第七話 稜へ、再び
討伐軍の大船団が紅河を上る様は、日々行き交う大勢の船を見慣れた沿岸の住民たちも目を見張るほどの壮観であった。
なにしろ対岸がはるか彼方に霞むと言われる紅河を、百隻を超える大小様々な船舶が埋め尽くして、一斉に遡上するのである。それはまるで巨大な島が意思を持って上流を目指すかのような、誰も目にしたことのないような光景であった。
「
「
「
「なんでも宰師様は、内海の賊を使って
「そいつはいくら宰師様でもやりすぎだなあ」
紅河の河口から
討伐軍は航海中に立ち塞がろうとする
もっとも実際には討伐軍の大船団との衝突を避ける口実として、
「あの佞臣を
間もなく
「
相変わらず血色の悪い
「島主様から聞いたけど、ずっと貴賓室にこもって一歩も外に出なかったそうよ」
苦笑しながら答えるキムに、
「
「大丈夫」
「放っておけば宰師様は必ず
「あなたが真名を知ってるってことは、ばれてない?」
「それはもちろん。そのことを知ってるのは
真名を唱えれば神獣は長きに渡る眠りから目覚め、この世を吹き飛ばしてしまうことになってしまうかもしれない。
キムが神獣の真名を知るという事実は、絶対に誰にも口外してはいけない。
それはふたりの間で交わされた、何にも勝る固い約束であった。
***
その「等」にはキムと
「陛下はことのほか天女をお気に召したようだ。同行してもらった方が何かと都合良かろう」
だから宮殿に向かう一団の中で、キムは頭巾も被らずに金髪碧眼をさらけ出したまま、立派な馬車に乗せられていた。
屈強な兵士たちに囲まれながら、意図的に簾を上げた馬車に座する金髪の美女。背筋を伸ばして真っ直ぐに前を向く凜とした姿は、
「なんだか居心地が悪いわ」
好奇と崇敬の視線を一身に集めて、キムは車上で心持ち身じろぎした。
「宮殿まで、少しの辛抱だよ」
キムの隣りで、
道中で聞こえた「ちっこいのが邪魔で、天女様がよく見えねえなあ」という群衆の呟きに
ここまで妨害がなかったということは、少なくとも
だから
「ひと足遅かったな。
王は疲れ切ったように背凭れに身体を預けたまま、そう言って力なく笑った。
「
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