令和五年

五月二十一日


 今朝見た夢。

 ビジネスホテルの七階か八階あたりの部屋である。

 縦長の窓の外は雨、向かいにも似たようにシンプルなビジネスホテルらしき建物が並んでいる。

 彼岸と此岸の合間を分かつのは、小さな川ともいえるほどの大きさの水路である。ヴェネツィアのそれのように、おそらく街のあらゆるところを青い血管のごとく駆けめぐっているのだろう。

 緑青色の、底の見通せぬ水路に雨が絶え間なくをつくる。そのさまを窓際に立って眺めている。

 そうしていると、ふいに水中を白銀のなにかがよぎった。

 細身の龍のごとく身をひらめかせ、川をさかのぼってゆく。初めは一頭、つづいてまた一頭、二頭。彼らは規則正しく順序を守り、つるつると音もなく水中に現れては消えてゆく。

 長いたてがみがある、髭がある。ゆったりと身をくねらせて進むさまは、優雅な貴人の領巾ひれのごとくにも思われる。

 リュウグウノツカイだ。

 深海に眠るはずのまれびとが、壊れたビデオテープをくり返すかのように幾度も川をさかのぼる。その光景は夢のごとくうつくしい。

 魚たちは無粋な見物人がいることも知らず、ただひたむきに川の上流を目指している。

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夢のはなし うめ屋 @takeharu811

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