8杯目 とある新人冒険者パーティの物語

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月十三日・ノーム・天気:雨

 

 フヨイの街を出発し、夕方。

 私たちは一昨日と同様、街道沿いの森近くで野宿をしています。

 

 さて、見張りの交代時間まで時間がありますし、先ほど商会の人が差し入れてくれたお酒でも飲みつつ、少し休みましょう……。

 うん、美味しいです。今夜も大雨ですからね、身体が温まります。


 なんて思いながら視線を幌馬車の端へ向けると、同乗しているネブリナさんと目が合いますが……その瞬間、サッと顔を背けられました。

 き、気まずいです……。まぁ、色々ありましたからね、昨日。

 はぁ~、とりあえずリュートの調律でもしておきましょう。ポロロン、ポロロン♪


 そうして雨とリュートが規則正しい音を奏でる中、


「あの……その……昨日は……ごめんなさい」


 いつの間にか目の前に来ていたネブリナさんに突然、謝られました。

 困惑していると、あのあとギルドマスターに色々聞いたから……、と俯きながら応えてくれます。あのお節介め……。


 今頃ギルドの酒場で笑っているであろう坊主頭を思い浮かべながら深いため息をつくと、不安そうにローブの裾を握りしめるネブリナさん。

 あぁ、いえいえ……別に大丈夫ですよ。ほら、私が多々やらかしたのは事実ですし? ネブリナさんの怒りももっともだと思います。

 だから、気にしないでください……私も申し訳ありませんでした。


 さて……先ほどとは別の意味で気まずいです。

 しかたありませんね……。まだ時間もお酒もありますし、少しだけ昔語りでもしましょうか。

 もう誰も憶えていない新人冒険者パーティの話でも……ポロロンポロロン♪


 彼らはその年、王都の有名学院を卒業した男女七人。

 互いに夢を語り、切磋琢磨し、優秀な成績を収めた仲の良い友人たち。

 そんな彼らが冒険者になったのは、ひとえに人々を救いたかった故。


 どんなに些細な依頼でも、手を抜かなかった。

 どれほど報酬が少なかろうと、快く引き受けた。

 そこに助けを求める声があり、誰かの笑顔が守れるならば。


 周囲もそんな彼らを次第に認め、将来を期待した。

 偉業を成し遂げ、英雄と呼べるその日を心待ちにした。


 そうして……夢見た日は永遠に来なかった。

 切っ掛けは些細な依頼。とるに足らない魔物の討伐。

 慣れた仕事のはずだった。すぐに終わるはずだった。


 けれど、そうはならなかった……。

 光を、腕を、足を……命を失った。

 四人だけしか戻らなかった……。

 

 その後の彼らがどうなったかは誰も知らない……。

 ただ、もう冒険者ではないだろう……。


 以上、新人冒険者のありふれた物語でした。ポロロンポロロン♪


 弾き語りを終えると、半ば呆然とした様子のネブリナさんと目が合います。

 まぁ、なりたての冒険者にはよくある話ですよ……。失敗をする、その失敗を取り返そうと気持ちが焦る……。そうして気がつけば最悪の事態。


 運良く全滅せずに戻ってきても、前回の失態を挽回しようと次の依頼で無理をして結局は……。

 少しでも名誉になることがあれば違うんですけどね。そうすれば、他の冒険者から舐められることはありませんから……。

 魔物に一矢報いたとか、財宝を持ち帰ったとか、吟遊詩人に歌われた、とか?


 笑いかけると、目を見開き驚くネブリナさん。

 

 そろそろ見張りの交代時間ですね。休憩は終わりです!

 はぁ~、なんだか今夜の雨音はとても悲しく聞こえますね、ポロロンポロロン♪


 

 今夜のお酒

 サントルーブルー(麦酒)(度数5):一杯

 北に松 純米吟醸(度数14以上15未満):一本と少々


 おつまみ

 干し芋、焼き魚、サラダ、鶏の塩焼き

 

 連続飲酒日数:九日目


 どんな冒険者も生き残ればそれで勝者なんですよ。死んだら意味がないんです。

 

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