9杯目 そして、新しい出発

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月十四日・サーン・天気:雨


 夕方少し前。私たちは無事、ポサダの街に帰ってきました!

 ほんの数日離れていただけですけど、なんだかとても懐かしい気がしますね!

 よしっ! パーッと打ち上げに行きますか! ヒュ~♪


 というわけで、依頼完了の報告もそこそこにやってきました馴染みの酒場!

 足取り軽く店に入ると、陽気に出迎えてくれる顔見知りの常連客たち。いいですねぇ、こういうの……。さぁ、今夜は飲み明かしますよぉ!


 けれど、いざ酒場の皆と帰還を祝って乾杯しようとした瞬間、スッと手から奪われる木杯! ちょっ?! なんですか!?

 不意打ちに驚き木杯の行方を追って上を向くと、微笑みながら私を見下ろす紅い眼鏡をかけた金髪エルフの女性と目が合いました……。


「こんばんは、シオーネ? 今夜もご機嫌みたいね?」


 わぁ~。エルフィーナ氏じゃないですかぁ……。

 あ、もしかして労いに来てくれたんですか? いやー、流石は冒険者ギルドマスター様ですね!


 そんなことはあるわけがないと思いながら、別の木杯にお酒を注ぎ直すと、


「はい、没収。聞いたわよ、貴女……依頼中も飲んでたんですって?」


 ため息交じりの言葉とともに、ふわふわと宙に浮く木杯。あぁ~! なにするんですか?! 魔術! 魔術はズルいです! 私のお酒!

 抗議しますが、木杯は手の届かぬところまで上っていき……。


 うぅ~……。全て雨が悪いんですよぉ~。身体が冷えるからって、商会の人が厚意で差し入れでくれたんです……。

 そう! 不可抗力です! 私のせいではありません! 裁判長! ご慈悲を!


 すると、やれやれといった様子で首を左右に振るエルフィーナ氏。

 被告人はこう言っていますが? と視線を向ける先にはネブリナさんの姿が! あぁ、助けてください! 酷いんですよ、この人!


「いえ、裁判長。彼女はフヨイの街の冒険者ギルドでも飲んでいました!」


 まさかの裏切り?! 味方じゃなかった?! ハッ! 分かりましたよ! さては貴女が密告者ですね、ネブリナさん!

 わぁ~ん! 返して! 私のお酒を返して!


 数分後、どうにかこうにか奪還に成功しましす。

 で、ちびちび飲み始めたんですが……どうして貴女まで隣に座ってるんですか、エルフィーナ氏? 私、嫌ですよ? 酒の席でお説教とか……。


 露骨に顔をしかめると、そんなんじゃないわよ、と笑うエルフィーナ氏。

 木杯に口を付け、ただ、ちょっとお礼を言いにね……、そう呟く彼女の視線を追うと、その先には他の冒険者と語り合うネブリナさんの姿が。


「あの子、吹っ切れたみたいよ。さっき、新しいパーティの申請書を預かったわ」


 へぇ~、そうですか……続けるんですね、冒険者……。

 淡々と興味なさげに言葉を返すと、エルフィーナ氏に頭を優しくポンポンとされます。ちょっ……。なんですか、急に? 意味が分かりません……。


 不器用よね、シオーネは、って大きなお世話です。私はただ好きに飲んで、歌っているだけです。

 その結果、新人だけの危なっかしいパーティが解散し、メンバーが他の有力パーティに加入したとしても、なんら関係はありません。


 だから! 全てを理解した風に優しく微笑むのはやめるのです!

 はぁ~……いいですよ、もう……。気分を変えるために演奏でもします!

 そうですね、とりあえず陽気で楽しげな音楽にしましょう!


 だって、今夜は祝いの場ですからね、ポロロンポロロン♪

 

 

 今夜のお酒

 サントルーブルー(麦酒)(度数5):一杯

 北に松 純米吟醸(度数14以上15未満):三本と少々


 おつまみ

 青菜の炒め物、おから、鶏のソテー、赤魚の塩焼き、サラダ、ご飯

 

 連続飲酒日数:十日目


 今日のお酒は特別に美味しいですねぇ~ポロロンポロロン♪

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