」

「ああもう! 話せばいいんだろ話せば!」


 そして皆さんもゼロさんに日曜日の話を催促すると、ゼロさんは渋々といった様子でそれを説明し始めます。

 要約すると、LAの中で一緒にPTを組んだのをきっかけに少しお話して、お食事に誘われた、ということのようです。

 ふむ。これはつまり、セシルさんも実は争奪戦にエントリーをしている……?


 あ、これがいわゆる……焼け木杭には火が付く、というやつですかね?


 なるほどなるほど。

 ゼロさんはだいさんのお誘いを受けてお食事に行き、セシルさんにもお誘いを受けてお食事に行った、と。


 うん、同時に色んな女性とお食事に行くなんて、すごいですね。

 やはりゼロさんは恋愛マスターな気がしてきました。

 

 あ、でも、ゼロさんのお気持ちって?


「水曜日はだいさんと、日曜日はセシルさんと……」

「おお、ゆっきーの一撃が出るぞ!」

「わくわく~」


 分からないことは、聞くのが一番ですよね。


 うん、私の質問がなぜ注目を集めるのかよく分かりませんが、聞いてみましょう。


「ゼロさんは、お二人が好きなんですか?」


 じっとゼロさんの目を見つめて、その答えを聞き漏らさないように。

 女性と二人でお食事に行く男性の心理とは、どのようなものなのか。

 どんな答えが返って来るのか。


 少しだけわくわくした気持ちで、私はゼロさんの答えを待つのでした。






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以下作者の声によるあとがきです。

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 前Episodeに続き、の回です。

 この辺りの話、もうはるか昔のような……。

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