流石に疲れました

「【ファイアボルト】!」

「ゴブアアアアア!」

「せやああああ!」

「ゴブウウッ!」


 ヴォードの放ったファイアボルトが襲ってきたゴブリン達の1体を焼き、その隙に突っ込んだレイアの振る剣が動揺した1体を切り裂く。

 ……そして、そうしている間にもニルファの剣が数体のゴブリン達を斬り殺していた。


「ふう、こんなものですか。おつかれさまです」

「……分かってはいたけど、凄いな」

「ヴォード様、私も頑張ってたんですけど」

「ああ、レイアもな」

「えへへー!」


 街道を進む3人だったが、完全に平和に……というわけにはいかない。

 ヴォードのファイアボルトは残り1枚、アイスボルトも残り1枚。サンダーボルトは残り3枚になってしまっている。

 まあ、それだけの消費で済んでいるのは……ニルファが強いからだ。

 ヴォードとレイアが1体倒す間に3体は倒しており、戦闘系のジョブである【神官戦士】の強さを感じさせた。


「しかし、そのカード……本当に面白いですね。基本使い捨てみたいですが、それでも先程のファイアボルトにしたところで、数はともかく威力だけなら本職の魔法士に劣らないように見えます」

「ん……まあ」


 ニルファの言う通り、魔法は【魔法士】に扱わせるのが一番威力が出る。

 それは【魔法士】が魔法関連のスキルを持っているからだが……魔力の多さもその要因だ。

 勿論、【ファイアボルト】のカードにしたところでヴォードに魔力がもっとあれば更に威力を出せるし火矢の数も増える。

 その辺りは、以前出たような魔力UP系のカードが出ることを祈るのみだ。


「でも流石に疲れましたー!」

「もう戦闘も3度目だしな……」


 街道を行く商人は護衛を雇ったりするが、確かにこれでは戦闘職を護衛としなければ次の街まで辿り着けないだろうとヴォードも思う。

 少なくとも長期間の旅になる場合は、戦闘に使えるカードを相当数確保していなければ難しいだろう。

 しかしカードが揃うまでの長期間を街で過ごすには当然金が要るし、その為にヴォードが出来る手っ取り早い仕事は冒険者ギルドでの仕事であったりする。

 ……もっとも【カードホルダー】に冒険者が退治系の仕事を任せるかという問題もあるのだが。


「……道行は暗いな」

「はあ、確かにそろそろ暗くなってきましたね」

「あ、いや。そういうことじゃ……いや、まあ……いいか」


 ちょっとボケたような事を言うニルファが本気で言っているのかどうか分からず、ヴォードは小さく息を吐く。

 この悩みは、ニルファに相談するような事でもないし相談したところでどうにかなるものでもない。勿論レイアに相談すれば解決するものでもない。ヴォードが自分で向き合っていかなければならないものだ。まあ、それでも……何もできなかったちょっと前と比べれば、贅沢な悩みではあるだろう。


「……ヴォード様」

「な、なんだ?」

「お悩みがあれば、いつでも伺いますからね? 私は貴方の【オペレーター】なのですから」

「……ああ。ありがとう」

「おぺれえたあ、ですか?」

「今良い雰囲気でしょーが! 邪魔すんじゃないですよ!」


 シャー、とニルファを威嚇するレイアだったが……まあ、それはさておいて。そういえば【オペレーター】という言葉の意味も知らないな、とヴォードは気付く。

(中々に情けない男だな、俺も。自分の事で手一杯で、レイアの事を知ろうともしてなかった……)

 とはいえ、ニルファが居る状況では迂闊にその事も聞けないだろう。

(一週間も二人っきりだったのにな)

 そう、二人っきりだった。だというのに、ヴォードは自分の事ばかりだった。

 つくづく自分は最低な男だと、そんな事を考え……自分をじっと見ていた2人に、思わず後ずさりする。


「な、なんだ?」

「なんだって言われましても」

「突然黙って難しい顔始めてらっしゃいましたし。何かあったのかなーと思いまして」

「「ねー」」


 先程まで喧嘩を……まあ、レイアが一方的に突っかかっていただけだが、とにかく喧嘩をしていたはずの2人の息の合いっぷりにヴォードは面食らってしまう。女性とはそういうものなのか。分からないが……自分を覗き込む2人にヴォードは「あー……」と誤魔化しに入る。


「ちょっと……色々な」

「あら。まあ、言いたくないなら突っ込んで聞いたりはしませんが」

「私は後でしっかり相談に乗りますよ! 2人っきりで! ふたりっきり! で!」

「それなら私も聞きたいですけど」

「二人っきりって言ってるでしょうが!」

「はは……」


 仲裁する事も出来ず、ヴォードは笑って誤魔化し……けれど止めないわけにも行かず「さ、進もう」と問題を後送りにする類の台詞を口にしてしまう。

 それにレイアとニルファはキョトンとした表情を浮かべるが……やがて、苦笑しながらも頷いてくれる。


「仕方ないですねえ」

「私は勿論ヴォード様の言う事に賛成ですよ!」

「ああ、ありがとう」

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