第5話イニーツィオへ

ノエリアは走って出て行った……心配だし近衛騎士にノエリアに付いていく様に一応命じておいた。


彼女にもし何かがあれば流石に目覚めが悪い。こんな事を思うからか、彼女の存在はいつの間にか大きくなった気がしないでもない。


と言うものの近衛騎士に命じた理由は、純粋に心配な気持ち七割、近衛騎士を遠くに追いやりたい気持ち三割なのだが……


俺は彼女を信頼している。この身体に転生した後、二歳頃に彼女と出会った。彼女は気が強く真桜とは正反対の様な性格だと感じた。ただ数年間関わるのちに、彼女は常に隣にいて、気が強い中にも優しさが垣間見る事ができた。そして俺はこの世界で初めて同年代の人間を信頼した。


取り敢えず今の状況は最高だ。こんなにも上手く抜け出す機会を作り出せるとは思わなかった。そんな思いを押し殺し、俺は平然を装った。


「セバスチャン、では父上に挨拶してから行くか……城から出た後は先導を頼む」


セバスチャンは言葉を発する事なく肯いた後、影移動で部屋を後にした。直ぐに俺も影移動で追いかけた。


ただで際暗い視界が暗くなった。少し経つと視界が明け、影移動する前と同等の明るさに変わった。移動すると少し後ろにはセバスチャンがいた。


父上はというと……俺の実母クロエ第一王妃と致している所であった。『少し遅れるかも知れないが、挨拶に来る』と伝えておいた筈なのだが……何故だろうか?このバカ夫婦は十歳の息子が来るのにも関わらず、共に大きな喘ぎ声をあげている。弟か妹が出来るのも時間の問題と感じてしまう程に……


ここから立ち去りたい……俺はセバスチャンとアイコンタクトを取った。セバスチャンも表情こそ変わらないものの、今すぐにでも立ち去りたい様であった。


セバスチャンと思いが同じならば何時迄も此処にいる必要はない。性格の悪い部分の出た俺は、わざと音を立てて部屋から出ようとした。


「ユート!す、すまぬ。約束を忘れておった」


音を聞き、俺の姿を見た父は焦った様に起き上がった。


「父上……先ず服を着てください……」


父は生まれたままの姿だ。逸物は大きい様である。ただ俺よりも少し小さ……と変な事を考えてしまいそうになったが直ぐに雑念を捨て去った。


因みに母上はというと白い布切れを身体に纏わせて、微笑みながら此方を眺めていた。


何故微笑む事が出来ると言いたいが出立の時間は既に過ぎている。手短にノエリアが部屋から出た事、近衛騎士にノエリアを追いかけさせた事、これから向かう事を伝えた。


父は「では安全に気をつけよ。毎夜戻って来いと言ったが、週に一度でも構わぬぞ」と短く言って、直ぐに母に向かってル○ンダイブしていた。

……うん、早く此処から出よう。









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挨拶を終えた俺はセバスチャンを先頭にして、道無き道を進んでいた。


城から毎日のように抜け出しているだけあって、簡単に抜け出した……と言いたいところだが隠密によって見つかった。


ただ父から命じられているのか、奴等は近づくことなくそのまま俺が城から出る迄見守っていた。


しかし隠密でありながら、追尾を対象から気づかれるのは隠密失格であろう。後で誰かは分からないが父に伝えておいてやろうと、不気味な笑みを浮かべつつ思った。


夜で良かった!と本当に思う。とてもじゃないがこんな顔は人に見せられるものではない。


行先のイスブルグ迄はかなり遠い。王都に一番近い都市から馬車に乗って一週間程かかる。そして今俺は一番近い都市イニーツィオに向かっている。一番近いと言っても、それなりに時間のかかる距離だ。


自らの脚で向かっている為当然疲労は溜まる一方故、現在は休憩中だ。別に休憩がなくとも問題はないが、走ったり、魔物を狩ったりなど体力の削られる場面が多々あった。


勿論セバスチャンもいる為、一般的な魔物相手では役不足なのだが……『勝って兜の緒を締めよ』油断した時が一番危険なのだから、念には念を入れてのことだ。


休憩も程よく取り、出発しようかというところで、セバスチャンから髪の毛の色を変える薬が渡された。髪の毛に塗り込むと色が変わるらしい。


また脱色専用の薬を塗ると素の色に戻るしようのようだ。転生前に存在すれば大ヒット間違いなしの商品だ。


もう一つ渡されたのは二つの青色のガラスだ。

眼にはめると虹彩が変わるらしい。所謂カラーコンタクトレンズと言ったところだろう。と言うよりも、まんまカラーコンタクトレンズだと思う。


一度使ってみたところ……自分では正直どの様に変わったかは分からない。仕方なく宝物庫の中から鏡を取り出して、自分のことを見ることにした。


「--ッ」


言葉を発することすら、ままならなかった。自分で言うのはなんだが、鏡の中には美しい青髪で碧眼の少年が映っていた。美少年という言葉が似合う姿だった。


その姿は転生前の俺から全くと言って良い程に想像できない。転生前は自他共に認めるブサイク。良く真桜はあんな俺と結婚してくれたと思うくらいに……


無意識のうちに右手で最も長い指に嵌められた指輪を触っていたが、ユートはその事に気づく事はなかった。









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太陽が姿を現し、ユートの額からは少しばかりだが汗が見られる。周囲の温度は次第に上がっている。



ユートの眼下にはイニーツィオに入る為の列なのだろうか、想像以上に長かった。その列に並ぶ馬車や冒険者達はいつ入れるのかと、今か今かと待っているようだ。


ユートには偽物の戸籍が用意されていて、ノア・アルノルトという名前だ。俺は待ち時間の間に森を抜ける前にセバスチャンから渡された資料に目を通している。


当のセバスチャンはというと、一緒にいては目立つ事はないものの、抜けるタイミングが失われてしまう。故に森を抜ける前に資料等を渡されて、別れる事になったのだ。


門は次第に大きくなり、兵士が武器腰に据えて、持ち検査を行っている。何事もなくイニーツィオにもう直ぐ入る事が出来る……そんな期待は呆気なく折られた。


「おい、お前一人の様だな」


声のした方へ目線を向けるとニヤついた顔の男が三人立っていた。




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来週はなろうで連載中の『オタクの僕が彼女達全員を手に入れようとするのは間違っているのでしょうか?』を久々に更新しようと考えているので、この作品の更新をお休みするかもしれません。


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