吟遊詩人と新米冒険者

6杯目 強制禁酒期間なんですか??

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月十一日・シルフ・天気:雨


 うぅ……気持ちが悪いです……。昨日、飲み過ぎたんでしょうか? いえ、違いますね……調子に乗って複数の銘柄を飲んだのが失敗でした……。

 

 万全からは少々遠い体調で向かうはお仕事の依頼先、ノンデルン商会。

 到着するとすでに荷造りは完了し、いつでも出発できる状態でした! 素晴らしい! ケチな商会だと冒険者にまで荷物の運搬を手伝わせますからね……。


 数分後、今回の責任者から依頼内容の確認と同じく護衛依頼を任されている冒険者たちを紹介されます。

 すると、その中にネブリナさんの姿が! いやー、奇遇ですね! あれ? 今日は単独でお仕事なんですか? 幼馴染みの方々は?


 尋ねると、彼らとはちょっと……。というか、冒険者でもない吟遊詩人の貴女がどうしているんですか? と逆に質問を返されます。

 まぁ、色々事情があるんですよ……とりあえず、仲良くしてくださいね!


 そんな感じで他へも挨拶を終えたら、五台の幌馬車にそれぞれ乗り込み出発。

 ちなみに私とネブリナさんは最後尾、他の冒険者は先頭の幌馬車です。


 雨が降りしきる中、幌馬車は街道に出ても大した揺れもなく軽快に進みます。

 数十代前の勇者か聖女がもたらした異世界技術のおかげで、こんな天候でも問題無用! アスファルトにサスペンションでしたっけ? いい時代になりました。

 

 ふふっ……当代の勇者と聖女はなにをもたらしてくれるんでしょう? できれば食べ物関係がいいですねぇ。お酒なら尚よし!

 手持ち無沙汰にリュートの弦を弾き、たわいもないことを考えていると、今日の楽器はいつもと違うんですね、と訝しげにこちらを見つめてくるネブリナさん。

 

 コレですか? 酒場で普段使ってるのは安物なんですけどね。こういうお仕事の時は色々と不安なので、魔物の素材を使用した頑丈なヤツを持ってくるんですよ。

 説明すると、感心するような相槌とともに興味深げな視線が返ってきます。

 ふむ……冒険者ですし使用された素材とかやはり気になるんでしょうか?


 天候以外はほぼ問題なく進み夕方。

 予定通り今夜は街道沿いの森近くで野宿ということに……。ただ、この雨の中でテントを張るのは面倒なので、寝るのも幌馬車の中です。

 

 そうして簡単な食事を終え、夜の見張りに備えていると、雨で身体が冷えるでしょう? 少しですがコレで暖まってください、と商会の人から数本の瓶を渡されます。

 もしかして……お酒、ですか?! 若干の期待とともに蓋を開けると、大当たりです! ふふ~ん♪ 気の利く依頼主は大好きですよ!


 思わぬ差し入れに喜ぶと、仕事中ですよ? と呆れた様子でこちらを睨んでくるネブリナさん……。なら貴女の分も私が飲みますよーだ!

 冗談交じりにそう返すと、別に飲まないとは言ってません! って、あぁ……そんな一気に飲んで……。


 しばらくすると案の定、顔を赤く染め、その場に倒れるネブリナさん……。これ、私のせいになるんでしょうか? はぁ……しかたありません。彼女の分も見張り決定ですね……。


 少ないお酒をちびちび頑張りましょう……ポロロ~ンポロロ~ン♪

 うん……この辺に生息している魔物相手ならこの音域ですかね……。

 魔物にも苦手な音というのがあるらしく、こうして的確な音色を奏でれば余程のことがない限り襲ってきたりしません。

 

 さぁ、交代時間までしっかり働きましょう! ポロロ~ンポロロ~ン♪



 今夜のお酒

 サントルーブルー(麦酒)(度数5):一杯

 北に松 純米吟醸(度数14以上15未満):一本と少々


 おつまみ

 炒り豆、魚の塩焼き、サラダ

 

 連続飲酒日数:七日目


 イェイ! 結局飲んでます! でも、ご厚意は無下にできません! ヒュ~♪

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