第33話 未来へ

 部屋の何眩しい日差しが差し込んでいる。

 俺は久しぶりに浴びる太陽の光に目が覚めた。


「あ、あれ、ここは・・・・・・・俺の部屋か」そこは見慣れた自分の部屋であった。たしか俺はモンゴリーの意識と一緒になって紅鬼姫という鬼と戦ったはずだが・・・・・・。なんだか意識が混乱している。

 ふと足元に目をやると椅子に座り俺のベッドに顔を埋めて眠る直美の姿があった。その姿が愛おしく感じて彼女の頭を優しく撫でた。


「んん・・・・・・あ、幸太郎君」直美が少し寝ぼけたような声を出しながら顔を上げた。


「おはよう・・・・・・直美」俺は微笑みながら彼女に挨拶した。


「・・・・・・だ、大丈夫、体は大丈夫なの?」直美は俺が目を覚ました事に驚いたように顔を乗り出してきた。彼女の顔と俺の顔の距離が急激に近くなり、驚きのあまり俺は返答することが出来なかった。


「なに、病み上がりでいきなりキスでもする気なの? 見せつけるわね」声のする方向に目を向けると腕組をして壁にもたれかかった詩織さんの姿があった。その横には愛美ちゃんもいた。


「うわぁ、幸太郎お兄ちゃんと直美お姉ちゃん猛烈!!」愛美ちゃんは訳の解らぬことを口走っていた。直美に視線を戻すと彼女の顔は見たことも無いほど真っ赤に染まっていた。


「い、い、い、いやー!!」直美の強烈なビンタが俺の頬を襲った。


「え、ええ?!!」俺は殴られた意味が解らなかった。


「そうか、モンゴリーの行動の意味は何となく解った」俺の話を聞いてファムは頷いた。俺達はリビングに移動していた。

「でも、モンゴリーは、エリザを好きって・・・・・・女同士じゃないの?」直美が疑問を口にした。


「天上界も魔界も基本的に性別に区別はないのよ。好きになれば誰とも愛し合える。男と女に分かれている人間界のほうが本当は異質なのよ」詩織さんが直美に説明をした。


「そうだ、ワシも人間界の男に偏見を持っていたが幸太郎を見て考えが変わった。男という生き物も良いものだ」言いながら俺の首元に腕を絡めて抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと密着しすぎ・・・・・・だよ」ファムの胸が背中に当たっていた。俺はファムに少し離れるようにお願いした。


「いいじゃないか、遠慮するな」更に胸を押し付けてくる。


「うん!」詩織さんが大きな咳払いをしながらファムの首根っこを掴んで引き離した。彼女の魔王の威厳は既に無くなっていた。


「モンゴリーに未来が予知出来て、地獄界の襲来が判っていたんだ。ただ、それに皆で戦うことによりエリザが死んでしまう事を知ってしまった。それを回避する為には一人で戦うしかないと考えたんだ。・・・・・・でもそれは間違っていた。未来は決まっていないんだ。変えていけるんだと・・・・・・・」俺は拳を握りしめながら見つめた。


「そうね、モンゴリーが予知して行動を起こした時点で未来は変わっていたのでしょう。彼女の予知には、幸太郎君や私達の要素は含まれていなかったでしょうから」詩織さんは長い髪の毛を掻き揚げた。


「・・・・・・・モンゴリーと私は随分昔、恋人同士だった。だが、突然彼女から別れを告げられた。事情は言えないと言って・・・・・・・まさか、私の為とは思いもよらなかった・・・・・・・・魔界まで裏切って」言いながら神戸は俺の拳を両手で包んだ。その手の上に大粒の涙が落ちた。

 俺は自然と直美に視線を送った。彼女は俺達の様子を複雑な表情で見ていた。


 あれから数日が経過した。


 ファムと神戸は魔界へ、ソーニャも天上界に帰って行った。俺達を除いて神戸の記憶を消されていて皆美しい転校生の事は覚えていないようだ。詩織さんは天上界に帰る事無く。人間界での詩織の生活を続けるそうである。叔母さんは一気に住人が減った為か、少し寂しそうであった。


「ねえ、幸太郎君とモンゴリーはずっと一緒なの?」俺達は校舎の屋上にいた。以前の反動か最近は晴天の日が続いている。心地よい風が吹いている。


「俺達は元々一人の人間だからな、もう分かれることはないんじゃないかな」俺は適当な考えを述べた。俺の意識をベースにしてはいるが、彼女と俺の記憶は同調してしまったようである。


「あの・・・・・・・やっぱり、幸太郎君も・・・・・・神戸さんの事を・・・・・・・」直美がモジモジしながら呟いている。


「え、何か言った?」俺は聞き取れずに聞き返した。


「幸太郎君も、モンゴリーと一緒になったって事は・・・・・・・やっぱり幸太郎君も神戸さんのことが好きって事なの・・・・・・・・かな?」


「え、なんだよ急に」質問の真意はよく判らなかった。


「いえ、べ、別に何となくだけど・・・・・・・」なんだか直美が少し泣きそうな顔をしているような感じがした。


「俺とモンゴリーは一緒になっても基本の人格は俺のままだよ。神戸に特別の感情はないよ。ただ、大切な仲間だって事は違いないけどさ」思ったままを口にした。


「そ、そうなの、べ、別に好きでも構わないんだけど、その辺をはっきりさせておいたほうがいいかなと思って・・・・・・・本当よ! それだけよ!」直美は弁解でもするように慌てて言った。


「そうか・・・・・・・構わないのか」俺は深く考えずにこの言葉を口にした。


「い、いや、違う! 構わないじゃなくて」直美はなんだかパニックになっているようであった。


「どうしたんだ、直美?」


「知らない!」直美は拗ねるように呟いた。


 ところで、モンゴリーと一緒になったことで俺にも少し未来予知の能力が見についたようであった。俺には少しだけ、直美と俺の将来が見えた。だが、そのことは彼女にも誰にも言わないことにする。


 だって、未来は俺達がこれから創っていくものなのだから・・・・・・・。


                                   おしまい

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魔法使いだからって女の子の体に変わるのは理不尽じゃねぇ!? 上条 樹 @kamijyoitsuki

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