EPISODE:2「The State of Malice」

STEP:00 Kagami is boot.

ふと夢にみた。遠い昔。俺がまだ小学校低学年だった時の話だ。

俺は生徒指導室にいた。

学校で飼育していたニワトリを殺したことが周囲にバレてしまったからだ。

「命を奪うのって・・・・そんなに悪いことなのかな?」

学校の先生にしたその質問。

先生は困惑していた。多分、そんな問いかけをするような児童は、そしてニワトリを殺すような児童は俺だけだったから。俺の肩に手を置き、先生は俺の両眼を静かに見つめて、とても悲しげな表情を浮かべていたのが印象に残っている。


俺はこの平和な日常が嫌いだ。


戦争のない国。寝るのも食うのも住むのも困らない。明日に怯えることなんて何もない。毎日決まり切った生活をただ自堕落に過ごせる、それがこの日本だ。

ああ、こんな状態・・・明らかに不自然だ。こんな状態はとても不自由だ。

俺はなんで自分を押し殺して生きていかなければならない?

みんな楽しそうに生きている。自由に自己表現ができているじゃないか。

なのに・・・


「・・・何で俺だけ」


何でだ?

何で俺だけ不自由なんだ?


俺はなんでこんな乾いた気持ちのまま、生きなきゃならない?

社会は俺を悪だという。社会は俺を間違っているという。

命を奪うことは悪いことだと糾弾する。


何でだ?


俺はただ楽しいからやっているだけなんだ。

それの何がいけないんだ。人を傷つけることも、命を奪うこともただ楽しいからやっているだけだ。乾いた気持ちを潤わせてくれる俺が見つけた唯一の娯楽だ。こんな楽しいことを何で糾弾されなきゃいけない。何でやめなきゃいけない。

おかしいだろ?


ただそれを続けると言うことは、俺自身の生活全てに影響を与えかねないことでもあった。

世界が平和である以上、俺に自由は訪れない。命を奪うことなんて許されない。


だから俺は心に決めた。


俺のささやかな楽しみは・・・・

ひっそりと、誰にも見つからず、誰にも理解されることなく、ひっそりと楽しむしかないのだと。この喜びを誰かに分かち合ってもらうことなんて出来なくて、生涯誰にも理解されず一人で生きていくことになるだろうと。

それでも・・・・そうすることで、


子どもながらに、そんな決意をしたのだ。


だが、大人になってから世界の状況は一変した。

一人の女性の命を楽しもうとしたあの日、俺を捕まえに来た白木とかいう刑事が銃口を向けてきたあの日、そして白木によって逮捕され自分の楽しかった人生もここで終わりかと諦めかけたあの日・・・・。


俺が済むこの世界から、が音を立てて崩れ去った。


歩く植木鉢プランター


突如現れた謎の寄生植物に寄生された人間。

その生態はいわゆるゾンビと言って差し支えがない。こいつの登場によって俺がいたこの都市は完全に封鎖され、封鎖されたこの都市全体は世間的にいうながら地獄のような状態になった。


でもそれは俺にとっては違うのだ。

ここは俺が望む自由な世界。俺が望む弱肉強食の世界。悪意が許される唯一の世界。

やっと俺は、理想郷にたどり着いたのだ。

生まれて初めて、この世界に希望を見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る