Side Story〈Yuuki〉EpisodeXVI
本話は、本編63話+の話になります。
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答えが頂けるまでは、少し時間がかかりました。
私としてはお二人が好き、という答えを期待しているわけではなく、お二人の女性と食事に行くけど、きっとどちらが好きなのかを言ってくれると予想しています。
その違いとは何なのか、それを聞きたいというのが本音です。
もしどちらも、という答えがきたら、その時はその時で、どういう心理なのかを聞きましょう。
うん、これで私も、少しは恋愛を理解できるかな……。
「お、俺は――」
そしてしばしの間を置いて、ゼロさんが口を開いた時。
「トイレ!!!」
「うお!?」
ずっとぐったりしていただいさんが急に飛び起きて、それにゼロさんが驚き、答え聞けず。
むむ、ゼロさんは何と答えようとしたのでしょうか、それを改めて聞こうと思うと。
「おいおい、大の大人が大きい声で言うもんじゃねえぞー?」
「あたしも行くよ~~」
飛び起きただいさんに、ぴょんさんが呆れたような顔で声をかけ、ジャックさんが移動を始めただいさんに追随。
私側の席のお二人が席を立ったので、今私の前にはゼロさん、ぴょんさん、ゆめさんの3人が。
あ、なんかちょっと、面接みたいになりましたね。
そしてここで私はふと気付きます。
ゼロさんの答え次第では、だいさんが選ばれなかった場合もありますし、そうなると争奪戦に参加していただいさんはショックを受けてしまったかもしれません。
そう考えると、この状況はだいさんがいないので好都合ですね。
よし、もう1度聞いてみましょう。
と、意気込んだものの。
「ゆっきー」
「はい?」
向かい側に座ったぴょんさんが、私に声をかけました。
その表情は、何だかとても真剣で。
あまり経験はないのですが、小さい頃に両親に叱られた時のような、私がゆずちゃんに注意する時のような、そんな様子に見えました。
「人の心の
「むむ?」
人の心の機微、ですか?
それに自分の心を?
「それが国語科の先輩としてのアドバイスだよ」
アドバイス、アドバイスですか?
つまり、細やかに相手の心を察して、それを理解しなさい、ということですよね。
……相手の、心……。
「うわ~、ぴょんがなんかえらそ~」
「う、うるせえな! 事実先輩だぞこっちは!?」
「そういえばそうでした~。でもねゆっきー、今の話の答えは我慢してあげよ~」
私がぴょんさんのアドバイスを受け、その言葉の意味を考えていると、ぴょんさんを茶化すようなことを言ったあと、ゆめさんも優しく私に微笑えみつつ、今の質問は我慢するように言ってきました。
でも、分からないことは聞いた方がいい、そう思うのですが……。
私たちがいる個室内に、少し不思議な雰囲気が漂います。
周りからはガヤガヤする音が聞こえるのに、私たちの部屋には、私の返事を待つ時間が流れているようでした。
「どうしてですか?」
「ん~、ゆっきーの聞きたい話を聞きたい人もいれば、聞きたくない人もいるかもだからね~」
ふむ。
「なるほど……勉強になります」
たしかにだいさんが聞きたくない話、だったのは考えれば分かります。
つまり、私はだいさんに悪いことをしてしまったのですね……。
そしてぴょんさんとゆめさんは、私にそれを教えてくれた、と。
うん、あとで謝らないと。
「色んなガキがいるからなー。何でもかんでも聞いてあげるのが、正解じゃないときもあるんだよ」
ガキ? 私のことでしょうか?
「そだね~。尊敬できないかもだけど、わたしたち一応先輩だからさ~」
あ、ゆめさんが先輩ということは、先生として、ということですか。
ということは、ぴょんさんの色んなガキ、というのは色んな生徒、ということですよね。
聞いてあげるのが、正解じゃないときもある……か。
「そんなことないです。深いお考え、勉強になりました」
たしかに今は私が最年少ですけど、学校に出たら自分よりも遥かに若い生徒と接していくんですもんね。
生徒一人ひとりの心に自分の心を合わせて、どうすればいいか考えなきゃいけない、そういうことですよね。
難しいですけど……でも、既に現場で働いておられる方々の言葉ですし、大事にしないと。
「ゼロやんも、女心を勉強しろよ?」
「は? な、なんだよ急に」
「そのままだと残念イケメンだよ~?」
「ま、余ったらもらってやるよ!」
「あっ、わたしのとこでもいいよ~?」
「お、おい!?」
そして私がお二方の言葉について考え、自分の行動を省察していると、今度はお二方はゼロさんの方に向き直って、楽しそうに笑いながら何やらアドバイスを送っていました。
あれ、でもゼロさんの方が、教員歴は長いのではなかったですか?
そんなことを思いながら正面のお三方を見ていると、突然申し合わせたように、ぴょんさんとゆめさんがゼロさんの腕に抱き着きました。
むむ、だいさんがいなくなった途端に?
これはやはり争奪戦にエントリーしている二人だからの行動でしょうか?
急に抱き着かれたゼロさんは頬を赤くして照れている様子です。
これは、まんざらでもない、というやつですか?
でもゼロさんが好きなのはセシルさんかだいさんか、そう思ってたのですけど、お二方でもこのような反応をされる、と……。
……もし私が抱き着いたりしたら、ゼロさんはどう思われるのでしょうか?
「まな板よりわたしがいいよ~」
「おい! まな板は感度がいいんだぞ!?」
「まさかのカミングアウト~」
「それ言ってて恥ずかしくないのか……?」
感度? まな板というのは、調理器具ではなく、今は胸の話ですよね。
つまり胸の感度。
うーんと……心音が伝わりやすい、ということですかね……。
あ、たしかに心臓の音は赤ん坊を安心させると聞いたことがありますし、なるほど、感度はいい方がよさそうです。
「酒飲めないから、両手塞ぐのはやめてくれ……」
そんなお二人に、ゼロさんがお困りの様子を見せますが、ふむ。
ゼロさんがどちらを好きかを聞くのは、きっとお二人が聞きたくない答えでしょうから。
「ぴょんさんとゆめさんは、ゼロさんが好きなんですか……?」
これならいいですよね。
「そだよ~?」
「争奪戦エントリー者だからな!」
「か、からかうのはやめてくれっ」
「争奪戦……なるほど」
そしてお二方は隠すこともなく、ゼロさんを好きと答えてくれました。
なるほど、となるともし先ほどゼロさんが誰が好きなのかを答えていたら、お二人も傷ついてしまう可能性があったわけですね。
うん、やはり聞かなくてよかったです。
そして気づきました。
誰を好きなのか分からないゼロさんよりも、はっきりと誰かを好きになっているぴょんさんやゆめさんを真似した方が、恋愛について理解できるのではないか、と。
誰かとお付き合いしているならまだしも、お付き合いする前であれば、何人に好かれても問題はないですし。
「ど、どうした?」
じーっとゼロさんたちを眺めて、私は一つの答えに至ります。
「それは、私も参加できますか?」
私も争奪戦に参加すれば、間近に恋愛する人々を見ることができますよね。
前回のオフ会から今回のオフ会まで間の期間も短かったですし、またきっと、このメンバーで集まれる機会も多いはず。
新宿で迷子になっている時に助けてもらった時のように、頭をぽんとされた時の不思議な感覚もよく分かりませんでしたし、お二方に続いてゼロさんのそばにいれば、何か分かるかもしれません。
「いいよ~、
「若いやつには負けねーぞー?」
「ああもう! とりあえず離せお前ら!」
そしてぴょんさんとゆめさんの承認を得られたので、私も争奪戦に参戦決定です。
……ギルドも、私とジャックさん、昔のだいさんが入れた段階でほぼ条件なしだと思うのですけど……。
そんな私たちの会話に、ゼロさんは何やらちょっと焦った様子で、お酒を飲んでますね。
と、そこに。
「盛り上がってるね~~」
「おかえり~」
「お、だいも復活したか」
「も、元々死んでないし!」
「いや、死んでたじゃ~~ん」
トイレからお戻りになられたお二人が到着。
だいさんも先ほどよりは少し元気になられているようです。
そして私の隣にだいさんが座ってきたので、ジャックさんも座れるよう私は席を一つ奥に詰めました。
あれ、だいさんのお顔、先ほどより綺麗になったような……。
いえ、元々とても綺麗なお顔ですけど、化粧直し、したのかな?
……ふむ。メイクというもの、ちゃんと勉強してみようかな……。
「でも、ほんとみんないい人であたしは嬉しいよ~~」
そんな風なことを考えていると、ジャックさんが中座するまでの間していた話題を続けず、私たちに会えたことを喜ぶ旨の言葉を言ってくれました。
たしかに先ほど聞いたような【Vinchitore】のオフ会とは、全然違う雰囲気なんでしょうね。
私も楽しいですし、お勉強にもなりますし、いいこと尽くしです。
「リダとか嫁キングとか、あーすにも会いにいきたいね~」
「夏は宇都宮オフだぞ!」
「餃子……」
「だいの食べたものはどこに入ってんの~?」
「会ってないメンバーもそうだし、いなくなったメンバーにも会ってみたかったな~~」
あ、やはり次のオフ会ももう検討されてる模様。
嬉しいです。
だいさんが食べたものは、きっとお胸に入っていっているんだと思いますけど。
でも、いなくなったメンバーですか。
「やめちゃった人ってどれくらいいたの~?」
「あたしが入ってから〈
「あ、かもめさん懐かしいですね」
ぴょんさんと仲良かったですよね、かもめさん。
「え、わたしその人知らないな~」
「懐かしいなー。だいのライバルだったよな?」
「別に、張り合ったことなんかないわよ」
「ほかにも、ギルド結成から1年でやめちゃった〈
「あー、懐かしいな! せんかんにちょんか、元気かな」
「ちょんは結婚してやめちゃったのよね。リダみたいに子ども生まれたのかしら」
「どうだろね~~。でも、どっかで会えたらいいよね~~」
「色んな方がいたんですね」
せんかんさんに、ちょんさんですか。
ふむ、どんな方だったんでしょう。
顔も知らないままお別れになるって、少し寂しいですよね。
「みんな、懐かしいわね」
「せんかん、もどってこねーかなー」
「男仲間欲しいなら、あーすと喋ればいいじゃ~~ん?」
むむ?
「それは可哀想だろ……」
「あんなバレバレなネカマ珍しいよね~」
ネカマ……?
ネット上の、オカマ、というやつですよね?
え、あーすさんそうだったんですか?
正直もっとちゃんとやってほしいと、思うところが多かった方ですけど……。
あれで、男性、なのですか?
「というか、隠す気はないよな、あいつ」
むむむむむむ。
皆さん気づいてらっしゃった?
「え、あーすさんは男の人なんですか?」
「うっそ、ゆっきー気づいてなかったの!?」
「どう見たって男じゃ~ん」
「気づきませんでした……」
え、私だけですか……ちょっとショックです。
今度もっと観察してみましょう……。
そんなことを考えていると。
「あ、もういい時間だね~~」
そして時計を見れば、既に21時半を過ぎ。
会が始まってから3時間ほどが経過していたようです。
「え~、はや~い」
「いやー、あっという間だったなー」
「ほんとですね」
時間の経過を忘れるくらい、楽しく、勉強になる会でした。
「ジャックとゆっきーに会えて嬉しかったよ」
「あたしもだよ~~」
「私も皆さんにお会いできて嬉しかったです」
「こりゃまたすぐ開かねーとなー」
おお、それは嬉しいです。
争奪戦での皆さんの振る舞い、学ばないと……!
「じゃ、お会計はゼロやんよろしく~」
「え? 俺? はいはい、じゃ伝票貸して。……えーっと、一人4500円だな」
「は~~い」
「職場の飲み会より、こういう会の方が金払う気になるよなー」
「あ~、それは同感だね~」
そしてゼロさんから今日のお会計を伝えられ、私も鞄から財布を取り出すと。
「あ、ゆきむらはいいよ」
「え?」
「まだ学生だろ? ここは大人持ちってことで」
「むむ……」
たしかにまだ学生の身ですけれど、自分でお金も稼いでいるのですが……。
「ひゅー、やっさしー!」
「手慣れてるね~」
「うるせーな! 別に普通だって!」
え、どうすればいいのでしょうか?
さすがに自分の飲食代くらい、出すべきと思うのですけど。
「こういう時は、素直に出させてあげるといいよ」
「え、そうなんですか?」
「ゼロやんの男のプライドがあるからね~~」
「ふむ……ありがとうございます」
なんだか気が引けますけど、だいさんやジャックさんもそう言うので、私は鞄から出しかけたお財布をしまい、ゼロさんに深々と頭を下げました。
「いいっていいって。未来の仲間への投資だからさ」
むっ。
私への投資、恐れ多くもそう言ってくれたゼロさんが、ニッと優しい笑顔を私に向けてくれたのですが。
「いやー、イケメンは言葉のチョイスもイケメンだなっ」
「そんなことわたしじゃ言えないな〜」
「茶化すなよ……!」
すぐさまぴょんさんとゆめさんに冷やかされたことで、その笑顔はすぐに消えてしまいましたけど、なんだろう、なんか、不思議な感じがしたような……。
むむ、なんだろう?
「ゆっきーもこれからの争奪戦、頑張ろ〜ね〜」
「え、ゆっきーもなの?」
「そだよ〜?」
「おいおい、なんだかんだ焦ってんのかー?」
「ち、違うわよ!!」
そして私の方に振り返ったゆめさんが、争奪戦にエントリーした私に楽しそうに笑ってくれると、それを見てだいさんが何やら少し慌てた様子に。
うん、やはりこれは、だいさんも参加しているのでしょうね。
3人も参考に出来る方がいるなんて、ありがたいです。
でも、さっきの笑顔の時の感覚……うーん。
そんな思いは残しつつも、こうして私たちはみんなで居酒屋を出て、人生初のオフ会は終了となるのでした。
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以下
―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―
ゆきむら参戦、です!
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