第六話 琅藍の影
拘束された
「スイ、大丈夫? どこも怪我は無い?」
最初に
「ちょっと、キム。そんなに心配しなくても、大袈裟だってば」
「だって私がまた余計なこと言ったせいで、今度は
彼女が著わした『大洋伝』の筋書きが、この世界で近しい人々を危険に投じてしまうのではないか。その可能性はキムにとって、よほど悪夢に違いない。抱きついたまま離れようとしないキムの背中にぽんと手を置いて、
「賊の離間を計るはずが、まさか首領を捉えて戻ってくるとは、さすがに儂も想像出来なんだ」
一方で
「出過ぎた真似をして申し訳ありません。ですが全ては、頃合い良く
その姿を見て、
「お前が
「……此度の不幸は、全て首領・
もっともらしい口上を述べながら
「今後、賊はお前が取り仕切る。それを約束出来るか?」
飛家と繋がりのある
だからこそ
「仰せとあらば」
そう答えて再び面を伏せる
かくして内海を騒がせた海賊騒動は、首領・
***
これで
「宰師の遣いという男なら、俺も会った」
討伐軍が進発するという段になり、日が暮れる前に旗艦を離れようとする
「ちょうどそこのお嬢さんみたいに、顔中を頭巾でくるんで隠していた。いくら秘密の遣いとはいえ、さすがに警戒しすぎだろうとは思ったが」
頭巾姿のキムを指差して、
「もしかしてそいつ、
「そうだよ、よくわかったな」
少し驚いたように目を見開いた
「お前の筆名を名乗られて、最初は聞き間違いかと思ったぜ」
「私が散々頭を捻って考えた筆名を勝手に使う不届き者よ。今度会ったら絶対にとっちめてやる」
「あんまり無茶しすぎるなよ。今回みたいなのは程々にしておけ」
今度は斜に歪んだ口元を大きく開けて笑うと、
「
船を下りる彼の後ろ姿を見届けて後、やがて旗艦から遠ざかっていく小舟を、
手摺りをつかんだまま微動だにしない
「飄々とした人ね」
キムはほとんど
「お調子者なだけよ」
ぽそりとそう呟いてから、
「それよりも聞いたでしょう? また
船の手摺りに華奢な背中をどんと預けた
キムの推測は当たっていた。
「毎度、私たちの行く先に必ず関わってくる。いくらなんでもおかしくない?」
彼女たちの行く先に見え隠れする
「ローランは私たちをっていうよりは、『大洋伝』の筋書きをなぞっているんじゃないかしら」
その言葉に
「ローランはあなたに、『大洋伝』の行く末を楽しみにしてるって言ってたんでしょう? だからきっと『大洋伝』に書かれた通りに物事が進むのか、それを見て回ってるんじゃないかしら」
「なに、その偉そうな態度」
その内容は理解出来たものの、だからといって
「いかにも自分は高みから楽しませてもらいますって、いけ好かないなあ」
「ただそれにしては、色々関わりすぎてるような気もするけど……」
一方でキムは、たった今口にした説明だけでは説得力に欠ける、とも思う。傍観者の立場を貫くなら、もっと安全な距離の取り方があるはずだろう。何も
口元に手を当ててさらに考えようとするキムの思考は、
「考えてもわかんないことで頭を悩まされるのはまっぴらよ。どういうつもりなのかなんて、当人をつかまえて聞き出せばいいの」
「つかまえるって、どうやって?」
そんな無茶なと言い返そうとするキムの前に、
「あいつが『大洋伝』の筋書きを見届けたいっていうなら――それに本当に宰師様の知恵袋なら、絶対にまだ
キムの推測の通り、
「島主様の目的が宰師様なら、私の目的は
夕陽に照らし出されて燃えるような海原を背にしながら、
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