結果として、それが
「見極める……?」
警戒している様子のレイアが腕に絡みついてくるのをそのままに、ヴォードは疑問符を浮かべる。見極めるといっても、いったい何を見極めるというのだろうか?
「すまないが、あまり意味が分からない」
「あの街での戦い、拝見しました」
言いながら、ニルファはヴォードをじっと見る。相手の奥底を見透かそうとするような目で、ヴォードは居心地の悪さを感じて身じろぎする。
「……驚きました。最弱であり最悪と言われる【カードホルダー】の、あまりにも華麗な勝利」
「あまりそうは思われていなかったけどな」
「現実を認められなければそうなります。マジックアイテムと散々騒がれてはいましたけど、あのようなモノは私は寡聞にして存じません」
「……」
「とはいえ、マジックアイテムは個人でも作成可能なもの……そういった個人製作の代物であると考えるのが自然ではあります」
「それを紹介しろ……って意味ではないんだよな」
それでは人物を見極めるとかいう話と繋がらない。それでもヴォードがそう聞けば、ニルファは「勿論です」と返してくる。
「もしそんな人が存在していて紹介してくださるとしても、あまり興味はないですねえ」
「……なら、何がしたいんだ?」
「単刀直入に伺いますが、アレが【カードホルダー】の知られざるスキル……で間違いありませんよね?」
「ああ、そうだ」
隠したところで意味のないものだ。【カードホルダー】がカードを使う。これ以上簡単な連想ゲームはないし、戦闘スキルとして誤魔化すというのはレイアとも話していた事ではある。
「……なるほど。意外とアッサリ答えてくださいますね」
「隠しても意味が無いからな。だが、習得条件などは答えられない」
「あ、それは別に良いです。【カードホルダー】なんて私は貴方しか知りませんし、そもそも存在してたのがビックリです」
「そこまで言うか……」
「だって、レアすぎて……ジョブとして存在してるのは知ってましたが、実物にお会いするのは初めてです」
……まあ、確かに【カードホルダー】の力を考えれば、あまり出現するジョブでないだろうことはヴォードにも理解できてしまう。
「まあ、それはいい。で、これで見極めっていうのは済んだんだろうか?」
「いえ、まさか。本題は此処からですよ?」
「本題……」
「きっと、貴方達にも良い話だと思います」
ニコニコと笑顔なニルファが指を一本たてながら「自信をもってお勧めできますよ!」と言うのを、レイアが胡散臭そうな目で見る。
「胡散臭っ……」
いや、目だけではなく実際に言った。ヴォードは思わず「こら、レイア」と窘めてしまう。
「だってヴォード様、胡散臭いですよ……お得とか良い話とか最初に切り出してくるタイプの話には、ロクなものがありませんよ?」
「それはそうだろうが……それでも一応聞いてみないと」
「むー」
不満そうなレイアだがそれ以上は何も言わず、そんな2人の会話が終わったのを見計らい、ニルファはずいっと身体をヴォードに近づけてくる。
「しばらく、私を同行させていただけませんか? 形としては、お二人を私の護衛として雇うということで」
「護衛……?」
【カードホルダー】に割り振るには大きすぎる案件にも思えるが、レイアが「あー」と声をあげる。
「つまり金を払うからヴォード様を近くで見せろってことですね?」
「平たく言えば。私も明確な目的地があるわけではありませんので、行先はヴォードさんが決めていただいて結構です」
「そうは言うが……」
「形としては護衛ですが、私も戦闘には積極的に参加します。期間としては、私がある程度満足するまで……ということで」
デメリットとしてはニルファに自分の事を探られるということだが、それ以外でいえばデメリットはない。まあ、そのデメリットが大きい気もするが……。
「……ちょっと待ってくれ」
「ええ」
ヴォードはレイアの腕を引っ張ると、少し離れた場所へ連れて行き小さく囁く。
「レイア」
「はい。個人的には断った方が無難ですが、それはそれであの女に余計な興味を持たせるだけかと」
「……だよな。普通にいえば、美味しい依頼ではある。断るのは『何か隠したい』と言ってるも同じ……か」
一般的感覚でいえば、むしろメリットだらけで……それ故にヴォードには大きな疑問があった。
「なんで、そこまで俺の事を探りたいんだ?」
「んー。あまりご自身の評価が高い方ではないのですね?」
「え? そりゃ……」
「最弱にして最悪のジョブと言われた【カードホルダー】。けれど、もしそうではないとしたら。その可能性を見た私が興味を持つのは、そんなに不思議な事でしょうか?」
それは……なるほど、その通りだろうとヴォードも思う。
「だが、期待に沿えるとは限らない」
「それならそれで。ただ……」
そこで一度言葉を切って、ニルファは薄く笑う。
「……出来れば、私の欲求を満たしてくれる事を望みます。結果として、それがヴォードさんの幸せに繋がるでしょうから」
「俺の幸せに……?」
「ええ」
何を言っているのか分からず疑問符を浮かべるヴォードに、レイアが抱きつき叫ぶ。
「えっちな意味ですか、この痴女!」
「あと、そこの桃色思考さんも抑えておいてくださると……」
「私は誰彼構わず色気をまき散らしたりしません!」
いや、今のはあんまりフォローできないんじゃないだろうか。そう思いながらもヴォードは言えず、少しだけ遠い目をしていた。
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