第9話 受付嬢視点『惚れた』
〜〜〜side受付嬢〜〜〜
「うぅぅ……思ってたのと違う」
狼人族の少女は今ある現状を嘆いた。
少女は本来冒険者専用受付を行いたかったのにも関わらず、年齢制限やら新規募集をしていないなどの為、不人気の総合案内所の受付嬢をやらされていた。
総合案内所と言っても大抵冒険者は冒険者専用受付で用事を済ませ、この街に住む人々は大抵
特にすることもなく、ほぼ一日中カウンターの中で突っ立っているだけ……出来るのは相方との談笑くらいである。
「ねぇキーラ思っていた仕事と違わない?」
話題も少なくなりつつあった狼人族の少女は、相方の猫人族の少女に声を掛けた。
「アーラまたそれかにゃ?確かにこのままだと婚約者を見つけれないけどにゃぁ〜 此処で下積みして冒険者の受付嬢になるしかないにゃ」
「……そうね。はぁ……強い御方、早く現れないかな」
実際のところこの二人は物凄くモテている。しかし、約一年前にこの仕事をし始めた頃、近づく
そんな中久しぶりに仕事が舞い込んできた。相手は幼さの残り、見た目の年齢に対して比較的背の高く、腰に短剣を差した、碧眼で美しい青髪の少年
その美しさに……二人の獣としての本能が訴えかける……少年の強さに、彼女らは惹かれて魅入ってしまった。
どれ程時間が過ぎただろう……ユノも少女らも互いに言葉を発することなく只々時間のみが過ぎてゆく。
アーラは気を入れ直し、キーラの方に目をやった。
……キーラは完璧に魅了されていた。唯ひたすらにユノの美しい中性的な顔を眺め、そして眺める眼はまるでハートになっているかのように魅入っていた。
キーラが使い物にならないと理解したアーラは、ユノに声をかけることとした。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょか?」
少年は一瞬『ハッ』とした様子になりつつも返事をした。
「何処か良いレストランはありませんか?予算は金貨二枚程あるので……」
彼女は『金貨二枚』と聞き驚いた。まさか本能が彼を婚約者にと薦めていたが、親の力であっても、まさか本当に力があろうとは思っていなかったのだ。
但しそんな邪な考えは直ぐに追いやり、彼女は一瞬で表情を引き締め直した。
愛しの彼の要望に応えるべく、彼女は素早く地図のある棚へゆき取り出した。
地図は簡易なものだ。特に最近は真面に案内すらしていない……緊張せずに自分の言葉で伝えられるのか……瞬時のうちにそんな考えが脳を駆けずり回った。
彼女は意を決して、主要な建物のみ描かれている簡易地図を広げた。
彼女が紹介したのはイニーツィオで三番目高級なレストランだ。最も高いレストランではない。確かに最も高いレストランは美味しいらしい。しかしそこの店に行ったお客に話を聞くと、皆口を揃えて『料理は美味いんだがな……』と何かその後も言いたげな表情をしていた。
其れには比べて三番目に高いレストランははサービス、店内の様子も完璧で、最も高級なレストランに引けを取ら無いにも関わらず、値段は中流階級以上向けの設定らしいのである。
そして、グルメランキングでこの街で一位を取ったことがある、この事実もまた紹介する決め手となったなった。
レストランについて聞いた少年はそれは満足そうに
キーラにアーラが目を向けると……
未だに愛しの彼がいたところを見つめていた。
アーラは「キーラ!キーラ!」そう呼びかけた。
キーラは『ほけぇ〜』とした顔でアーラを見つめて、「あれ?あの御方は何処にゃ」と惚気た声で発した。
アーラはどうにか正気を保っており、キーラ程惚気てはいなかった。
「キーラ……今日はもう上がって、あの御方を追いかけてみたら?その代わりに私にも彼を紹介して!」
キーラは一瞬驚きを見せた。
「アーラ!それは本当かにゃ!あの御方を追っても良いのかにゃ!」
「約束を果たしてくれたらね!」
アーラがそう言うキーラは「分かったにぁ!アーラありがとにゃ!」と言い残し、受付嬢の服を着替えることもせずに、愛しの彼を追っていった。
「……私も追いたいなぁ」
そんな声は総合案内所のカウンターに虚しく響いた。
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