第七話 さすが『大洋伝』の主役
それほどの時間がかかったはずもないのに、キムも
一同が門に向かうと、そこには訪れたときに倍する人々に囲まれて、中央では未だに
そこに
「お前たち、姿が見えんと思っていたら、揃ってどこへ……」
「
すると
「それは願ってもないこと。もとよりこの
ふたりが共に礼を尽くして挨拶を交わしては、神官たちもこれ以上
こうして門を挟んでの押し問答はついに解散となり、
***
それから三日後、
それも
大小合わせて十二隻から成る
「王宮をすっ飛ばしてそのまま
風に巻き上げられる黒髪を抑えつけながら
「どうにも宮中は性に合わん。
大型船の旗艦にあって、船尾は一段高い位置に甲板が設けられている。手摺り越しには目の前に四角帆が広がり、その下で精を出す船員たちを見下ろせる格好だ。
「それに
その言葉通り、彼は
それは
「儂も
いったい彼らは何を話し合い、何を決めたのか。それが
「ヘンショー様は、もう島主様の敵ではないのですか?」
ふたりの後ろで風に舞う金髪を手で押さえながら、キムがそう尋ねるのももっともであろう。
だが彼女の不安を、
「安心しろ、キム。奴の目的はあくまで天下の安寧よ。
それがどういう意味なのか、
「
「そこでヘンショー様の力が必要になると?」
「奴は手持ちの札を有効に活用出来る男だ。
つまり今後衰えるだろう
「ただ
そう
船尾甲板の下から、聞いた声が
「こちらにいらっしゃいましたか、島主様。
声のする方向へ目を向ければ、そこには下の甲板から階段を上りかけた
「見た? あの、いかにも悪巧みしてますって顔」
「さすがねえ。色々と考えてらっしゃるんだわ」
「……キム、島主様が何考えてるかわかったの?」
「多分だけど」
両腕を抱え込むように組みながら、キムは少しばかり得意気に頷いてみせた。
「島主様はリンをビンから自立させるつもりなんだと思う」
「はあ?」
「それもおそらく、ヘンショー様の後押しを得て」
「はああ?!」
「だいたいなんであのふたりがそこまで仲良くなっちゃったわけ?」
その理由がわからないからと食ってかかるしかない
「これからビンが衰えるなら、リンもビンの下にいていいことないでしょう。それよりはビンから離れて、独自に他国と交渉が持てる方が都合がいい。その際にヨウの権威も利用出来るなら優位に立てるし、ヘンショー様もリンの武力を当てに出来るなら調整もつけやすい」
「ちょっと待って、頭の整理がつかない。偉い人の考えてることって、何がなんだかわからない」
キムの説明もその内容は理解出来たのだが、だからといって
「さすがはリンの島主様。それでこそ『大洋伝』の主人公よ」
一方でキムは手摺り越しに甲板を見下ろして、視界のどこかにいるはずの
そういえば彼女は、そんな魑魅魍魎が渦巻く『大洋伝』を書いた作者だったのだと、今さらながら
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